チャットモンチーの奔放かつ繊細な音楽世界 初のトリビュート作にあるバンドへの愛情と存在感
20代前半のバンドに「好きな日本のバンドは?」と質問すると、男性のバンドの答えはかなりバラけるのだが(ASIAN KUNG-FU GENERATION、ACIDMAN、ストレイテナー、ELLEGARDEN、銀杏BOYZなど)、女性のバンドは「チャットモンチー」が圧倒的に多い。女性の感情を独自の言語感覚を用いて描いた歌詞、オルタナティブ〜エモなどの要素をナチュラルに反映させた音楽性、ギター、ドラム、ベースが生々しくぶつかり合うバンドサウンド。どこまでも自然体であるがゆえに、常にメインストリームに対するカウンターとして存在してきたチャットモンチーは、00年代後半〜テン年代のバンド(特にガールズバンド)に計り知れない影響を与え続けている。SHISHAMO、yonige、CHAIといったエッジーかつポップなバンドが次々と登場している現状は、チャットモンチーの存在なしには考えられないと言っていいだろう。
多面的な魅力を備えたチャットモンチーだが、まず挙げたいのは歌詞の素晴らしさ。メジャーデビュー後の初のフルアルバム『耳鳴り』の収録曲「ハナノユメ」の〈薄い紙で指を切って 赤い赤い血がにじむ/これっぽちの刃(やいば)で/痛い痛い指の先〉という歌い出しはあまりにも有名だが、リスナーの脳内に鮮烈なビジョンを与えると同時に、ちょっとしたことで鋭利な痛みを感じ取ってしまう感情を表現したこのフレーズは、チャットモンチーの歌詞の独創性をはっきりと証明していた。彼女たちの楽曲はほとんどが“詞先”。メンバーの橋本絵莉子(Vo&Gt)、福岡晃子(Ba)、高橋久美子(Dr)が紡ぎ出す個性的な言葉に橋本がメロディを付け、3人で音を交わしながら独自のロックミュージックへと昇華する。このスタイルはデビュー当初からすでにできあがっていたと言っていい。
トレンドに左右されることなく、自分たちの感覚を信じながら変化を続けてきたことも、このバンドが強く支持されてきた理由だろう。天然のオルタナミュージックと呼ぶべき瑞々しいサウンドとポップかつエモーショナルな歌がひとつになったデビュー作『chatmonchy has come』、ソリッドかつ独自性の高いギターロックでその才能の全貌を表した『耳鳴り』、カラフルな大衆性とマニアックな実験性を見事に共存させた『生命力』、徐々にセルフプロデュースに移行し、同時代のインディーロックともリンクした音楽性で新境地を切り開いた『告白』。さらに『YOU MORE』を経て高橋久美子が脱退し、福岡・橋本の2人体制になった後も、バンドの既成概念を打ち破った『変身』、サポートメンバーを加えて音楽性を拡大させた『共鳴』と、チャットモンチーはまったく止まることなく前進を続けてきた。根底にあるのは”自分たちの音を鳴らす”という純粋にして強靭な意志。決してブレないスタンスこそが、チャットモンチーの凛とした存在感の源であることはまちがいないだろう。
2018年7月をもって“完結”することを発表したチャットモンチー。3月28日にリリースされた初のトリビュートアルバム『CHATMONCHY Tribute 〜My CHATMONCHY〜』には、全16アーティストによるカバーが収録されている。本作のオフィシャルインタビューでメンバーの2人は「(トリビュートアルバムは)普通のアルバムとは全然違う、おそらく本人たちがいちばん嬉しいであろう作品っていうイメージだったんですけど。今回、実際にトリビュートしてもらったら、まさにそのイメージ通りでした」(橋本)「そのバンドがトリビュートする相手に対してどうアプローチするのか、みたいなところが楽しいんですよ。素直にいいカバーだなって思うアプローチもあれば、概念から変えていこう、みたいなやり方をする人もいてすごく面白いなって」(福岡)とコメント。その言葉通り、各アーティストのチャットモンチーに対する愛情と独自のアプローチを体感できる作品に仕上がっている。
ライブの臨場感をそのままパッケージした、忘れらんねえよの「ハナノユメ」、海外のインディーロックとリンクしたアレンジと女子のかわいさが詰まったボーカルが印象的なCHAIの「Make Up!Make Up!」、緻密に構築されたコード進行、エッジーなギターリフを軸にしたPeople In The Boxの「初日の出」。サビではじまるドラマティックなアレンジのなかでエモーショナルな歌が響くフジファブリックの「きらきらひかれ」、ソウルミュージックのテイストを取り入れ、シックな雰囲気をまとった川谷絵音の「真夜中遊園地」、港カヲルの独唱で始まり、途中でチャットモンチーの2人が参加したコントを挟むグループ魂の「恋愛スピリッツ」。原曲の素材を使ったトラック、グルーヴ感溢れるラップでリミックス風に仕立てたスチャダラパーの「余談(スチャットモンチー ver.)」、ゆったりと流れるバンドサウンド、歌詞を丁寧に紡ぐような歌が原曲の良さを引き立てるきのこ帝国の「染まるよ」、そして、東京への憧れをテーマにした楽曲を暴力的にカッコいいロックンロールに昇華したギターウルフの「東京ハチミツオーケストラ」。さらに公募オーディションで645組のなかから選ばれた、ペペッターズ(「こころとあたま」)、月の満ちかけ(「小さなキラキラ」)の音源も収録されている。
驚くほどにバラエティに富んだトリビュートだが、すべてを聴き終わった後に感じるのは、チャットモンチーというバンドが築き上げてきた音楽世界の豊かさだ。メンバー自身の音楽的な欲求に従いながら、奔放かつ繊細な創作活動を続けてきたチャットモンチー。このトリビュートアルバムの大充実ぶりは、彼女たちの真摯で自由なクリエイティブを改めて示していると言えるだろう。
■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。
■リリース情報
『CHATMONCHY Tribute 〜My CHATMONCHY〜』
発売:2018年3月28日
価格:¥3,200(税抜)
〈収録曲〉
1. ハナノユメ / 忘れらんねえよ
2. Make Up! Make Up! / CHAI
3. シャングリラ / ねごと
4. 初日の出 / People In The Box
5. 惚たる蛍 / Homecomings
6. こころとあたま / ペペッターズ
7. バスロマンス (Inst.) / YOUR SONG IS GOOD
8. きらきらひかれ / フジファブリック
9. 世界が終わる夜に / 集団行動
10. 真夜中遊園地 / 川谷絵音
11. 湯気 / Hump Back
12. 恋愛スピリッツ / グループ魂
13. 余談 (スチャットモンチー ver.) / スチャダラパー
14. 染まるよ / きのこ帝国
15. 小さなキラキラ / 月の満ちかけ
16. 東京ハチミツオーケストラ / ギターウルフ