w-inds. 橘慶太×m-flo ☆Taku Takahashi対談【前編】 それぞれの楽曲制作との向き合い方

橘慶太×☆Taku Takahashi対談【前編】

 3人組ダンスボーカルユニット・w-inds.のメンバーであり、作詞・作曲・プロデュースからレコーディングにも関わるクリエイターとして活躍中の橘慶太。彼が作り出す現行のダンスミュージックの潮流を捉えた洗練されたサウンドは、国内外問わず多くの評価を獲得している。

 リアルサウンドでは、そんな橘慶太がコンポーザー/プロデューサー/トラックメイカーらと「楽曲制作」について語り合う、対談連載をスタートする。記念すべき第1回のゲストは、DJ、プロデューサーの☆Taku Takahashi(m-flo)。今回は取材日前後、☆Takuが知人と作業スペースとして借りていたというスタジオに伺い、それぞれの楽曲制作法の違いや制作者ならではの悩みなど、赤裸々に語り合ってもらった。【前編】(編集部)

僕が作る音楽は偶然の産物(☆Taku)

☆Taku Takahashi、橘慶太

☆Taku:w-inds.はみんなで音を作るんですか?

慶太:音作りは基本的には僕が一人でやっているので、全部任せてもらっています。メンバーは僕が作ったものを信頼してくれていて。m-floさんはどうですか?

☆Taku:うちはもうLISAが毎日もっとブンブンブンブン鳴らしてくれって(笑)。「☆Takuちゃーん! もっとブンブンしたのー! もっとブンブンするのやろうよーっ!」って。低音が鳴ってるのをやろうってことなんですけど(笑)。

慶太:やっぱりお好きなんですね! そういう音が。

☆Taku:そうなんですよ。「もっと、Migosみたいなの! 私はおしりを振りたいの!」「でもさあ、Migosのトラックでメロウってあり得る?」「……ないね」みたいなやりとりをよくしています(笑)。

慶太:(笑)。制作はみなさんで話しながら進めているんですか?

☆Taku:わりと僕が作ったものをそのままやってくれるんですけど、「もうちょっとインターナショナルに」ということはLISAからよく言われますね。その感じをどうやって出すのかをみんなで話し合います。

慶太:楽曲を作るスピードは?

☆Taku:僕、すっごい時間がかかる人です。「こういう感じの今のトレンドの音を作ってほしい」という具体的なオーダがあれば、たぶん2日くらいでできる。でも、自分がやろうとしてることをかたちにしようとすると、1曲1週間はかかっちゃうかな。クライアントがある仕事では着地点がなるべく見えるものを作るんですけど、m-floの場合は最初のデモと最終形が変わることが多い。というか、2曲作ってる感じです。

慶太:デモの原型がないということですか? メロも違う?

☆Taku:要はデモでLISAがメロを書いて、VERBALがラップを書いて、そこからリミックスする感じ。だからやってみて「なんか違くない?」って時もありますね。その後どうするかはみんなで話し合って決めます。でも「よくなったじゃん!」ってことがほとんどですけどね。

慶太:トラックを作るのは、Takuさんお一人ですか?

☆Taku:僕が作る、プラス鍵盤が弾けないので鍵盤の人を呼ぶ時もあるし、ギタリストに来てもらうこともあります。最近、僕の中では生楽器が再ブームで。ずっとエレクトロニックだけでやってたんですけど、飽きちゃったんですよね。生とサンプリング(サンプラーで録音して楽曲に組み入れる)する方が楽しいなって。今はシンセを使えば着地したい音に誰でも大体できちゃうんですよ。でも、僕がそれをやると、事故が起こらずにこじんまりしちゃう。もっと打ち込みが上手い人とか、それ以上の着地ができる人ももちろんいるんですけど、僕の場合は不器用にやった方が面白い方向に行くというか。こじんまりしないんです。

慶太:生だとそういうことが起こりやすい。

☆Taku:生とサンプリングですね。

慶太:サンプリングはどういうところが魅力ですか?

☆Taku:入っちゃいけない音が混ざってくるのがいいんですよね。

慶太:ディチューン(周波数に与える微妙なズレ。主にエコーやコーラスなどの効果を作るために利用)っぽい感じ?

☆Taku:ディチューンさせてるわけではなくて、空気なんですよ。フィルター(一定部分の音域をカット)するとその音はほとんど聞こえていないから、すごく細かくいえばディチューンされてるということになるのかもしれないですけど、どっちかっていうと空気感で。トップで聞こえる音が合っていれば、フィルターでいろいろとはまってくれるんです。

慶太:Takuさんは音をレイヤーするタイプですか?

☆Taku:シンセとサンプル(サンプリングの過程で録音した素材)を混在させるのは好きですね。サンプルじゃないと出ない感じがあるんですよ。

慶太:わかります! あれって何なんですかね?

☆Taku:たぶん、余計な音が入るからだと思います。本来あるべきではない音が入ってるというか。それこそディチューンもその要素の一つではありますけど。

慶太:なるほど。シンセとサンプル、今度真似してみよう(笑)。

☆Taku:僕が作る音楽は偶然の産物なので、とにかくいろいろ試すしかないんです。目指したい方向はあるんですけどね。だから、そういう意味でいうと僕は演奏してないんですよ。試してコラージュしてるだけ。10回失敗して、11回目でハマるものがあるみたいな。それが僕の場合の打ち込みの醍醐味ですね。w-inds.の曲でもシンセを使ってるものは多いですよね。

慶太:そうですね。僕が最新機器が好きというのもあって。サンプルはめちゃくちゃ使います。あと僕も最近、ギターは生で録ることもあります。ほかにどんな楽器を生で入れます?

☆Taku:あとはストリングスとウッドベースが多くて、その音を切って使うことが多いですね。m-floの作品では、ダンスミュージックのお作法は全部無視なんです。この音を使ったらこうなるよね、このジャンルになるよねってあるじゃないですか。簡単なところで言うと、トロピカルハウスだと、うねった声のサンプルを使うところをその声は使わないとか。たぶん今、僕がトロピカルハウスを作ることはまずないと思うんですけどね。それをやるのは僕じゃなくてもいいかなって思うので。

慶太:それってでも、仮にトロピカルハウスを作るとしたら、そのサウンドを目指して作るってことですよね?

☆Taku:うん、目指すけど間違いたいんですよ。間違ったトロピカルハウスを作りたい。

慶太:既存のものでは面白くないと思ってしまうっていうことですか?

☆Taku:そもそもトロピカルハウスになりきれないものが面白いのかなって。だから、リアルじゃないって言われるのがすごく好きです。リアルサウンドでこう言うのもなんだけど(笑)。

慶太:(笑)。でも、その考え方、すごく憧れます。僕は音楽を作っているとそういう気持ちに全然なれなくて。トロピカルハウスはこうじゃなきゃだめだとか、フューチャーベースはこうじゃなきゃだめだとか、すぐ思っちゃうから。

☆Taku:わかりますよ! それは正しいと思うし、やっぱりやるなら完成形にしたいですよね。でも、その完成形を作る人がいるから、僕はいいやって思うんです。

慶太:なるほど、それは僕には足りない考え方かもしれないです。

海外トラックメーカーから影響を受けた制作スピード(慶太)

☆Taku:そう、w-inds.の曲はだいたいどれくらいの期間であがるんですか?

慶太:一瞬ですね。1日でミックスまでやります。

☆Taku:今の時代、そのスピード感は大事ですよね。

慶太:海外のトラックメーカーとコライト(複数人で作曲)した時に、トラックメーカーがコードを弾きだしたら、トップライナーがいきなりメロディをつけだして、約5時間で1曲を完成させてたんです。これができなければ自分は置いていかれるんじゃないかと不安になりました。だからそれに影響されて、僕も早くやらなきゃいけないと思うようになりましたね。

☆Taku:クリエイターズキャンプもそうですけど、アメリカは本当にすごい。リラックスした雰囲気づくりを大切にしつつ、ちゃんと結果を残せないとクビ飛ばされちゃうよっていう緊迫感、さらにスピード感もある。クリエイターが本当にハングリーで、みんな“終わり”に対する意識が強いですよね。

慶太:そうなんです。そこは僕も意外でした。ちなみにTakuさん、コライトはされますか?

☆Taku:僕は無理です。そんなに器用じゃないですよ。言われたことをすぐにパッパッパッてできないし。だから……。

慶太:一人で、緻密に。

☆Taku:うん。もちろんやる時はありますけど、コライトは向いてないなって思いますね。僕が投げたアイデアを誰かが受けて返してきて、さらにそれに返すというキャッチボール、コラボレーションは好きなんですけど。決められた方向性がある場合はコライトだと難しいかなと思うし。得意ですか?

慶太:僕、めっちゃ好きですね。人と一緒に作る方が楽しくなっちゃう。前にずっと一人で作っていたら、「何やってるんだろう」とふと思ってしまったことがあって。w-inds.に山好きなメンバーが一人いるんですけど、彼は今頃山に行ってるんだろうなとか思うと「この違いは何なんだ!」と(笑)。広々とした作業場で一人、孤独に入っちゃったことがあって。

☆Taku:楽曲制作は孤独になりますよね。だから僕が好きなのは、打ち込みしている時に後ろで友だちがピザを食べたりしてくれてる感じで(笑)。

慶太:わかります!

☆Taku:「どう?」ってすぐ聞けるし。そういうのが好きです。

慶太:いいですよね! やっぱり一人だと苦しくなるというか。

☆Taku:音楽を作る、しかも人に聞かせるものを作るって、一つの承認欲求だと思うんですよ。そんな承認欲求がある中、これがイケてるのか、イケてないのかっていう判断が自分だけではできない時がある。さらに一番よくないのが、「これを聞いて、みんながどう思うんだろう?」って思いだしちゃうこと。その不安にかき立てられていくというか。

慶太:ありますね……。

☆Taku:あと僕、一人だとさぼっちゃうんです。というより、人がいてもいなくてもさぼっちゃうんですが(笑)。だけど、モノづくりする時って時間がなかったり、自分が追い詰められていないとダメなんです。悲しい性なんですけど。ゆとりがある時に作った曲より、めちゃくちゃ睡眠時間も少なくて、めちゃくちゃ忙しい時の方がいいものが生まれやすい。

慶太:感覚が研ぎ澄まされている?

☆Taku:うん、そういう追い詰められた時に生まれるものって強いんです。負荷がかかっていた方がいいんだなって最近思います。それまでは少しでもいい音楽環境、リラックスした環境を作ることを重視していたんですけど、それよりもいかに追い詰められた状況を作るかなんだなって。健康にはよくないですよ。でもその方が自分がのめり込めるものができるんです。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「連載」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる