KOHH、ANARCHY、SALU……異彩を放つ“ネームドロップ”がもたらす効果を解説
2月1日にサプライズリリースされたKOHHの約2年半ぶりとなるニューアルバム『UNTITLED』。このアルバムのリード曲「I Want a Billion feat. Taka」は、世界のロックシーンで活躍するONE OK ROCKのTakaとの共演や、渋谷109での「MX4D®モーションシート」による体感型アトラクションイベントにより大きな話題となった。そしてこの楽曲は、ダイナミックなロックサウンドに乗せてラップするKOHHのリリックにも注目が集まった。
〈俺はエスコバルよりもピカソ/Tじゃない方のパブロ/年齢重ねて子供になるよ/考えないで感じれば楽勝〉
今まであまり日本のラッパーのネームドロップをしてこなかったKOHHだが、コロンビアの麻薬王・エスコバルと天才画家・ピカソのファーストネームのパブロにかけて、「Tじゃない方のパブロ」という独特の言い回しでBAD HOPのT-Pablowをネームドロップしている。
この強烈なパンチラインのネームドロップがリスナーから多くの反響を呼び、『フリースタイルダンジョン』の審査員でおなじみのERONE(韻踏合組合)も「Tじゃない方のパブロの対義語選手権」をTwitter上で開催。「光一じゃない方の堂本」など100以上のリプライが集まっている。
T-じゃない方のパブロの対義語選手権開催します。
— エローン (@erone121) February 18, 2019
ここでラップにおけるネームドロップの意義を簡単に説明すると、リリックの中にいろいろな人の名前を出して、その人を批判すればディスになり、リスペクトの意を示せば友好の証となる。自分が認める若手の名前を出せばフックアップになり、誰もが知っている有名人の名前を出せばその人のイメージを想起させる比喩表現となる。今回の「I Want a Billion feat. Taka」のT-Pablowのネームドロップは、KOHHが今注目しているラッパーとしてリスペクトを示すために用いられていると言えるだろう。
そこで本稿では、近年話題となった特徴的なネームドロップの楽曲を紹介していきたい。
ANARCHYによる日本語ラップ賛歌「LOYALTY」
3月13日に発売された約2年半ぶりのANARCHYのニューアルバム『The KING』は、「13」をテーマに13人のラッパーで構成された13曲を収録。数量限定生産で13,000円(税込)という異例の価格設定でも話題を呼んでいる。
そんな彼の2013年のアルバム『DGKA』は、今回のアルバムとは逆にフリーダウンロードという形で発表され、当時画期的な作品だった。そしてそのアルバムの収録曲「LOYALTY」は、ANARCHYが今まで影響を受けてきた20組の日本のラッパーやグループがリリックの中にネームドロップされている。
〈みんなの気持ちをラップで歌う/Zeebraは今でも渋く振舞う/AKは昔からマイメン/D.Oずっと変わらないぜ/媚び売るつもりはない/俺はそんなタイプじゃない/もっとラップが巧くなりたい/NORIKIYOやMEGA-Gみたいに/漢はどれ聴いてもカッコイイ/一緒に遊ぶのも楽しい/歌舞伎町でハメを外す/いつも飲み代は漢が出す/MACCHOのライブは涙が出る/今でもどの時代の曲も/心動かすモンが本物/良い曲が流れたら踊ろう〉
NYを代表する人気プロデューサー・STATIK SELEKTAH(スタティック・セレクター)が手掛けたソウルフルなトラック上で、日本を代表するラッパーの一人となったANARCHYが〈今でも憧れはラッパーたち〉と歌い、〈妄走族、NITRO/俺たちの声を聞いてくれよ/どんな金持ちよりもカッコイイ/ライブをもう一度見せてほしい〉とヒップホップヘッズの立場で、妄走族とNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDへの思いを吐露している。
ヒップホップに対するANARCHYの愛情が詰まった“日本語ラップ賛歌”だ。