シングル『Ahead Ahead』インタビュー
雨のパレードが語る、“第二章の始まり” 「新しい刺激を貪欲に取り込んでいきたい」
雨のパレードがシングル『Ahead Ahead』をリリースした。
バンドにとって“第二章の始まり”という新曲は、共同プロデューサーに蔦谷好位置(agehasprings)を迎えたダンスナンバー。シングルには躍動感あふれる表題曲と、それと対をなす緻密でディープな「/eɔː/」、さらにはNeetz(KANDYTOWN)、荘子it (Dos Monos)によるリミックス3曲が収録される。
今年1月にベースの是永亮祐が脱退し、福永浩平(Vo)、山﨑康介(Gt/Syn)、大澤実音穂(Dr)の3人組となった彼ら。楽曲制作の背景だけでなく、より自由度の増したサウンドプロダクションについて、そして彼らが刺激を受ける同時代のグローバルな音楽シーンの潮流について、語ってもらった。(柴那典)
曲をイメージに近づける作業がより早くなった(山﨑康介)
――バンドにとって確実に新しいスタートになるシングルですね。リミックスも含めて新しい扉をどんどん開けてる感じがするし、端的にすごくいい曲だと思います。
全員:ありがとうございます。
――この『Ahead Ahead』という曲を作る最初のきっかけはどういうところにあったんでしょう?
福永:僕らとしてもここから第二章だというスタンスではいたんですけど、実はそれに向けてこの一曲を作り始めたというわけではなくて。蔦谷(好位置)さんとやることが決まってたんで、まずは一回やってみようということで合宿に入って曲をいろいろ作っていったのが始まりです。
――蔦谷さんと一緒にやることの方が先に決まった。
大澤:そうですね。去年だったかな。
福永:いくつか曲を聴いてもらって、そこで何か引っかかるものがある曲をいくつか出してもらって、それでこの曲を進めていくという形になりました。
――これまで雨のパレードって、基本セルフプロデュースでやっていましたよね?
福永:そうですね。名義上はプロデューサーのクレジットがあったこともあるんですけど、僕らとしては自分たちでやってきた自負がある。とは言って、プロデューサーをつけることを嫌厭しているわけではなくて、あくまで自分たちで手探りでやってきた延長線上で、蔦谷さんとやることになったんです。ただ、インディー時代に「プロデューサーをつけるなら」みたいなことをメンバーだけで話した時に挙がったのが蔦谷さんだったりしたんで、一緒にやってみたい気持ちは少なからずみんなの中にもあったので。だから、このタイミングでできて、非常にうれしかったです。
――蔦谷さんと一緒にやることだけじゃなく、バンドが新体制になったことも含めて、いろんなタイミングとしてバンドの第二章のスタートをイメージした。
福永:そうですね。自分たちはこれまでセッションで曲を作ってきたんですけど、このタイミングでデスクトップ上で曲を作るようになったわけだし、いろんなタイミングが合わさったような気がします。
――デスクトップで曲を作るようになったのも今回からなんですね。
福永:メンバーの脱退があって必然的にセッションができなくなってしまったのが大きな要因のひとつなんですけど、もともと興味はあったんで、DAWは揃えていたし、興味あるプラグインも買っていたし、やろうという意思はあったんですよ。それをいよいよ本格的にやるようになった。今は楽しんで作っている状況ですね。今まではセッションで作っていたから、自分たちの手で鳴らせる楽器でしか作っていなかったんですね。でも、その枠が外れたんで、貪欲に入れたい音を入れていける状況になっているという。
――サウンドの変化は、『Change your pops』、そして『Reason of Black Color』と、徐々に現れていたと思うんです。いわゆるバンドサウンドの方法論で鳴らしきれない音が如実に増えてきている。
福永:そうですね、確かに。それが今、ここのタイミングで決壊してしまったみたいな(笑)。
――その自由度が今回さらに増えたことによって得たものはどういうものだと思いますか?
福永:やっぱり、レコーディングを終えてから詰めていた作業をレコーディング前からできるのが大きな違いかなって思ってます。細かいところで言ったら、たとえばフィルターとかサイドチェインコンプのエフェクトをかけて音色を変えていくような作業にしても、今までは声の重なり方とか、全体にかけたりとか、そういうものはレコーディングを終えてミックスまでに考えてたんですね。それが曲作りの段階で考えられるようになった。それが一番大きな点かなと思ったりしますね。あとはライブ表現もだいぶ変わってくるとは思います。
――なるほど。サウンドデザインが作曲と地続きの発想になった。
福永:そうですね。だからこそ、今すごく楽しめていたりもしますね。
――この感覚はメンバー全員が共有しているものなんでしょうか?
山﨑:はい。僕はもともとギターのみでやってたんですけど、2年前から新しくシンセサイザーも触りはじめて、そこからいろんな音の作り方、出せる音の選択肢が増えたんですね。その延長線上で、スタジオにもパソコンを持ち込んで、ソフトウェアで音を出せるようになった。単純に作曲をする時の選択肢が増えたっていうのと、よりリアルタイムでそれをできるようになったんで、曲をイメージに近づける作業がより早くなった、よりやりやすくなった感覚はありますね。
大澤:私も2年前くらいから、ドラムマシンを入れたり、自分では出せないビート感に挑戦したりしてるんですね。今はそういうアイデアもすぐに試せるんで、これまではレコーディングにすごく時間がかかっていたんですけど、これからはしっかり音のイメージを作りこんでから臨めると思います。
――リズムというところで言うと、今回の曲ではいわゆるアフリカンビートを取り入れた四つ打ちのダンスミュージックになっていますよね。「ドッタ、ドッタ」と跳ねるビートのテイストが入っている。このモチーフはどういうアイデアから生まれていったんでしょうか。
福永:僕らで作ったネタの段階では全然違うビートだったんです。ただ、これを作っている段階で蔦谷さんが「大胆に変えていいか」っておっしゃって。僕も「アフリカンビート的なリズムって、ノリもいいし、少し前に流行った感じですけど、好きです」という話をして。「そこに四つ打ちをプラスするのはどう?」っていう蔦谷さんの提案があって。それでこうなった感じです。蔦谷さんは本当にいろいろ刺激を与えてくれる素敵な方で、いろんなことを勉強させてもらってますね。実はこういうビートは前のアルバムのネタの段階から作っていたりはしたんですけど、今回は僕らの第二章として新しい一歩を踏み出すタイミングだったし、ベストだったのかなって思います。
電子音を鳴らし始めてからできることが広がった(大澤実音穂)
――バンドの第二章ということで、以前の違いとしてはどういうところがポイントになっていると思いますか。
福永:まあ、メンバー脱退というのも大きなターニングポイントだと思いますし、それによって曲作りが変わるのも僕らには大きなターニングポイントだと思います。でも、言ってみれば、なんとなくそういう感じがするっていう、抽象的な感じなんですけど。
――僕が思うのは、バンドというものを新しい感覚で捉えるようになったんじゃないかと思うんです。もちろん徐々に変わっていったところはあると思うんですけれど、楽器を演奏する人の集まりというよりは、サウンドデザインする人の集合体というか。そういう発想ってありました?
福永:スタンスとしては早い段階からそういう風には心がけていたんです。ギターがギターじゃない音を出したり、求める音を作ってもらうとそういう形になっていた感じなので。かなり初期の段階から自分たちなりに、バンドにとらわれないような音作りをしてきたつもりなんですね。そういうバンドでありたいという気持ちで取り組んできた。でも、それが4人だけで曲を仕上げてきていたので、無意識の中で自分たちの中で作った方程式に頼っちゃったこともあったんです。そんな凝り固まっていた部分が、蔦谷さんとやったことで、広い視野で見れるようになった気がします。
山﨑:僕も、雨のパレードを結成して、最初の頃からいわゆる既成概念としてのバンドとは違うことをやろうという気持ちがあったんです。ただ、それを形にしていけるスキルだったり、より表現の幅を広げるスキルだったり、そういうのものを徐々に確立していったんだと思います。気持ち的には最初からあったんですけど、それがより明確に形になったのがここ数年かもしれないですね。
大澤:私も最初はドラムは生楽器だと思っていたし、それを叩くことしか頭になかったんですけど、パッドを置いて電子音を鳴らし始めてから広がった気がします。機材をだんだん買い揃えて、必然的にできることがめちゃくちゃ広がっていった。福永も山崎も言ったんですけど、気持ちは最初からあって、徐々に形になっていった感じです。