シティ・ガールズ、バッド・バービー、ノーネーム……注目の新鋭女性ラッパー5選

No Name『Room25』

 ガラッと雰囲気を変えて紹介したいのが、シカゴのポエトリーラッパー、ノーネームの最新作『Room 25』です。2016年に発表したEP『Telefone』が大きな反響を呼んだノーネーム。2017年秋には初来日公演も行われ、チケットは即ソールドアウト。私もライブを拝見しましたが、まるでひまわりのようなスマイルを浮かべながら楽しそうに歌う彼女の姿を見て、ますますファンになったほどです。2年ぶりの新作『Room 25』は、前作同様、彼女の持ち味であるポエトリー風のラップスタイルはそのままに、アブストラクトな魅力を持つサウンドがとにかく素晴らしい出来。エクスペリメンタルなジャズの要素や、かつてネオソウルと呼ばれたサウンドを呼び起こすような雰囲気は、ノーネームの真骨頂と言えそうです。「Window」や「Don’t Forget About Me」などで聴くことができるストリングスのアレンジの美しさは見事で、彼女のラップと相まって涙が出そうなほどですし、万華鏡を覗いているかのような不思議な感覚に陥る「Regal」もしびれます。『Telefone』の発売後、ノーネームは地元シカゴからロサンジェルスへと住まいを移したそうで(『Room 25』の収録曲「No name」の中では” LAのイングルウッドに引っ越したけど、家賃がトラウマ級“とも打ち明けています)、そうした生活環境の変化も、本作には多分に影響しているのでしょう。そして、前作同様に、ユニークなフレーズを用いながらアメリカの現代社会をシニカルに、そして鋭く表現しているのも、彼女の魅力の一つ。タイトルからして刺激的な「Blaxploitation」では“ヒラリー・クリントンみたいにシステム(体制)に仮面をかぶせたのは誰かしら”と表現したり、「Prayer Song」では”LAは明るい街だけど、未だにダークだわ”というラインに憂いを閉じ込めています。一聴すると、そのサウンドの豊かさや美しさのみに耳が奪われてしまいがちですが、二度目は是非、リリックとともに彼女の作品を味わってほしいなと思います。きっと、一度聴いただけでは気が付かなかった作品の重みや奥行きを感じるはずです。

Tierra Whack『Whack World』

 ノーネームに負けないクリエイティビティを発揮している若手女性アーティストが、フィラデルフィア出身のティエラ・ワック。今年の5月にコンセプトアルバムとなる『Whack World』をリリースしました。この作品、1曲が1分の長さしかなく、全尺15分の内容になっています。そして、それぞれの楽曲にはコンセプトの異なるMVがあり、すべてをつなぎ合わせた映像作品が、同名の『Whack World』というタイトルでYouTubeにて公開されています。豊かなアイデアを元に作り込まれた映像は、1分という長さからも究極のインスタ映えMVとも捉えることができそう。彼女のインスピレーションの源は普段の生活からオーストラリアの子供番組にまで及ぶようで、音楽のジャンルもヒップホップを主軸としながらも、ポップスやカントリーの要素も盛り込むほどの幅の広さ。『Whack World』はあのアンダーソン・パークもお気に入りの作品にあげており、今後、さらなる活躍が期待できそうです。

Tierra Whack - Whack World

■渡辺 志保
1984年広島市生まれ。おもにヒップホップやR&Bなどにまつわる文筆のほか、歌詞対訳、ラジオMCや司会業も行う。
ブログ「HIPHOPうんちくん」
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blockFM「INSIDE OUT」※毎月第1、3月曜日出演

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