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『時計台の鐘』インタビュー

eastern youth 吉野寿が明かす、20歳の原点と50歳の今「音楽とギターを使って生き延びてやる」

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 結成30周年を迎えたeastern youthが、3曲入りのニューシングル『時計台の鐘』を11月14日にリリースする。2015年にベーシストの村岡ゆかが加入して以降、今年のフジロックに出演するなどライブ活動を精力的に展開する彼ら。 TVアニメ『ゴールデンカムイ』第二期エンディングテーマ(TOKYO MXほか)である表題曲を含む本作でも、重層的なバンドサウンドを聞かせる一方で、歌詞の面では陰影に富んだ心情を歌い上げるなど、作詞作曲を手がける吉野寿の新境地を感じさせる。リアルサウンドでは、『ボトムオブザワールド』リリース時以来約3年ぶりのインタビューを行うにあたって、石井恵梨子氏をインタビュアーに迎え、バンドの現在地と吉野の作家的ルーツを探った。(編集部)

「内側だけで爆発してる人間のブルース」

一一今のeastern youth、リラックスというとニュアンスが違うんですけど、あまり気負いのない印象があります。

吉野寿(以下、吉野):そうですか。気負い、ないと思いますよ。なんかスッと抜けて自由になった感じ。今まではメンバー3人のバランスで歪みが生じたり、音楽的に行きたい方向も違うから、船頭多くして船山に登る、みたいなところもあったんですよ。それでメンバーが抜けることになって、そこで一回「もう辞めよっかな」と思ったし……極端な言い方すると、拾った命、みたいな感じで活動を繋いだので。そこからの開き直りみたいな気楽さはあるんじゃないかなと思います。

一一新しく入った村岡(ゆか/Ba)さんの影響もありますよね。ステージでも柔和に、いつも微笑んでいるような方ですし。

吉野:うん。ほわっとした感じの人ですよ。ただ、ミュージシャンとしてのキャリアはあるし、凄い人なんですよ、あの人。でも人間的な性格はあんな感じで。助かってます。今はあんまりぶつからないですしね。

一一少しずつ曲調も変わっていませんか。一言でいうと「限界でいきり立っていなくてもいいのだ」という前提があるような。

吉野:うーん……そういうことは何も考えないし、今までも考えたことはないんです。別に「尖っているものを」とか狙うこともないですし。ただその時その時のこれだっていう感じを、どうにか形にしてるだけで。

一一たとえば「負けてたまるか」みたいな強気の言葉が、今回の3曲には見当たらないんですね。歌詞だけを読むと打ちのめされていたり、未来に展望もなかったり、ちょっとネガティブな印象すらあって。

吉野:そのとおりです。打ちのめされて生きてきましたから。で、そういう「でも最後には負けねぇって言ってくれ」みたいな聴き手側からの願望? それは意図的に自分の中に入れないようにしてます。そのまんま、本当のことだけで作ればいいんじゃないかなと思って。そういう感覚の3曲にしたかったんですよね。こういうふうに俺は生きてますし、こういうふうに生きてる人もたくさんいると思うんです。もはや夢もない希望もない、ただただ運ばれて流されて生きている人たち。それを形にしておきたかったんです、ちゃんと。

一一今、夢も希望もないんですか。

吉野:希望は持ちたいと思ってますけど……ないですよ。夢とかもないです。もう……ねぇ? この先モテることもないだろうしお金が降ってくることもないだろうし。何もいいことはないんですよ。

一一……文字にすると身も蓋もないですが(苦笑)。

吉野:でも、だから絶望、死ぬっていうこととは違いますよね。希望があろうがなかろうが、今は今です。それなりに精一杯生きていくだけで。そんなふうに生きていくしかないのかなと思ってますよ。

一一最初にライブで披露されたのは「循環バス」でした。これは実際に引越して、循環バスに乗るようになったことから生まれた曲だとか。

(写真=菊池茂夫)

吉野:そう。こんなにバスに乗る人生になるとは思わなかった。すげぇ乗ってます。今日も乗りました。バス……バス……バスですよ。

一一3回言いました(笑)。そこには何があるんですか。

吉野:「……くっそぉー、バス、ファック!」っていう感じ。

一一ははははははは!

吉野:今までは駅に降りたら歩いて家だったんですよ。でももう歩けない距離なんです。歩けなくはないけどけっこうかかるんで、駅からさらにバス、さらに流されて遠くに行かなきゃいけない。で、バスはなんせ暗いんですよ。雰囲気も暗いし実際の照明具合も暗い。なんか空気も重くて。微妙な揺れとエンジン音、そして遠くに運ばれていく人たち。もうあの倦怠感というか。でもバスに乗る……乗らなきゃ帰れない……乗ります、っていう。

一一この曲には〈もどかしさにふと諦めてしまうのさ〉っていう歌詞があって。もう「負けねぇ」とか言ってられない、バスに乗るしかないんだっていう感覚ですか。

吉野:うん。でもそういうことって日々多いですよ。もちろん「よし、やるぞ! どこにだって行けるんだ!」と思ってはいるんです。誰かに止められてるわけじゃないし、行こうと思えば行けるって実際わかってる。でもなーんか足取りが不器用で、上手く前に進めなくて、もどかしくて。ぐにゃぐにゃやってるうちに「……まぁいいや」って諦めてしまう、その繰り返し。「またいつか。まぁいずれ」って思ってるうちにバスは来ちゃうし乗っちゃうんです。で、それが悪いことだとも思ってないんですよね。そんなもんだよって感じです。

一一虚勢を張らなくなっているんでしょうか。勝手なイメージですけど、吉野さんといえば絶対に屈しない人、負けを認めない人、なので。

吉野:そーんなことないですよ? このザマです。負けまくってます(苦笑)。ほんとに勝ってたらバスに乗ってない、ベンツとか乗ってますよ。でもそうやってバスの中で感じる静かな侘しさ……侘しさの爆発みたいなものが歌になっていって。傍から見れば俺もただバスに揺られてる人ですけど、心の中はもう絶叫。沈黙の大絶叫っていうか、侘しさの半狂乱って感じ。もう嗚咽がこみ上げるような気持ちになるんだけど、それは表面には出てこないんです。内側だけで爆発してる。そういう人間のブルースですよ。

一一ただ、曲調は全然寂しく聞こえないんですね。メロディラインもそうだし、あとは村岡さんとのツインボーカルであることも大きい。

吉野:そうでしょうね。メロディ自体にも爆発力があるから。あと、彼女はもともと弾き語りの人なんで、歌えるんですよ。そりゃ使えるものは全部使いたいですし、これからもっと入ってくると思ってますよ。明るいですもんね。女性の声が入ってくると音質的にパアッと明るくなる。何もブルースは男にだけあるわけじゃないですからね。女性にも当然あるものですから。

一一同じように、男性の中にも女性性ってありますよね。この曲には母性みたいなものも感じるんです。強がることもなく「それでも生きていていいんだよ」って背中を押してくれるような。

吉野:あぁ。そうですね。じゃないと俺自身が生きてけないですから。自分に対する子守唄じゃないけど、そういうニュアンスはあるのかもしれない。

一一そして表題曲は「時計台の鐘」です。タイトルとジャケットを見て、札幌時代の歌なのかと一瞬早合点したんですけど。

吉野:吉野:あぁ、でもあるでしょうね。アニメーションの主題歌(TVアニメ『ゴールデンカムイ』第二期エンディングテーマ)で、そのアニメ作品が北海道の、アイヌの関係しているお話だし、なんとなくそういうイメージのスイッチが入ったんでしょうね。やっぱり心の底には札幌にいた頃の何かがあるんですよ。札幌には6年間、まぁ学校は早々に辞めたから17から住んでいて。当時いろんな刺激とか出来事がありましたけど、それを象徴してるのがあの鐘の音で。住んでたアパートは時計台から近くて、定期的に聞こえるんですよ。乾いた音なんですよね。カーン……カーン……って。で、俺は仕事もしねぇし腹は減ってるし、でも働きたくねぇし将来の展望も見えねぇ。この先どうすんだろうって。うん……侘びしかった。その象徴の音ですよ。それが未だに心の中で鳴り止まないっていうか、ずーっと鳴ってる感じがする。

一一当時のことは「夢があって楽しかった」とは語れないんですか。

吉野:語れないです。夢なんてないですよ、そんなの。バンドで一旗揚げるなんて言える音楽性じゃないし、当時は尚のこと「ハードコアで食えるなんて冗談じゃない」っていうような時代で。もう、ただの雑音! それに賭けてただけですよ。それこそ子供の頃からいわゆる世の中……子供だったら学校ですけど、そういうものを白眼視してましたから。ほんとに馴染めなかったし、憎めば憎むほど孤立するし、「全員ぶっ殺す」と思って生きてきた少年時代で。その具現化がバンドですよ。中1くらいまではどうアウトプットしていいかわからなかったけど、エレキギターっていう良いものをもらったんですよ。あれを弾くと、憎しみみたいなものが形になる。身体も華奢なんで体力面では殴っても勝てない。だったらこのギターで殺すしかないだろうと。そうやって始めた反撃ですよ、多数派への。

【eastern youth】「時計台の鐘」MV(TVアニメ『ゴールデンカムイ』第二期エンディングテーマ

      

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