人間椅子『新青年』インタビュー
人間椅子 和嶋慎治×メイプル超合金 安藤なつ、念願の邂逅 音楽・バイク・高円寺を語り合う
デビュー30周年記念アルバム『新青年』を2019年6月5日にリリースする人間椅子・和嶋慎治。その人間椅子のファンであることを、メイプル超合金以前のぷち観音時代から公言しており、人間椅子Tシャツを着用している写真を自身のSNSにアップしたり、ライブに足を運んだりしている、メイプル超合金・安藤なつ。
ただしこの両者、顔を合わせたことはないそうで、30周年ということだし、あと大充実のニューアルバム『新青年』をぜひ安藤なつにいち早く聴いてほしいし、リアルサウンドで対談なんていかがでしょう? と打診して実現したのが、以下のテキストである……いや、実現した対談のうちのほんの一部が以下のテキストである、と言った方がいいか。いざこの両者が会ったところ、共通項の多さゆえに話はどこまでも転がる一方、心を鬼にして削ったのですがそれでもほぼ8,000字あります。じっくりお楽しみいただければ幸いです!(兵庫慎司)【最終ページに安藤なつによる人間椅子ベストソング・プレイリストを掲載】
安藤なつ、初めての人間椅子は幼少期に聴いた「陰獣」
ーー会うのは今日が初めてだそうで。
安藤なつ(以下、安藤):初めてです。だから、CDとTシャツを送っていただいたお礼も、ご本人にはちゃんと言えてなくてですね。
和嶋慎治(以下、和嶋):いえいえ。Tシャツ、着ていただいていて。ありがとうございます。
ーー突然送られてきたんですか?
安藤:そうです。電車で移動する時に音楽を聴いてるんですけど、「今日のガタゴトミュージック 人間椅子『品川心中』」みたいにTwitterでつぶやいたりとか。あとプロフィールに好きなものを羅列していて、「さといも イカ 人間椅子 伝記」とか。それで送っていただいたんですかね、すいません。
和嶋:いやいや、こちらこそ、食いついたみたいですいません(笑)。レーベルのスタッフが気がついて、「じゃあTシャツ送りますか!」とか、そういう流れで。
安藤:むちゃくちゃうれしかったです。「はっ! 届いているってことは、知っているってことだ!」と思って。
ーー安藤さんはいつ頃から人間椅子を?
安藤:小学校ぐらいに『イカ天』(『三宅裕司のいかすバンド天国』)で、「陰獣」を観て。おどろおどろしい感じで、めっちゃ重たい音楽で歌ってる人がいるっていうぼんやりした認識でしかなかったんですけど。で、26歳の時に東京に出て来て。お笑いプロレスをやっていたんですよ、西口プロレスという、長州小力さんの団体で。そこにいる三平×2という先輩が、「人間椅子ってバンド、かっこいいよ」って、うちにVHSを持ってきて。「黒猫」っていう曲で、「あれ? このバンド、観たことがあるなあ」と思って。子どもの頃に観た「陰獣」を思い出して、「はっ! やっと辿り着いた!」と。10年ぐらい前ですかね。
ーー当時の人間椅子って、どんな時期でしたっけ。
和嶋:10年前は……今年でデビューして30周年になるんですけど、最前線みたいなところには、あんまりいたことなくて。『イカ天』の頃は、けっこうテレビに出たりもしたんですけど、その後、一度インディーズになったりとか……十数年、あまり表に出ない、苦しい時期があって。それが終わりかけてきた頃だと思いますね。10年くらい前から、また動員が増えだしたんですよ。だから、そういう形で安藤さんのようにまた僕らを発見してくれた、みたいなことが、いろんなところであったのかもしれませんね。
安藤:それで「めちゃくちゃかっこいい!」と思って、三平さんにライブに連れて行っていただいて。音源だと自分のノリで聴ける感覚ですけど、ライブだと……なんていうんですか? プログレっていうんですか?
和嶋:ああ、そういう感じの曲もありますね。
安藤:なんか急に「ンッ!」って展開が変わるような。
和嶋:そう、ノレないってよく言われます。
安藤:それが「ああ、ライブでしかわかんない感覚なんだな」っていうのはありましたね。
和嶋:ライブは、お客さんと一緒に作る空間なんですけど、それを主導するのは、ステージに立ってる演者だから。部屋でCDを聴くのは、聴いてる人が主導権を握ってるからね。
安藤:でも3ピースバンドの厚みじゃないっていうか。素人だからわからないんですけど、5、6人いるんじゃないかみたいな音の厚みで。それに感動しましたね。
両者が語り合う、高円寺の人をダメにする魔力
ーー安藤さん、メイプル超合金になって、売れたのって何年でしたっけ?
安藤:『M-1グランプリ』の決勝に行って、お仕事いただけるようになったのが、2015年ですね。
ーー人間椅子が20数年ぶりに渋谷公会堂をやってソールドアウトしたのってーー。
和嶋:同じぐらいの時期じゃないですかね! その頃だと思いますよ。
安藤:うれしいです! 共通項。でも、『屈折くん』(和嶋の自伝。2018年刊行)を読ませていただいて……自分もずっと高円寺から離れられなくて。
和嶋:あ、高円寺に住んでたの?
安藤:はい。26歳から10年ぐらいはずっと高円寺に。2年ぐらい前に引っ越したんですけど、今、「また戻りたいな」って思っちゃっていて。
和嶋:いや!(笑)。
安藤:やめたほうがいいですか?
和嶋:よく言われてるじゃないですか。高円寺から出ないと売れないって。
安藤:あ、そうなんですか?
和嶋:あ、知らない? そうか、じゃあ音楽界隈だけで言われてるのかな。フォークの時代から言われてるんだけど。
安藤:そうなんですか。芸人界隈では聞いたことないですね。
和嶋:確かにまわりの人を見てると、高円寺から出た方がやっぱり売れるのかなあ、っていう気はするよ。自分も生活が楽になったので(笑)。
安藤:あ、そうなんですね。
和嶋:うん、動員が増えてきた頃、「やっぱ出た方がいいのかな」と思って。住みやすいんですよ、高円寺って。
安藤:めちゃくちゃ住みやすい!
和嶋:昼間から酒飲んでてOKだし。特にロックやってる人間は、だらしない人間が多いんで(笑)。向上心が芽生えきれないっちゅうかな。「これでいっか」みたいなことになってしまうんですよ。でも、高円寺の外に出ると「あ、このままじゃいかんな」っていう気持ちになるっていうか。だからまあ、夢のような街なんですけど。すごい青春っていう感じがするのよ。
安藤:はい、します。もう離れたくなくて、引っ越してからも毎日行っちゃいます。住んでる街で全然遊ばないっていうか。住んでなければ大丈夫ですかね? 住所に「高円寺」って入んなければ大丈夫、っていうことですかね?
和嶋:はははは。いや、すごいディスってるみたいで悪いけど、でもたぶん、こう言っても高円寺の人、怒らないと思うんだよね。俺ももちろん愛があって言ってるんです。通算20年ぐらい住んだし、自分の青春の街だと思ってるんで。きっと住んでた時期、かぶってますよね?
安藤:あのー、四文屋(居酒屋)の前にいらっしゃいませんでした?
和嶋:あ、四文屋よく行ってた。それ、僕です。
安藤:やっぱり(笑)。「すごく似てるんだけど、話しかけたらあれかなあ……」と思って。本にお酒のことも書いてありましたけど、今はもうあんまり、たしなむ程度の感じですか?
和嶋:うん、たまにたしなむ程度にしてますかね。一時はたぶんアル中でしたから。高円寺にさ、桃園川の緑道、花壇がずっとあるじゃないですか。あそこで寝てたもんね、俺。
安藤:はははは! いや、すごく居心地がいいんですよね、あの緑道。
和嶋:やっぱり一緒の時代を過ごしてたんだ。しかも、お互いに売れてない頃に。
安藤:そうですね。それがこういう形でお会いできるなんて。うれしいです、すごく。