XXXTentacionは前向きに歩みを進めようとしていたーー若きラッパーが遺した作品の意義

ーーどこかに、どこかにいるんだろ
自分の思いにとらわれちまってるんだ、ガール、何とか踏み止まろうとしてる
特別な存在のフリをするのは嫌だ、僕らは何者でもない
ずっと君のことを考えちまう、もう我慢できないんだ
(XXXTentacion「Jocelyn Flores」より)

※タイトルになったジョセリン・フローレスはXXXTentacionの友人であり、自殺を図り命を落とした。

XXXTENTACION - Jocelyn Flores (Audio)

 既報の通りだが、現地時間の6月18日、ラッパーのXXXTentacion(XXXテンタシオン)が銃に撃たれて亡くなった。享年20歳だった。

 現地メディアが伝える事件の概要は以下の通り。場所はフロリダ州南部のディアフィールド・ビーチ。テンタシオンは、バイクやヨットを販売するRIVAモータースポーツ店を出て自身の車であるBMWのi8に乗り込んだところを、何者かによって撃たれたと見られている。また、テンタシオンはモータースポーツ店に向かう際に銀行で現金を引き出しており、その時点で3台の車に付けられていたのではという報道もあり、事件現場からはテンタシオンの持ち物であるルイ・ヴィトンのバッグが盗まれている。犯人は車の中から発砲し、少なくとも2人組であるとのこと。うち、一方が銃を放ち、テンタシオンは頸部を撃たれ即死に近い状態だったという。一方、同じ地元のラッパーらが、インスタグラム上に事件の現場となったモーターサイクル店に近い場所にいるとタグ付けした銃の写真を投稿したり、テンタシオンのことを揶揄するような投稿をしたりしていたとして、事件後すぐに彼らが犯人なのではという憶測がネット上を駆け巡った。しかし、警察は現時点で彼らの関与を否定(もちろん本人たちも否定)。本事件は、あくまで無差別に起きた強盗殺人事件だと見ており、現在、事件に関わったうちの一人として22歳の男性が逮捕されているという状況だ。

 テンタシオンは2014年頃からSoundcloud上に音源をアップし始め、ラッパーとしてのキャリアをスタートし始めた。最初にブレイクしたポイントは、2016年に発表した「Look At Me!」だろう。メタルやグランジなどのロック・ミュージックに影響を受けた、思いっ切りディストーションがかかったような割れたトラックを大胆に用いたこの曲は、新たなラップの才能として世間の注目を集めるに十分であり、2017年にはドレイクが本曲のフロウをそのまま借用しているのでは? と、テンタシオンとそのファンが、ドレイクに対して噛みつく騒ぎもあったほどだ。彼の楽曲に注目が集まると同時に、テンタシオンの私生活についても広く報じられることとなった。フロリダ南部のプランテーションという地区に生まれたテンタシオンは、シングル・マザーによって育てられた。彼を産んだ時、母親はまだ10代だったという。中学校に上がったテンタシオンは、暴力沙汰を起こして退学処分となり、その後、高校に進むも中退、そして銃の所持が原因で、15歳の頃には少年院へ入ることとなる。アーティスト活動を続ける中においても、強盗や重度の暴行事件、不法侵入といった罪状を突きつけられ、常に係争中(もしくはジェイルの中)といった状況であった。彼を取り巻く犯罪沙汰の中でもっとも大きな話題となっていたのが、妊娠中の元ガールフレンドへのDV案件だったかと思う。喉にナイフを突きつけられた、他のアーティストの曲を口ずさんだだけで踏みつけられ、舌を切ってやると脅された、ガラスのボトルで殴られたーーなどの凄惨な暴行の様子が彼女の口から伝えられた。ただ、この訴えは2017年12月に取り下げられている。訝しがる者もいたが、テンタシオンは、この棄却に先駆けて、DV被害の防止団体に対して10万ドル(約1,100万円)を寄付すると発言し、同時に「これまで自分が傷つけてしまった女性全てに対して謝罪したい」とも発言していた。

XXXTentacion『?』

 常にコントロヴァーシャルな話題を振りまいていた彼だが、2017年に発表したデビュー・アルバム『17』は、ケンドリック・ラマーもTwitter上で賞賛するまでの反響を呼び、2018年3月に発表された最新作、かつ遺作にもなってしまった『?』は、ビルボード・チャートでも初登場1位を獲得。世界的に支持されるまでになった彼の魅力を決定づける作品となった。躁鬱からくる孤独感や、厭世観、自分自身にどれだけの価値があるのか? と問うたり、自殺願望を語ったり、どれも生々しく、エモーショナルに響く彼のラップとメロディは、同世代のリスナーの心を掴むと同時に、多くの若者の共感を呼んだ。実際に、彼の音楽に救われたというリスナーも少なくないだろう。

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