チャットモンチーからゆるふわギャングまで スーパーカーが後続に与えた影響を振り返る

 前置きが長くなってしまったが、00年代の日本でスーパーカーの直接的な影響下にあるバンドといえば、まずはいしわたりがプロデューサーとして関わったチャットモンチーと9mm Parabellum Bulletが挙げられる。徳島から突如現れたチャットモンチーは、どこかスーパーカーの登場を彷彿とさせるものがあったし、9mmはそれまでのインディー的な立ち位置から、よりマスへと開かれて行くにあたって、いしわたりの存在が大きかったように思う。

 一方、ナカコーはthe telephonesが2010年に発表した『A.B.C.D. e.p.』のプロデュースを担当。サウンドメイキングを担当する石毛輝は、ナカコーのことを「師匠」と呼んで慕っていて、ナカコーのソロであるNYANTORA~iLLにおけるより繊細なエレクトロニカ的アプローチは石毛のソロ作にも通じるし、女性ボーカルを起用したlovefilmは、初期スーパーカーにも近い世界観を持ったバンドだと言えよう。

 また、Base Ball Bearは男女ツインボーカルという編成や、その思春期性から、デビュー当時にスーパーカー(とNUMBER GIRL)とよく比較されていたが、実際に学生時代はスーパーカーをコピーし、当時のバンド名がスーパーカーの曲名である「PLANET」だったというエピソードも残っている。そして、彼らの盟友であるサカナクションは、まさにスーパーカーが提示した「バンドとダンスミュージックの融合」を00年代に、さらには2010年代へと押し進めた存在だと言っていいだろう。「YUMEGIWA LAST BOY」や「AOHARU YOUTH」といった『HIGHVISION』期の曲タイトルも、初期のBase Ball Bearやサカナクションに影響を与えていると思われる。

 では、2010年代における影響を考えてみると、スーパーカーの楽曲に対する発想自体が、現在のシーンのベーシックになっていると言ってもいいかもしれない。「バンドとダンスミュージックの融合」というアイデアに始まり、『HIGHVISION』へと至るスーパーカーの歩みというのは、つまり「リズムや音色、楽曲の構造そのものを見つめ直す」という作業であり、既存のロックバンドとは根本的に違う発想で楽曲が作られていたと言える。それはNYANTORAからiLL、LAMA、そして、2014年発表の傑作『Mastepeace』へと至る解散後のナカコーのキャリアが体現しているものでもあり、彼の音楽の基本はミニマリズムで、常にアンビエント的な「音像」そのものへの探求を続けてきたのである。

 そして、これはシンセやサンプリングパッドなどを用いて、クラブミュージックをバンドで体現する近年の若手の多くがあらかじめ備えている感覚だと言っていいだろう。例えば、『HIGHVISION』に多大な影響を与えた砂原良徳が、METAFIVEなどの活動を通じて若手に再発見され、近年D.A.N.やDATSといったバンドの作品に参加しているのは、スーパーカーの発想の延長線上にあるように思う。

 その顕著な表れとなったのが、ベスト盤と同日に発表されるゆるふわギャングの『Contains Samples from SUPERCAR』。彼らは以前からスーパーカーのファンを公言し、今回スーパーカーの楽曲をサンプリングして新曲を制作。ここで使われているのも『HIGHVISION』収録の「YUMEGIWA LAST BOY」と「Strobolights」であり、そのアンビエント的な音像しかり、エスケーピズムの感覚も持ち合わせるロマンティックな世界観が、ジャンルの枠組みを超え、現代でも十分有効であることを物語っている。

 これ以外にも、デビュー当時にいしわたりがプロデュースを務めたねごとが近年ダンスミュージック路線を突き詰め、BOOM BOOM SATELLITESの中野雅之と益子樹を迎えて完成させた『ETERNALBEAT』は後期スーパーカーのアップデート版のよう。また、現在いしわたりがプロデューサーとして関わっているBURNOUT SYNDROMESの『檸檬』や、90年代的なバンド感や歌詞の思春期性がスーパーカーに近いラブリーサマーちゃんの『LSC』などは、「青ジャケ」も含め、『スリーアウトチェンジ』のアップデート版のように思える。

 スーパーカーの音と意志は、間違いなく現代へと受け継がれている。そして、それは本稿で挙げた多くのアーティストが体現しているように、決してジャンルの枠で括られるようなものではない。それをあえて言葉にするならば、「美しさ」ということになるだろうか。ロックバンドの美しさ、青春の美しさ、サウンドの美しさ、クリエイティブに対する透徹とした目線の美しさ。これまでスーパーカーのアートワークを数多く手掛けてきたCentral 67の木村豊による『PERMAFROST』の鉱石ジャケは、今もキラキラと輝き続ける普遍的な美しさの象徴のようだ。

■金子厚武
1979年生まれ。埼玉県熊谷市出身。インディーズのバンド活動、音楽出版社への勤務を経て、現在はフリーランスのライター。音楽を中心に、インタヴューやライティングを手がける。主な執筆媒体は『CINRA』『ナタリー』『Real Sound』『MUSICA』『ミュージック・マガジン』『bounce』など。『ポストロック・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック)監修。

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