平原綾香、『メリー・ポピンズ リターンズ』完全日本語吹替版で魅せたシンガー・声優としての表現力

平原綾香『メリー・ポピンズ』で魅せた表現力

 公開中のディズニー映画『メリー・ポピンズ リターンズ』の完全日本語吹替版で、主人公メリー・ポピンズの声と、彼女が歌う劇中歌、そして日本版エンドソング「幸せのありか」をシンガーソングライターの平原綾香が担当し、話題となっている。先日も朝のワイドショー番組『スッキリ』に登場し、「幸せのありか」を披露。ここ最近は“シンガーソングライター”としてだけでなく、“ミュージカル女優”としても積極的に活動をしている彼女の、一段と深みを増したボーカル表現力はお茶の間にも強い印象を残したようだ。

 『メリー・ポピンズ リターンズ』は、1964年に公開された『メリー・ポピンズ』の続編にあたる作品である。前作から20年後、大恐慌時代のロンドンが舞台となっており、大人になったジェーンとマイケルのバンクス姉弟、そしてマイケルの3人の子供のもとに、“すべてにおいてほぼ完璧”なナニー(ベビーシッター兼家庭教師)であるメリー・ポピンズが再び現れ、得意の魔法でバンクス家の“危機”を救う……というストーリー。監督は、これまでにもミュージカル映画『キャバレー』を舞台化や、『シカゴ』の映画化(アカデミー賞6部門にノミネート)などを手がけてきたロブ・マーシャル。主人公メリー・ポピンズには、『プラダを着た悪魔』や『クワイエット・プレイス』で主演を務めたエミリー・ブラントが起用された。

 メリー・ポピンズといえば、オリジナル版のジュリー・アンドリュースがあまりにも有名だ。実は、原作者であるイギリス出身の児童文学作家パメラ・トラバースは、当初ディズニーからの映画化の依頼を何度も断っており、ようやく実現したこのアンドリュース版にも事前に様々な条件(最初はアニメもミュージカルもNGだったらしい)をつけたという。その制作秘話ものちに『ウォルト・ディズニーの約束』として映画化されたが、試行錯誤の上に完成された『メリー・ポピンズ』とジュリー・アンドリュースの演技は大きな評価を浴び、第37回アカデミー賞では最多13部門にノミネートされ5部門を受賞した。

 そんなメリー・ポピンズを、今回の『メリー・ポピンズ リターンズ』で新たに演じることになったエミリー・ブラントは、あえてアンドリュース版の前作を参考にしなかったという。その代わりにトラバースの原作を初めて読み、そこから役作りのヒントを得た。アンドリュース版のメアリーよりも、エキセントリックで遠慮がなく、厳しさとユーモアを併せ持った振る舞いを演技に活かすことで、バージョンアップしたメリー・ポピンズが誕生したのだ。

 さて、そのエミリー版メリー・ポピンズの声を担当するにあたり、平原綾香はどのようなことを心がけたのだろうか。2018年にミュージカル版のメリー・ポピンズを演じた彼女にとって、そこで作り上げたメリー・ポピンズ像と、エミリー版のそれとの違いに最初は戸惑ったという。

「エミリー・ブラントさんの声がとても低い声なので、その低い声のまま、日本語で低くするとすごくドスの効いた怖いメリー・ポピンズになっちゃうので、“若干上げたほうが合うんだな”とか、いろいろそういうところを研究しながら収録していきました。(中略)翻訳の方と相談して、ちょっとミュージカルよりのメリー・ポピンズに寄せてみようっていうことで、”わかりました”を”わかったわ”とか、”なんとかなんです”を、”なんとかなのよ”にしたりしました。そうやって「語尾をどんどん変えていってみよう」というトライができたのも、ミュージカルを経験していたからこそだと思います」(平原綾香:公式インタビューより)

 原作のメリー・ポピンズをもとに役作りに挑んだエミリー・ブラントと、ミュージカルの中で“日本語を話す”メリー・ポピンズを演じてきた平原綾香。そんな2人の、それぞれのメリー・ポピンズ像がミックスされた日本語吹替版の『メリー・ポピンズ リターンズ』は、字幕版とはまた一味違った深みを味わうことができるというわけだ。

「ミュージカルを観て、メリー・ポピンズを好きになってくださった方が観ても、“ああ、ミュージカルのメリー・ポピンズもここにいるんだな”って思ってもらえた方がきっと楽しいと思ったので。ミュージカルの期間も含めて、<メリー・ポピンズというものはこういうものだ>とずっと研究しながら教えてもらっていたので、そのすべてが今回この映画で表現できたと思っています」(平原綾香:公式インタビューより)

 前作『メリー・ポピンズ』には、「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」や「チム・チム・チェリー」など、シャーマン兄弟による不朽の名曲が流れていたが、『メリー・ポピンズ リターンズ』はこれらを封印。『アダムス・ファミリー』や『ファースト・ワイフ・クラブ』などを手がけた音楽監督マーク・シャイマンによる書き下ろしの新曲が、全編にわたって散りばめられている。メリー・ポピンズが歌う楽曲は、もちろん平原が担当しているが、ディズニーの吹替を監修しているリック・デンプシーからは、必ずしも「オリジナルに忠実な歌い方」を求められたわけではなかったという。

「“表紙に騙されないで”という本の歌の時は、エミリー・ブラントみたいに歌ってたら、“日本語版は変えてみよう”とおっしゃって、リックさんは“エミリーが歌っていないような表現でやってみて!”って言うんです。“え、エミリーはそんな風に歌ってないけどいいんですか?”と言ったら、“ここでお客さんの心を掴みたいから、日本語版のオリジナルでやってくれ”と言われて。だから、もしそこが違和感だって思われても、私じゃなくてリックさんに文句を言って欲しいなって思っています(笑)」(平原綾香:公式インタビューより)

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