K-POPはなぜ世界的ブームとなったのか? 世界最大級のK-Cultureフェス『KCON』仕掛け人に聞く
5月17〜19日まで幕張メッセ国際展示場ホールにて開催され、TWICE、IZ*ONE、PENTAGONら人気グループからCherry BulletやITZY、AB6IXなどの期待の新星まで、多数のK-POPアーティストが集結した『KCON 2019 JAPAN』。日本での開催は今年で5度目となり、アーティストによるライブだけでなく、ドラマ、韓国最先端のファッション、コスメ、フードを体感できる世界最大級のK-Cultureフェスティバルと呼ばれるまでに成長した。世界各国をキャラバンのように回る『KCON』開催に至るまで、そして世界的なK-POPブームについてCJ ENMの音楽コンベンション事業部門・チーム長、キム・ドンヒョン氏に話を聞いた。(編集部)
『KCON』が最初に目指したのはアメリカだった
ーー『KCON』開催に至るまでの経緯を教えてください。
キム・ドンヒョン氏(以下、キム氏):私はもともと『KCON』を企画する前、アーティストの国内外でのツアーの企画、展開をしていました。それと時期を同じくした2000年後半〜2010年前半ごろには、K-POPに限らず、K-Culture、K-Drama、K-Food、K-Beauty , K-Cultureが徐々に拡大し、世界各国でK-Cultureのマーケットが作られ始めていました。CJグループではドラマや映画、F&Bなどのビジネスも行なっていたので、その頃に韓国カルチャーを総合してビジネス化するプラットフォームを作るという話があがったんです。グローバルを担当していた各部署の担当が集まり、まずは部署ではなくタスクフォースが作られ、今のコンベンション事業部の局長であるキム・ヒョンスが責任者となり、『KCON』を開催することになりました。ビジネスとしてコストもかけますが、ゆくゆくは収益源になることも目指す、多くの企業にも参加してもらえる総合的なプラットフォームを作るという戦略でした。これまでになかったものなので、内部では賛否両論があり、議論する過程が非常に長かったという背景があります。
ーー最初に開催されたのはアメリカ・ロサンゼルス(2012年)だったそうですね。
キム氏:当時、K-POPやドラマ、映画は日本やタイ、中国などアジアを中心に人気があり、アジア各国でアーティストがツアーを行なうなどある程度のマーケットを確保できていました。しかし、アメリカは未知の世界で、まだ本格的な参入を果たせていない時期でした。だからこそ、従来になかったK-Cultureの新しいプラットフォームを作る上で、新しいマーケットであり、ポテンシャルと将来性のあるアメリカを目指そうと考えたのです。しかし、初めから多くの事務所が参加したわけではありませんでした。アジアでの活動に集中しているので余力がないということで、アメリカのマーケットに対して興味を示さない事務所も多かったのです。2013年から本格的にチームを発足させ、アメリカから徐々に規模を拡大し、今に至りました。アメリカでの『KCON』が成功していなかったら、日本で開催することはなかったでしょう。
ーー『KCON』開催にあたり、アーティスト側からはどんな反応がありましたか。
キム氏:現在はアメリカのニューヨークとロス、日本、そして昨年から始まったタイと年4回開催していますが、当初の企画内容はアメリカの消費者を徹底して狙ったものでした。様々な調査をし、アメリカの消費者の特徴を分析したところ、アメリカのファンは自分について語ることやコミュニケーションをとることが好きだということが判明しました。単にショーを観るのではなく、自分が参加して経験を分かち合うといった文化に慣れているんです。例えば、日本でも行なっている「MEET&GREET」はアメリカで最初に導入したイベントです。しかし、アーティストは当初そういったイベントに慣れておらず、自分が準備したステージを披露することが中心だったので、「なぜファンと実際にあって話をしなければいけないのか」「なぜ写真を撮ったり握手までするのか」といった反応があった。非常にプレッシャーだったと思います。また、アーティストとファンは適度な距離を保つのが望ましく、距離を縮めれば縮めるほどリスクがあるというのがアーティスト側の考えで、当時の文化でした。しかしアメリカでは他のマーケットと同じようなアプローチでは成功できないと判断し、「MEET&GREET」を導入しました。当時は今よりもファンとの交流の場が多く、グッズも今より数が多かったり、実際にアーティストに会って一緒に食事をするというコースまでありました。第1回目は観客、アーティスト、私たち、そして参加企業も初めての試みだったので戸惑いましたが、様々なフィードバックがあり、『KCON』が持つ強みを結集してコンテンツを強化していきました。
ーー「MEET&GREET」などアーティストと接する場は今も受け継がれていますね。
キム氏:日本にもある「K-Culture ステージ」には来場者が交流できる場所があり、アメリカでは日本の5倍ほどの規模になっています。今はアメリカに比べると参加者が少ないかもしれませんが、日本でもこのようなプログラムを継続して行なっているのは、マーケットは常に変化し、多様性を持っているからです。そうすることで日本の観客も関心を示してくれる可能性があると考えています。現在人気があるかどうかを考えるだけでなく、次に人気が出そうなものを同時に提供することが大事。半歩先を行かないといけないと考えています。日本の『KCON』で言えば、K-Cultureステージのほか、ファンが参加するワークショップなどがその1つです。
ーー『KCON』における日本独自のコンテンツにはどのようなものがありますか。
キム氏:日本は世界で最も韓国カルチャーに親しんだ歴史が長い国です。日本の消費者の嗜好はどの国よりも深みがあるので、日本市場が一番難しく、日本の消費者1人ひとりの好みに合わせて満足させられる企画を考えなくてはいけないと思っています。日本独自のコンテンツとしては「We Are K-POP ZONE」というIZ*ONEらが参加するゾーン(アーティスト公式グッズ、写真展示会、オーディション関連ブースなどを設置したゾーン)があります。アーティストと交流する企画など、アメリカで成功したものをそのまま導入しても反応は良くなかったのではないか、と今になっては思います。
ーー日本では2015年にスタートしましたが、当時からどんな変化がありますか。
キム氏:当時は他国より日本での活動を希望するアーティストの事務所が多かったので、そういった部分にポイントを置きました。しかし、私たちは『KCON』をグローバルに活動したいというアーティストがたくさん集まる場にしたかったんです。アーティストに接するだけでなく、細かいところまで知ることができるようなコンテンツを作ろうと思っていました。その一つが「We Are K-POP ZONE」のアーティストブースです。参加する企業や事務所が年々増えており、来年はもっと増えるかもしれません。
ーーアメリカでも非常に人気を得ているBTSですが、ここまでのお話を聞いて、人気の理由の一つに『KCON』もあるのではないかと感じました。
キム氏:BTSは初期の2~3年、『KCON』に参加してくれました。それを見た企業が可能性を感じ、かっこいい姿を見せるだけではファンを満足させられない、様々なコンテンツを提供し、アーティストを知ることができる道を作るべきだという考えが普及し始めたと思います。BTSが世界でヒットしたのには『KCON』の影響もある、というのは内々ではお互い思っているかもしれません(笑)。『KCON』では全てのアーティストに公平な機会をまず与え、『KCON』後の反応が良かったアーティストには様々なプログラムでサポートし、翌年にはまた全てのアーティストに公平なチャンスを与え……というのを繰り返しています。『KCON』をベースにして、より容易に海外に進出してもらいたいと思っています。多くのアーティストが『KCON』に出演している理由は日本や海外のマーケットに参加する上での『KCON』のメリットを知っているからだと思います。