栗本斉の「温故知新 聴き倒しの旅」第11回
スーパーカーのオールタイムベストは彼らの最適なガイドであるーー栗本斉の『PERMAFROST』評
昨年、デビュー20週年を迎えた日本のロックバンド、スーパーカーが、初のオールタイムベストアルバム『PERMAFROST』をリリースした。中村弘二(Koji Nakamura/Vo/Gt)、石渡淳治(いしわたり淳治/Gt)、フルカワミキ(Vo/Ba)、田沢公大(Dr)というメンバー4人全員がまだ10代の頃に青森で結成され、2005年に解散するまで日本のロックシーンに大きな足跡を残した彼らは、90年代から00年代にかけて非常に存在感があったわけだが、ではどういうバンドだったかというと、説明するのがなかなか難しい。メンバーの個性はそれぞれ際立っているし、音楽性も豊かで独自のものであったが、一言で彼らを表現する言葉がなかなか見つからないのである。
というのも、彼らは目まぐるしく音楽性を変化させていったからだ。衝撃的だったデビューアルバム『スリーアウトチェンジ』(1998年)は、19曲入りというボリュームにおいても話題になったが、何よりもUKのギターロックやシューゲイザーなどを消化し、彼ら流のバンドサウンドに落とし込んでいたことで評価を得た。デビューシングルとなった「cream soda」の疾走感はこの時期ならではだ。続く 2ndアルバム『JUMP UP』(1999年)ではその路線を継承しつつも、さらにノイジーでエフェクティブな世界を追求。全体的に霞がかったボーカルが不思議な感覚を生み出しており、「Love Forever」のようなメランコリックな雰囲気も独特だ。
しかし、3作目の『Futurama』(2000年)では大胆にプログラミングを導入。トランシーな「WHITE SURF style 5.」を筆頭に、エレクトロニカとロックの融合を試み始める。その成果は砂原良徳をサウンドプロデューサーに迎えた4作目の『HIGHVISION』(2002年)で結実し、「AOHARU YOUTH」や「STORYWRITER」のようなメロディアスなナンバーが多い一方で、ロックだけでなくテクノシーンまでも見据えた作品となった。ラスト作となった『ANSWER』(2004年)にいたっては、「WONDER WORD」や「BGM」のようにどういうバンド形態なのかわかりにくいサウンドも多い。
このようにバンドが性急に進化していったこともあって、彼らの代表作を選ぶとなると迷ってしまう。おそらく、ファンにとっても違うだろうし、逆に言えばすべてが一歩先を予感させるような実験作のため、誰もが認める名盤とは評価しづらいのだ。当時のオリコンチャートを指標にするならば、タイアップ楽曲が多かった『HIGHVISION』が11位と最高位であり評価も高いが、それでも彼らの決定盤かというと、異論も多いことだろう。
また、彼らの音楽を掴みきれないのは、ボーカルにも要因がある。基本的には中村がメインではあったが、「DRIVE」や「Strobolights」のように楽曲によってはフルカワが前面に立つナンバーも多数あり、おまけに「Lucky」のようなツインボーカルさえあるのだ。そしてこれらが代表曲として位置付けられているからややこしい。加えて、デビュー当時からボーカルのレンジは比較的低めに抑えられており、バンドと同化している印象が強い。メロディはキャッチーなのだが、サウンド志向であり、歌モノという感覚が低いというのも、どこかわかりにくい印象を与えている。他のバンドとの違いを明確にするならば、同じ頃に登場したくるりやナンバーガールのフロントマンを思い浮かべれば言わずもがなだ。
しかし、バンドにとってウィークポイントになりかねないこれらの要素こそが、スーパーカーの魅力であり本質なのである。とにかく突き詰めたサウンドクリエイションはコアな洋楽ファンさえもうならせることになったし、今でこそ、エレクトロとロックバンドの融合を行うミクスチャーロックは当たり前となっているが、その挑戦を軽々とクリアしていったのだ。
彼らが日本のロックシーンで重要といえるのは、解散後の活躍ぶりにも表れている。中村やフルカワはソロやユニットなどで幅広く活躍し、スーパーカーが行ってきたミクスチャーサウンドを追求し続けている。また、石渡は「いしわたり淳治」名義で作詞家としても売れっ子だ。彼の才能の片鱗は、スーパーカーの最も知られている一曲である「YUMEGIWA LAST BOY」の叙情的で文学的な歌詞のフレーズなどから、すでに垣間見ることができるだろう。
とにかく、スーパーカーが蒔いた種は、その後多数登場したギターロックやポストロックの後続バンドに多大なる影響を与えているのは間違いない。Base Ball Bear、チャットモンチー、9mm Parabellum Bullet、きのこ帝国などは直接的もしくは間接的に影響を受けている。いわば、今現在の日本のロックシーンに大きな礎と太い道筋を作ったといってもいいだろう。確かに全貌をつかみにくいバンドなのかもしれないが、それだけに聴き込むことで様々な発見があることも事実。今回発表されたオールタイムベストアルバム『PERMAFROST』は、そういったわかりにくくも重要な彼らの最適なガイドであるのだ。
■栗本 斉
旅&音楽ライターとして活躍するかたわら、選曲家やDJ、ビルボードライブのブッキング・プランナーとしても活躍。著書に『アルゼンチン音楽手帖』(DU BOOKS)、共著に『Light Mellow 和モノ Special -more 160 item-』(ラトルズ)がある。
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