『時計台の鐘』インタビュー
eastern youth 吉野寿が明かす、20歳の原点と50歳の今「音楽とギターを使って生き延びてやる」
「100回クジ引いて、ハズレっぱなしっていうのがいい」
一一そこからeastern youthに発展するのがハタチの頃。
吉野:気持ちはおんなじでしたね。今もずっと一緒。要するに「冗談じゃねぇよ、殺されてたまるか」ってことですよ。黙ってると殺されちゃいますから。どうにか殺されないために押し返す。
一一殺されるというのは、何かの比喩ですか。
吉野:いや、本当に押し潰されるんです、世の中に馴染まない人間っていうのは。どこにも属せない人間は排除されて、村八分にされて、そいつが死ぬように仕向けられていく。周りの奴らは実際には手を下さないし、そいつが負けても「自分で死んだ」って言うんですけど、ほんとは殺されてるんです。そういうのがアタマにくる。冗談じゃねぇよ、なんでお前のために俺が死ななきゃいけないんだって。「お前が働かないから自業自得だ」って言われても「自業自得だろうが何だろうが俺は死なねぇからな?」ってことですよ。そのために俺には音楽とギターが要るんですよね。それ使ってまんまと生き延びてやるぞ、っていう。ほんと単刀直入に単純化して言うと、未だにやってることはそこに尽きると思いますよ。
一一それが30年変わらないって驚異的だと思います。
吉野:ほんとどうかしてるんでしょうね(苦笑)。
一一大人になると、ある程度許容できるものも増えてくるじゃないですか。
吉野:や、俺もだいぶ丸くなったし「人にはいろいろ事情もあるよね?」って思えるようになりましたよ。だけどやっぱ……人に決められたくないんです。押し付けられたくないんです。「こういうもんだよ」って言われても自分で掴んでみてそうだと思わない限り、それは自分のものにならないんです。誰かが成し得たことがあって「もう結論も出てるからお前も従え」って言われても、自分で掴み取らない限りは意味がないんです。押し付けられてたまるかと思ってる。ほんとに簡単なことでも、みんながわかってることでも、自分で「あぁ、そうなんだ」って思うまでは納得できない。だからこんなに悪足掻きしてるんでしょうね。
一一今も、そこまで押し付けられる声や空気を感じますか。
吉野:感じるね。すごく感じます。ほとんど全部押し付けに聞こえる。それは俺の性格的な歪みだとも思いますけど、それだけじゃない部分も絶対にある。「そんなの常識、みんな知ってことだよ」とか言われても困るんですよ。「感動をありがとう」「あの感動をもう一度」とか、うるせぇなってことばっかり。みんなで共有する高揚感みたいなものを「感動」と呼ぶなんて、ロクなもんじゃない。そんなもん押し付けられてたまるか。そういうことをなんとか曲にしてるような気がしますね。なんとか歌にすることで実感を掴み取ろうとしてるだけ。だから空虚だったりネガティブに思えるような歌詞っていうのも、これが俺の実感の掴み方だからであって。
一一ええ。言葉はしょぼくれているようでも、曲は全然そう聞こえない。3曲目は「歩いた果てに何もなくても」ですけど、本当にここには何もないとは思えないですし。
吉野:いや、そんなことないですよ? この先に何があるかなんてわからないし、結局何もないんですよ。最後は死ぬだけですから。
一一……また身も蓋もない言い方ですね。
吉野:でもそうですよ。死ぬまでずーっと過程ですからね。辿り着くっていうことはない。もちろん「何かあるんじゃないか?」とは思ってますけど、でも何もなくても歩きますよ。歩くしかない。実際に毎日、時間がある時はけっこうな距離を歩くんですけど、その行為には目的がないんです。
一一散歩?
吉野:散歩、と言われるとね……ちょっと心外なんですよ。そんなのんびりしたもんではない!
一一ははははははは。
吉野:よく言われる。「お散歩ですかぁ?」って(笑)。お散歩って、お爺さんが「いい天気だなぁ」とか言いながら日向ぼっこしてるようなイメージですけど。そんな生易しいものではない。何なのかは自分でもわからないですけど、ただ歩くことを自分に課してるんですよ。とにかくヘトヘトになるまで歩く。目的はないんです。ただ2時間くらい歩いて帰ってくるだけ。
一一それは確かに散歩じゃない(笑)。ウォーキングって言葉も心外ですか。
吉野:ウォーキング……と言われると、まぁ許してやろうって感じ(笑)。でもそんな心境でもないんですよね。めちゃくちゃ早足で歩いてて、そこに意味や目的なんかない。なんだかわかんないけど歩く。だって家で座っててもしょうがないし、ドアを開けないと部屋の中だけの観念で完結しちゃうんですよ。でも外に出ると人がいて、営みがありますから。ただ歩くだけでも世の中と関われますよ。やっぱり一人じゃ生きていけないし、俺も社会っていうものの中で生きていくしかないんですから。ただ、関われば関わるほど自分に還っていくところはあって。人と出会えば出会うほど孤独になっていく。やっぱり山の中の孤独とは違いますよね。
一一あぁ。雑踏のほうが孤独だったり。
吉野:うん。ほんとに砂漠でひとりぼっちだったらせいせいすると思う。どうしようもないもんね。あぁもう死ぬんだなって。でも社会の中にいると他の人との違いを否応なしに感じないといけない。「なんであの人はできるのに俺にはできないんだ」「あの人は持ってるのにどうして俺は持ってないんだろう」とか。そうなると「自分はどうしてこうなんだろう」ってことを考えざるを得ない。だけど「いいんだよ、それで」とも思ってるから、それが今日話したことに結びついてるんだと思う。
一一何もなくていい、夢も希望もなくていいんだっていう。
吉野:そう。「何かなかったらダメなんですか?」っていうこと。結果とか成果を出さなきゃいけない強迫観念みたいなもの、なくてもいいと思ってる。何か掴んだところで時間は過ぎ去っていくし、それは手の中にとどまってくれない。そしたら次に向かうだけだし、成果が掴めなくても歩くしかない。100回クジ引いて100回ハズレでもいいんじゃねぇの? 100回クジ引いてハズレっぱなしっていうのがいいじゃん。そこに価値があるんじゃねぇの? って思ってる。そして性懲りもなく101回目をまた引くわけですよ。そういう粘り強さが一番重要なんじゃねぇの? って。だからことさら何にもないって歌うんじゃないかな。「空っぽ? いいじゃないですか。大丈夫だよ!」って。
一一そう言えるのは、今のeastern youthに対する自信とも取れます。
吉野:どうだろう? そんなことも深く考えてはないです。そん時そん時に精一杯やるだけ。ライブの日は一曲一曲を精一杯やるし、それが終わったら「終わった! 以上、捨て!」って感じですね。過ぎたものは残像になるし実態も何もない。あるのは今、今からのこと。「今までこれだけやってきたから」みたいなことはまったく関係ないと思ってる。
一一今、まさにeastern youthは30周年イヤーですけども。
吉野:そこも何も感じないですよ。そりゃまぁ30年って言われたら、「ずいぶんしつこくやってきたね?」とか「案外しつこい性格なんだな、俺」っていうのはありますけど(笑)。しつこいのは恥ずかしいことですよ。できりゃ伏せておきたいくらい。めでたくない。
一一でも若いバンドから見れば、30年続くっていうのは憧れでしょう。
吉野:いやぁ、そんなもんに憧れてるようじゃダメだよ! そんな暇があるなら、やるべきことやりなさいって。やってるうちに30年くらい経つから。だいたい人に憧れるっつうのが間違ってますからね。憧れたところで同じにはなれないんだから、絶対(笑)。
(取材・文=石井恵梨子)
■リリース情報
シングル『時計台の鐘』
11月14日(水)発売
定価:¥1,296
<収録曲>
1.時計台の鐘
2.循環バス
3.歩いた果てに何もなくても
■ツアー情報
『eastern youth全国・巡業ツアー
極東最前線/巡業2018~石の上にも三十年~』
9月23日(日)千葉 LOOK 17:30/18:00 ¥4,000(ドリンク代別)
9月29日(土)京都・磔磔 17:30/18:00 ¥4,000(ドリンク代別)
9月30日(日)金沢 GOLD CREEK 17:30/18:00 ¥4,000(ドリンク代別)
10月6日(土)札幌 cube garden 17:30/18:00 ¥4,000(ドリンク代別)
10月27日(土)仙台 CLUB JUNK BOX 17:30/18:00 ¥4,000(ドリンク代別)
10月28日(日)盛岡 the five morioka 17:30/18:00 ¥4,000 (ドリンク代別)
11月3日(土)新潟 CLUB RIVERST 17:30/18:00 ¥4,000(ドリンク代別)
11月4日(日)長野 LIVE HOUSE J 17:30/18:00 ¥4,000(ドリンク代別)
11月10日(土)福岡 DRUM Be-1 17:30/18:00 ¥4,000(ドリンク代別)
11月23日(祝)広島 4.14 17:30/18:00 ¥4,000(ドリンク代別)
11月24日(土)岡山 ペパーランド17:30/18:00 ¥4,000(ドリンク代別)
12月1日(土)梅田CLUB QUATTRO 17:30/18:00 ¥4,000(ドリンク代別)
12月2日(日)名古屋 CLUB QUATTRO 17:30/18:00 ¥4,000(ドリンク代別)
12月8日(土)渋谷 TSUTAYA O-EAST 17:00/18:00 ¥4,000(ドリンク代別)