乃木坂46、6度目にして生まれ変わったバースデーライブ “シンクロニシティLIVE”の全貌を解説

乃木坂46、“シンクロニシティLIVE”の意義

全曲披露を排除した新たなバースデーライブの形

 まず、乃木坂46のバースデーライブといえば、これまでにリリースされた全シングル/アルバムの収録楽曲をすべて披露するという特徴があった。開始から数年はリリース順にライブが進行していったが、昨年2月の『5th YEAR BIRTHDAY LIVE』は初日が橋本奈々未の卒業公演を兼ねていたことから、リリース順を無視した構成が取られた。また、昨年2月の時点で持ち曲が119曲に達し、今年7月の時点では163曲に達していることから、これだけの楽曲をすべて披露するには最低でも4〜5公演は必要になってくる。

 そういう意味でも、デビュー5周年という区切りのタイミングで全曲披露というテーマを一旦終了させ、2時間半〜3時間以内に収まるボリュームで、ライブでの人気が高い楽曲を中心にセットリストが構成された今年のバースデーライブは、今後を占う上でも非常に重要かつ注目すべき内容と言えるだろう。

 現時点でリリース済みのシングル20作品のうち、この3日間に披露されなかった表題曲はデビュー曲「ぐるぐるカーテン」と、深川麻衣が卒業タイミングでセンターを務めた14thシングル「ハルジオンが咲く頃」の2曲のみ。周年ライブで乃木坂46の原点といえる「ぐるぐるカーテン」を披露しなかったのは個人的に疑問が残るが、これも全体の流れを考えた苦渋の決断だったのだろう。

 一方で、アンダー楽曲に関しては「13日の金曜日」や「ここにいる理由」「あの日 僕は咄嗟に嘘をついた」「シークレットグラフィティー」といったライブ映えする人気曲に加え、今年1月に発売されたアンダーアルバム『僕だけの君〜Under Super Best〜』のリード曲にしてこの季節にぴったりな「自惚れビーチ」をセットリストに組み込んでいる。最新シングル『シンクロニシティ』のアンダー曲「新しい世界」で鈴木絢音がセンターを務めていることもあり、同じく彼女がセンターに立つ「自惚れビーチ」をセレクトしたのも頷ける。

 ユニット曲に関しては各日とも4曲程度に抑えられており、その中には初日に西野七瀬、2日目に白石麻衣、3日目に生田絵梨花がそれぞれソロ曲を用意。選出された楽曲群は単なる人気曲というだけでなく、セットリストの流れや稼働メンバーと前後の披露楽曲との兼ね合いなども考えられているように思える。

 これまでのようなアニバーサリー感は若干希薄だったが、『真夏の全国ツアー』と銘打たれていることもあり、バースデーライブのみ“シンクロニシティLIVE”という特別感を持たせ、以降のスタジアムライブは今回のセットリストがある程度反映されたものになるのではないだろうか。おそらくここからは、8月8日にリリースを控えた21stシングルの選抜/アンダーを軸にした構成にシフトするだろうが、今回のようなセットリストなら乃木坂46全体に光が当たることになり、次の項で記す「乃木坂46の“今”」を明確に提示できるはずだ。

4期生加入目前にした乃木坂46の“今”

 今回は選抜メンバーのセンター白石麻衣に対して、アンダーメンバーのセンターに立つ鈴木絢音の存在感に目を奪われた者も多かったのではないだろうか。筆者もここ数年、アンダーライブを通して彼女のパフォーマンスに惹きつけられてきたひとりだが、今年5月の『アンダーライブ全国ツアー2018〜中部シリーズ〜』で得た自信によって、さらに逞しさが増したように思えた。その結果が、21stシングルでの選抜メンバー初選出につながったと考えれば、すべて合点がいく。

 また、彼女を取り巻く中田花奈、斉藤優里、山崎怜奈ら1〜2期生、約1年ぶりにライブにフル参加する北野日奈子、そしてすでに先輩たちに負けず劣らずのパフォーマンスを見せる3期生もそれぞれ存在感を増しており、華のある選抜メンバーとはひと味違った世界観で観る者を楽しませてくれた。こういう大規模なライブでは初めて乃木坂46のライブを観るという人も少なくないだろうし、そういった人たちには「メディアでよく目にする選抜メンバーこそが乃木坂46」という認識があるかもしれない。しかし、まるでアンダーライブが取り込まれたかのような今回のセットリストを通して、「選抜/アンダー含めて乃木坂46」と実感してもらえたのではないだろうか。

 そして、今回の3公演でもっとも興味深かった試みが、初日と2日目公演のアンコールで実施された、抽選による2会場メンバーシャッフルだ。アンコールを待つ間、スクリーンには各会場に登場するメンバーがひとりずつアナウンスされていく。ファンは自分がいる会場にお気に入りのメンバーが来るのか、ここで一喜一憂することだろう。メンバーの名前がアナウンスされるたびに、両会場に響き渡る喜びの歓声と落胆の声。ここまで含めエンターテインメントとして昇華されているところにも、今回のライブに対するこだわりが感じられる。

 メンバーがシャッフルされるということは、つまり1期生から3期生までが入り混じった編成で乃木坂46の楽曲を披露することを意味する。昨年の神宮公演では期生別パフォーマンスが大反響を呼んだが、1年経った今、乃木坂46は本当の意味で“ひとつ”になったのかもしれない……そう思わずにはいられない瞬間だった。「インフルエンサー」では、各会場でダブルセンターを白石麻衣&山下美月、西野七瀬&与田祐希が務めたこともそのひとつだ。昨年のツアーや東京ドーム公演ではまだ遠慮があった3期生も、今回は大きな戦力のひとつとして重要な役割を果たしている。もちろんそれは2期生にも言えることで、乃木坂46は結成7周年を前にまた新たなステージに突入したのかもしれない。

 と同時に、それは8月に控えた新メンバー加入を目前にして、グループがさらに強いものへと進化した表れでもある。2年前の神宮公演以来となる豪雨の中でのパフォーマンスも、初期の彼女たちだったらきっと必死に食らいつくような姿を見せていたかもしれないが、今は違う。その過酷な状況すら楽しんでいるように映り、そこには頼もしさが感じられた。

 昨年末の日本レコード大賞受賞、そして今年4月発売のシングル『シンクロニシティ』は発売初週でミリオン到達。こういった事実から、「乃木坂46の人気は今がピーク」と捉える者も多いかもしれない。しかし、彼女たちは守りに入ることなく、新たな“攻め”の形とともにさらなる成長を続けている。最終日のアンコールで披露された21stシングルの表題曲「ジコチューで行こう!」は今までの“夏曲”とは若干異なるカラーが感じられるし、アンダー楽曲「三角の空き地」も従来の“アンダー楽曲らしさ”を引き継ぎつつ新たな形を見せようとしている。この夏は乃木坂46にとって、今のピーク感を持続させるため、あるいはここよりもさらに上へと登りつめるために、非常に重要な期間になるだろう。そういった意味では、今回のバースデーライブは単なる周年ライブで終わらない、新たな始まりを告げる3日間だったのではないだろうか。これから始まるスタジアムツアーを経て、彼女たちがどこまで坂を駆け上がり続けるのか、引き続き見守りたい。

■西廣智一(にしびろともかず) Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。

<セットリスト>
乃木坂46『真夏の全国ツアー2018 〜6th YEAR BIRTHDAY LIVE〜』
2018年7月6日(金)〜8日(日)明治神宮野球場&秩父宮ラグビー場 セットリスト
※曲名後の(明)は明治神宮野球場、(秩)は秩父宮ラグビー場で披露された楽曲。特に表記がない場合は2会場共通。

7月6日
00. Overture
01. 自惚れビーチ(明)/裸足でSummer(秩)
02. 13日の金曜日(明)/夏のFree&Easy(秩)
03. 新しい世界(明)/太陽ノック(秩)
04. 風船は生きている(明)/今、話したい誰かがいる(秩)
05. アンダー(明)/何度目の青空か?(秩)
06. 走れ!Bicycle
07. ロマンスのスタート
08. DANCEナンバー
09. 制服のマネキン
10. 命は美しい
11. いつかできるから今日できる(明)/あの日 僕は咄嗟に嘘をついた(秩)
12. ガールズルール(明)/シークレットグラフィティー(秩)
13. 雲になればいい(明)/誰よりそばにいたい(秩)
14. でこぴん(明)/僕の衝動(秩)
15. 釣り堀(明)/トキトキメキメキ(秩)
16. Threefold choice(明)/三番目の風(秩)
17. 誰よりそばにいたい(明)/逃げ水(秩)
18. あの日 僕は咄嗟に嘘をついた(明)/いつかできるから今日できる(秩)
19. シークレットグラフィティー(明)/ガールズルール(秩)
20. 僕の衝動(明)/雲になればいい(秩)
21. トキトキメキメキ(明)/でこぴん(秩)
22. 三番目の風(明)/釣り堀(秩)
23. 逃げ水(明)/Threefold choice(秩)
24. 何度目の青空か?(明)/自惚れビーチ(秩)
25. 今、話したい誰かがいる(明)/新しい世界(秩)
26. シンクロニシティ
27. 太陽ノック(明)/13日の金曜日(秩)
28. 夏のFree&Easy(明)/風船は生きている(秩)
29. 裸足でSummer(明)/アンダー(秩)
30. 君の名は希望

<アンコール>
31. インフルエンサー
32. ハウス!
33. ダンケシェーン
34. 乃木坂の詩

7月7日
00. Overture
01. 裸足でSummer(明)/自惚れビーチ(秩)
02. 夏のFree&Easy(明)/風船は生きている(秩)
03. 太陽ノック(明)/13日の金曜日(秩)
04. 今、話したい誰かがいる(明)/新しい世界(秩)
05. 気づいたら片思い(明)/アンダー(秩)
06. 走れ!Bicycle
07. ハウス!
08. DANCEナンバー
09. 制服のマネキン
10. 命は美しい
11. 誰よりそばにいたい(明)/バレッタ(秩)
12. ここにいる理由(明)/ガールズルール(秩)
13. My rule(明)/Rewindあの日(秩)
14. 思い出ファースト(明)/あらかじめ語られるロマンス(秩)
15. 未来の答え(明)/オフショアガール(秩)
16. 三番目の風(明)/やさしさとは(秩)
17. 逃げ水(明)/ここにいる理由(秩)
18. バレッタ(明)/My rule(秩)
19. ガールズルール(明)/誰よりそばにいたい(秩)
20. Rewindあの日(明)/思い出ファースト(秩)
21. あらかじめ語られるロマンス(明)/未来の答え(秩)
22. オフショアガール(明)/三番目の風(秩)
23. やさしさとは(明)/逃げ水(秩)
24. 自惚れビーチ(明)/気づいたら片思い(秩)
25. 新しい世界(明)/今、話したい誰かがいる(秩)
26. シンクロニシティ
27. 13日の金曜日(明)/太陽ノック(秩)
28. 風船は生きている(明)/夏のFree&Easy(秩)
29. アンダー(明)/裸足でSummer(秩)
30. 君の名は希望
<アンコール>
31. インフルエンサー
32. ロマンスのスタート
33. ロマンティックいか焼き
34. 乃木坂の詩

7月8日
00. Overture
01. 自惚れビーチ(明)/裸足でSummer(秩)
02. 13日の金曜日(明)/夏のFree&Easy(秩)
03. 新しい世界(明)/太陽ノック(秩)
04. 風船は生きている(明)/逃げ水(秩)
05. アンダー(明)/サヨナラの意味(秩)
06. 走れ!Bicycle
07. ダンケシェーン
08. DANCEナンバー
09. 制服のマネキン
10. 命は美しい
11. きっかけ(明)/不等号(秩)
12. ガールズルール(明)/シークレットグラフィティー(秩)
13. あの教室(明)/誰よりそばにいたい(秩)
14. 僕が行かなきゃ誰が行くんだ?(明)/僕の衝動(秩)
15. 低体温のキス(明)/トキトキメキメキ(秩)
16. 意外BREAK(明)/三番目の風(秩)
17. 誰よりそばにいたい(明)/インフルエンサー(秩)
18. 不等号(明)/きっかけ(秩)
19. シークレットグラフィティー(明)/ガールズルール(秩)
20. 僕の衝動(明)/あの教室(秩)
21. トキトキメキメキ(明)/僕が行かなきゃ誰が行くんだ?(秩)
22. 三番目の風(明)/低体温のキス(秩)
23. インフルエンサー(明)/意外BREAK(秩)
24. サヨナラの意味(明)/自惚れビーチ(秩)
25. 逃げ水(明)/新しい世界(秩)
26. シンクロニシティ
27. 太陽ノック(明)/13日の金曜日(秩)
28. 夏のFree&Easy(明)/風船は生きている(秩)
29. 裸足でSummer(明)/アンダー(秩)
30. 君の名は希望
<アンコール>
31. ロマンスのスタート
32. 転がった鐘を鳴らせ!
33. 三角の空き地(明)/ジコチューで行こう!(秩)
34. 乃木坂の詩
35. ジコチューで行こう!(明)/三角の空き地(秩)
36. ハウス!
37. おいでシャンプー
<ダブルアンコール>
38. ガールズルール

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