人間椅子 和嶋慎治×メイプル超合金 安藤なつ、念願の邂逅 音楽・バイク・高円寺を語り合う

和嶋慎治×安藤なつ特別対談

安藤なつの波瀾万丈な芸人人生

和嶋:いろんなとこで聞かれてると思うんですけど、俺が聞きたかったのはなぜお笑いをやろうと思ったのかな、っていう。

安藤:きっかけは中2の時に夜中のネタ番組で、女性がひとりで叫んでたんですよ。「相方に逃げられたー!」って。「相方募集中」っていうフリップを立ててネタをやっていて。その方に手紙を出したんです。

和嶋:ええっ?

安藤:「私が相方やります」と。お笑いには興味あったので。で、返事が来まして。「すみません、実は就職先が決まっていて、もうお笑いやめちゃうんです。がんばってください」っていう。「あ、ちゃんと返してくれるんだ?」と思って。で、中学を卒業して高校1年の時に、太田プロのセミナーに通っていた男子ふたりと知り合って、自分が加入したっていう形でライブに出るようになったんです。

和嶋:その一緒に組んだふたりっていうのは、いくつぐらいだったの?

安藤:24歳とかそれくらいでした。自分は16歳で。で、ひとり抜けて、男女コンビになって。その男性に彼女ができて、ネタ合わせに彼女を連れて来るようになって。ネタのダメ出しをするようになって、「やめちまえよ!」って。それで終わりました(笑)。すいません。

和嶋:いや、あるあるみたいでわかる。バンドの練習に彼女連れて来たりするっていう。それ、イヤなんですよ。

安藤:イヤですよねえ? すっごいイヤです! ああ、よかった。

ーーだって、それこそビートルズの昔からねえ。

和嶋:ねえ? 俺、子どもの頃ビートルズ好きで、当時の写真を見て「なんでここに女がいるんだ?」と思ったもんな(笑)。

安藤:何回か「彼女連れて来るのやめろ」って忠告はしたんです。で、やめてもらって、ネタ合わせに1時間半かけて、実家からその相方の家に行ってたんですけど、なんかゴロゴロしてるんですよ。「サッカー観たい」とか。仕事もしていて、「疲れた」とか言ってるから、「あ、やる気ないんだな」と思って、「じゃあやめちまえば?」って終わって。その彼女と結婚して、今、幸せに暮らしてます。

和嶋:なんだ(笑)。むしろよかったですね。

安藤:はい。その次は、西口プロレスに入ったんです、20歳の時に。太田プロのセミナー生の知り合いから電話がかかってきて、「プロレス団体を立ち上げたから、もぎりをやってくれ」って。で、行ったら「リング上がっちゃえば?」みたいになって。カラーバットを渡されて、対戦相手をボコボコにするっていうのでデビューから28歳までやっていました。

和嶋:へえー。いやあ、おもしろいですねえ。

安藤:いえいえ、もう、浮草のようにしていたらーー。

和嶋:いや、言葉が悪いけど、そういう「ああ、ムダなことしてきたなあ」と思うようなことでも、なんだかんだ言って役に立ってたりするじゃないですか。表現する上で。

安藤:ああ、それがなかったら……っていう。確かに。

和嶋:何か表現する人にとっては、ムダなことの方が役に立ったりするからね。

安藤:そのムダなことのどれひとつ欠けても、今ここにいない感じはします、すごく。

和嶋:お笑いをやることの、どこにいちばん魅力を感じます?

安藤:そうですね……あの、ライブは生だからお客さんからのリアクションが直にくるじゃないですか。ウケるもスベるも。それってすごくうれしいなとは思いますね。

和嶋:ですよね。お笑いでウケた時の幸せ感は、ほかとは比べられないって聞いたことがあるので、そうなのかなと思って。

安藤:ああ、そうですね、すごく、「何と一緒?」って言われたら……なんだろう……比べらんないですね。なんだろうなあ……卑猥な話になっちゃう(笑)。

和嶋:たぶんそれよりも幸せな感じだと思うよ。

安藤:そうだと思います。

和嶋:俺もライブがそうだったりするから。あと、いい曲を作れた時もそうですね。感動して泣いちゃったりするのよね。自分の曲に泣くって、すごいナルシストみたいですけど。でもその幸せは、ほかにないんですよね。だからやっぱりやめられないっていう。

和嶋「売れなかった10年には感謝」

ーーおふたりには「やめようかな」と思った時期はありました?

安藤:私は、今の相方、カズレーザーと2012年から組んでいるんですけど、その前に女の子と組んでたんですね。3年弱。そのコンビで最後にしようと思ってやってたんです。

和嶋:あ、そうなんだ?

安藤:30歳と31歳だったので。それで、根を詰めてライブに出て、結果出したい! みたいにやってたら、相方が私の必死さに耐えられなかったんでしょうね。「もう無理だわ」ってなって、じゃあ自分も引退しようっていう時に、カズレーザーが「組みません?」みたいな感じで来て。何があるかわからないです、本当に。

和嶋:続けてる人で残ってる人って、意外にそういうさ、神の手が差し伸べられる、じゃないけど、「続けなさい」って言わんばかりのタイミングの良さで何かがある。だから続いてたりするんじゃないかな、と思う時がある。僕ら、「次のCDどうしよう?」っていう時に、必ず別のレコード会社の方が来て「出しません?」ってなって、続いてきた部分があるんで。

安藤:ああ、やっぱそういうの、あるんですね。

和嶋:あまり言うとおこがましいんですけどね、自分が本当に続けたいものは、ちゃんと誰かが続けさせてくれるんだな、っていう気がする時があるんですね。

安藤:ああ……そうかもしれないですね。でも、改めてすごいですよね、30年やり続けることって。絶対何か、途切れる瞬間ってあるじゃないですか?

和嶋:ああ、気持ちとかね。あと発想とかね。

安藤:枯渇する瞬間が、クリエイターの方はあるんじゃないかなと思うんですけど。

和嶋:ややそうなりかけたかもっていう時は、正直、あったりもしましたけどね。売れなくて、なんとなく落ち気味で、あと自分の生活がうまくいってなかった頃は……ほんとに一瞬ですけど、『怪人二十面相』(2000年リリース、10枚目)の頃かな。ただ、この時、メンバーの鈴木(研一)くんがいい曲をいっぱい書いたので乗り越えられたんですけど。その手前でちょっと高円寺から離れてたんですけど、その次の『見知らぬ世界』っていうアルバムの時に、また高円寺に引っ越すんですよね(笑)。なぜかこの時は高円寺に戻ろうと思ったんだよなあ。

安藤:(笑)。なんでですかね?

和嶋:青春の情熱が高円寺にはあるのではないか、と思ったのかな。あの時は高円寺が輝いて見えて、それからまたずっと住みだすんですけど。

安藤:やっぱり何かあるんですね、高円寺には。

和嶋:うん、何かもらいましたよ。でもなかなか生活は厳しいし、やっぱり苦しかったですよ。毎日アルバイトアルバイトで、身体も厳しいし。すごい悩んで、本も読んだりしたんですよね。

安藤:どんな本を?

和嶋:哲学の本とか読んだりして。その中でなんかこう、見つけられたんですよね、自分は。酒にも溺れちゃったし……でも、苦しんだおかげで、逆に表現できるっていうのはすごいありがたいことだとか、せめてちゃんとして生きようとか、思えたんですよね。それまではだらしない人間だったんですけど。苦しんだからこそそう思えたんだなって。だから、売れなかった10年には感謝してますね、俺は。

ーーよくそこから上がってこれましたよね。

和嶋:うん……なんか、すごい気がラクになったんですよね、自分の中で。せめて美しく生きたいと思った時があったんですけど、そう思えたら全部OKになっちゃって。今もそれは持続してますけどね。それから人に腹立つこともほぼなくなりましたし。

安藤:悟りじゃないですか。

和嶋:いや、本当の悟りじゃないです。全然煩悩ありますから、僕(笑)。ただ、なんか、やさしくはなれましたね。生まれ変わったみたいな瞬間があるとしたら、自分はそこだったな。それから、曲で枯渇するみたいな感じにはならなくなったんだよな。「あ、こういうことを書けばいいんだ」って思えたんですよ。……人間の本質……言葉で言えないんだけどね、いろんな言葉で「人間の本質は光だ」とか言ってみたり。死んだとしてもそれはあなたの魂ではなく入れ物が死ぬだけ、みたいな……核みたいなものが見つけられたかな、っていうのがあって。それで苦しくなくなったんですね。

共通の趣味はバイク

ーーまさに、哲学って本来そういうものですよね。

和嶋:そう、哲学って本当は、人が生きるための学問なんだよね。難しい勉強じゃないんですよ……あ、バイクの話もしたかったんだ。

安藤:私もです。和嶋さんの今のバイクは?

和嶋:僕は、今乗ってるのは、125(cc)です。スズキのGN125Hっていう。しばらくスクーターとか乗ってたんですけど、ミッション付きのバイク、もう一回乗りてえなと思って。

安藤:どういうのですか?

和嶋:あ、見る?(スマホを出す)。

安藤:あ、めっちゃかっこいい!

和嶋:デザインがね、古いんです。

安藤:これ、いいなあ。私の体重には耐えかねるタイヤですけど(笑)。

和嶋:バイク、昔、レーサーレプリカブームってあったんですね、私の青春時代に。このバイクはその直前に出たんだけど、ブームがきたからこんな形なんて全然不人気で、ひっそりと生産が終わっちゃったんです。でも、中国のスズキではこれを今でも作っていて、世界中に輸出していて。新車で買えるんですよ。これに乗ったら、またバイク熱に目覚めちゃって。安藤さんのバイク、ハーレーなんですよね? 見たいです。

安藤:はい!(スマホを出す)

和嶋:(見る)うわ、キレイだねえ、このバイク。何cc?

安藤:1860ccです。

和嶋:すげえ!

安藤:ファットボーイっていうモデルで、ファットガールが乗っている(笑)。『AKIRA』ってアニメが、小学校4年生の時に公開されて。それでバイクに魅了されて、絶対乗ってやると思って。金田(正太郎)が乗ってるバイクじゃなくて、敵のジョーカーってキャラが乗ってるアメリカンにしようって。

和嶋:アメリカンが好きなのね。

安藤:好きです。ずっとアメリカンしか乗ってこなくて、最近バイクの番組で、R25っていうスポーツタイプのバイクに乗ったらーー。

和嶋:ああ、ヤマハの。YZF-R25。

安藤:はい。「こんな曲がれんの? 何これ!」って思って(笑)。今までなんであんな苦労して乗ってたんだ? と思いましたけど。

ーー安藤さんがバイクに乗り続けている、その魅力というのはどういうところですかね。

安藤:なんですかね? ……夜中、急にどっか行きたいと思った時に、連れて行ってくれるから。それがいちばん、自分の中では。

和嶋:わかる。車じゃないんですよね、バイクなんですよね。夜、急に走りたくなるんです。俺、学生の頃……その時は三茶(三軒茶屋)に住んでたんだけど、気がついたら富士山にいたってことがある(笑)。

安藤:すごい! でも、わかります。どこまでも行きたくなる。最近では、「プチツーリング行こうよ」って誘われて、軽装で後ろに友達を乗っけて行ったら、宇都宮まで連れて行かれて(笑)。「いや、プチじゃない!」と思って。薄着で寒くて、高速で凍えるかと思いました。

和嶋:夜中にひとりでどっか行ったりします?

安藤:夜中のドンキ(ドン・キホーテ)に行っちゃうんですよ。

和嶋:ああ、やりますよ。今も全然やってるわ。とりあえず、夜開いてるし。

安藤:しかもバイクは駐輪代が無料なんですよ。気軽なんですよ、すべてが。

和嶋:コンビニではないんですよね。やっぱドンキぐらい駐められるとこがほしいよね。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる