平原綾香、『メリー・ポピンズ リターンズ』完全日本語吹替版で魅せたシンガー・声優としての表現力

平原綾香『メリー・ポピンズ』で魅せた表現力

 中でも印象に残るのは、やはり冒頭でも述べた劇中歌「幸せのありか」だ。映画の中では、母親を亡くしたマイケルの子供たちを寝かしつける、メリー・ポピンズによる子守唄として歌われるこの曲に、平原は2つの意味を見出したという。

「子供たちが聴くと、亡くなってしまったお母さんが僕たちのことを見てくれてるんだっていう解釈になると思うんですけど、メリーとしてこの歌を歌った時、“私を忘れないで”っていうある種のメリーの寂しさみたいな心の声を聞いたような気がしました」(平原綾香:公式インタビューより)

 メロディもシンプルだが非常に美しい。個人的に特に好きなのは、ふた回し目のバースの後半、〈そうねきっと 待つのよ〉のラインで、サブドミナントコードに対してシャープ11thのメロディを乗せている。これは『アラジン』のテーマ曲「ホール・ニュー・ワールド」にも用いられている、胸が締めつけられるようなドリーミーな響きだ(筆者はこれを、勝手に「ディズニー・コード」と命名している)。また、この曲はエンドソングにもなっていて、その歌も平原が担当している。劇中歌とエンドソング、両方を1人のシンガーが歌うのは、日本では平原が初めてだという。こちらも快挙と言っていい。

「エンドソングは、もちろん、平原綾香として歌ったんですけど、心の中でずっと傍にいるメリーのソウルみたいなものが歌わせてくれた気がしました。メリーっぽくとか、平原綾香っぽくとか、あまり考えることはなく、自然に歌えたと思います」(平原綾香:公式インタビューより)

 メリー・ポピンズというアイコニックなキャラクターを通して、平原綾香のシンガー〜声優としての魅力が詰まった『メリー・ポピンズ リターンズ』日本語吹替版、是非とも劇場で確かめてみてほしい。

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。

■リリース情報
『幸せのありか』
発売:2019年2月6日
価格:¥1,204
CD
1 幸せのありか
2 Chim Chim Cher-ee(既発アルバム「Dear Music ~15th Anniversary Album~」収録)
3 Supercalifragilisticexpialidocious(既発アルバム「Dear Music ~15th Anniversary Album~」収録)
4 Chim Chim Cher-ee (Instrumental)
5 Supercalifragilisticexpialidocious (Instrumental)

平原綾香オフィシャルサイト

■公開情報
『メリー・ポピンズ リターンズ』
全国公開中
監督:ロブ・マーシャル
キャスト:エミリー・ブラント、リン=マニュエル・ミランダ、ベン・ウィショー、コリン・ファース、メリル・ストリープほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2018 Disney Enterprises Inc.
公式サイト

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