『History In The Making』インタビュー
DEAN FUJIOKAが語る、3年間の歩みと変化「自分の音楽の未来を作っていきたい」
国際派俳優として活動する一方で、ミュージシャンとしてもクオリティの高い楽曲をリリースしてきたDEAN FUJIOKA。彼が、活動拠点を東京に移して2016年末にリリースした「History Maker」(TVアニメ『ユーリ!!! on ICE』OPテーマ)以降の楽曲群に新曲を加えた2ndアルバム『History In The Making』を完成させた。この作品では「History Maker」以降の楽曲をすべて制作順に収録し、彼が過ごしたアーティストとしての約3年間と、その中で手にした進化や成長を、魅力的な形で作品に閉じ込めている。その収録曲やこれまでの変化について、DEAN FUJIOKAに聞いた。(杉山仁)
「5年後、10年後に聴いても説得力のあるもの」
ーー今回の最新アルバム『History In The Making』では、DEANさんが「History Maker」以降リリースしてきた楽曲が、そのリリース順に並んでいますね。
DEAN FUJIOKA(以下、DEAN):はい(笑)。まさに作った順に並んでいます。そうすることで、たとえるなら日記をシェアするような感覚で、リスナーのみなさんに自分がこの3年間でどんな音楽的な変遷をたどってきたか、どんな変化を経験したかということを伝えられると思ったんです。ある意味ドキュメンタリー作品のような形式を、アルバムに反映させていったという形です。
ーー後半にまとめられている新曲もすべて制作順に並んでいるということですか? そうすると、曲順自体がこの約3年間のDEANさんのヒストリーになっているんですね。
DEAN:そうですね。前作の1stアルバム『Cycle』以降に自分が失敗したこと、学んだことも含めて変化していったこと、新しいアプローチを取り入れたことなどが、この順番で聴いてもらうことで、一番はっきりと伝わるんじゃないかと思いました。そうすれば制作における技術的な変化も、聴いてくれた人に伝わるんじゃないかな、と。その上で、もともと「History Maker」という曲を制作したところから今回のアルバムがはじまっているので、それも含めたダブルミーニング、トリプルミーニングになる『History In The Making』というタイトルにしました。
ーー今回は収録曲を順に追っていくことで、DEANさんの3年間の歩みについてのお話を聞けると嬉しく思っています。その出発点となった2016年末の「History Maker」は、オーケストラを取り入れた曲でありながら、楽曲自体が『Cycle』のときとは違ってEDMの構成になっていることも印象的でした。当時のことを改めて振り返ってもらえますか?
DEAN:最初は歌と作詞の部分でオファーをいただいて、アニメ『ユーリ!!! on ICE』の監督や、原案の方、音楽監督の方たちと話していく中で、みなさんのプロジェクトにかける思いの強さを感じました。それゆえに、自分もベストな形で貢献できればいいなと思っていました。この曲はもともと、ディズニー映画の音楽やフィギュアスケートの演目に似合うような、とても上品なオーケストラ曲だったんです。ただ、自分が歌詞で表現したかったのは、「チャレンジを続けるアスリートへの応援歌にしたい」ということで。しかも、書いていくうちに、アスリートに限らず、様々な挑戦をしている人たちを応援できるような「人間への応援歌」にしたい、と思うようになりました。そう考えたとき、この曲はもっと力強い、壮大なものにもなれるんじゃないか、と思ったんです。そこで、楽曲面でも参加させていただいて、コライト形式で制作していきました。EDM的な楽曲構成は、曲自体がそれを呼んでいるような気がしたんですよね。オーケストレーションが前に出ている曲の基盤に、力強いビートや太いベースがあったら、この曲がより魅力的に、今の時代に合うものになると思ったんです。「自分たちが時代を作って、それを未来に繋いでいくんだ」という気持ちを高めるようなものにするために、(高揚感のある)EDMのようなドロップがある構成で、コーラスもイギリスのサッカーファンの合唱を思わせるものにすれば合うのかな、と。
ーー確かに、あの壮大なコーラスからは、イギリスのサッカーファンのアンセムになっているような、もしくはフェスで大合唱が起こるようなUKロックを想像しました。
DEAN:そういう雰囲気が、あくなき挑戦を続けていく人たちの背中を押したい、というテーマの楽曲にピッタリだと思ったんです。とはいえ、時代のトレンドに流され過ぎてもいけないので、5年後、10年後に聴いても説得力のあるものにするためのバランスも考えていきました。
ーーアルバムでの曲名は「History Maker ~HITM Ver.~」になっていますが、これはミックスを変えているんですか?
DEAN:若干ボーカルのグルーヴを変えて、ミックスも少しだけ変えました。あまり大きな変化はないですが、手を入れたからには、もとのバージョンと同じだと誤情報になってしまうので。「~HITM Ver.~」とついているものは、すべてそういう形で少し手を加えたものですね。
ーー続く「Permanent Vacation 〜HITM Ver.〜」や「Unchained Melody」(ともにEP『Permanent Vacation/Unchained Melody』に収録)の頃は、DEANさんの音楽にフューチャーベースを筆頭にしたクラブミュージックの最先端の要素が加わったことが印象的でした。この頃はどんなことを考えて音楽を作っていましたか?
DEAN:「Permanent Vacation」は、映画『結婚』の主題歌として書き下ろしたので、映画の中では描かれない主人公の気持ちを曲に込めたいな、と思っていましたね。連続テレビ小説『あさが来た』(NHK総合)でご一緒させていただいた西谷真一監督とのお仕事だったこともあって、「朝が来たら、どうなるのか」というアイデアから曲を書きはじめて〈朝が来たらどこへ向かうのか/きっと俺にはわからないまま〉という歌詞が最初にできました。そこから、「その歌詞に合う音はどんなものだろう?」と考えたときに、尖ったエレクトロミュージックの要素が〈月明りの悪戯〉のようなイメージに合うと感じたんです。僕は曲を作るときは、最初に「その曲のコアとなる要素は何か」ということをはっきりさせて、「それならこのメロディで、この歌詞にしよう」と考えていくんです。その一貫性というか、密度の濃さは大切にしていますね。
ーー次の「Let it snow!」「DoReMi」「Speechless 〜HITM Ver.〜」(3曲ともにEP『Let it snow!』に収録)の頃には、トラップっぽいラップのフロウも取り入れるなど、音楽性がさらに広がっていった印象でした。もちろん、DEANさんの楽曲は様々な要素が組み合わさってできているものだと思いますが。
DEAN:たとえば、「DoReMi」はトラップを好きで聴いていたことがフロウに反映された部分もありつつ、同時に子供でも大人でも歌えるような、自分なりの“みんなのうた”を作りたいとも思ってできた曲ですね。ここまでの曲を振り返ってみても、1曲1曲に変化を感じます。「History Maker」は今回のアルバムに繋がるスタート地点ですし、「Permanent Vacation」は「作品で描かれていない登場人物の気持ちを描く」というアプローチを見つけた曲になりました。(テレビ朝日『サタデーステーション』『サンデーステーション』EDテーマの)「Unchained Melody」に関しては、報道を仕事にしている人たちが「世界で起きていることを伝えなければいけない」という使命を感じて、それを仕事にするまでにどんな経験があったのかをヒアリングさせてもらって、それに対する僕なりのアンサーソングを作りました。報道の渦中にいる人たちの気持ちを表現しながら、同時にバイスタンダー(同伴者)的な傍観者でもあるという視点で歌詞を書くことを学びました。そして、(日本テレビ系ドラマ『今からあなたを脅迫します』主題歌の)「Let it snow!」辺りから、今の制作スタイルに切り替わったイメージですね。最初の2~3曲で、「東京の音楽の現場はこういう感じなんだ」ということや、「こんな機材を使って、こんな風に制作を進めるんだな」ということを学ばせてもらって、初めて自分でデモ音源をDAWで完結させたのが「Let it snow!」だったんです。この曲は「Permanent Vacation」で学んだ方法を発展させて、本編では描かれない登場人物の過去を描きつつ、“雪”というモチーフをシンボルとして扱って、「雪が過去と今とを繋げる。そしてこの瞬間に過去と決別して未来に歩きだす」という雰囲気を表現しました。ドラマとのシンクロ率や、エンディングで流れたときに(各話の内容に応じて)毎回違ったものに聴こえるような、逆算の技術もここで勉強しました。