いしわたり淳治が考える、Mayday対訳詞の面白さと難しさ

いしわたり淳治が考える“対訳詞の面白さ”

 台湾の5人組ロックバンドMaydayが、最新オリジナルアルバム『自伝 History of Tomorrow』をリリースする。タイトルが示す通り、本作は彼らにとって自伝的な内容。ブレイク直前の葛藤を描いた「成功間近」をはじめ、自分たちの過去・現在・未来と向き合いながら、それを普遍的なメッセージへと昇華した楽曲が並んでおり、その圧倒的な訴求力は、彼らのファンはもちろん、初めてその音楽に触れる人々の心にも響くはず。また、スタジアム対応型のダイナミックなロックサウンドをベースに、ジャズやR&B、EDMなど様々な音楽スタイルを取り込むサウンドからは、J-POPとの親和性も強く感じるだろう。

 今回は、そんなMaydayの歌詞の魅力に迫るため、日本デビュー時からずっと対訳を務めている作詞家・プロデューサーのいしわたり淳治を訪ねた。実際の対訳作業についてはもちろん、対訳の面白さや難しさなど、ざっくばらんに話してくれた貴重なインタビューである。(黒田隆憲)

Maydayの歌詞は「視点」が面白い

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ーーまずは、Maydayの最新作『自伝 History of Tomorrow』を聴いた印象からお聞かせください。

いしわたり:初めて彼らの対訳を手がけた時から感じたことですが、とにかく「視点」が面白いんですよね。日本語の歌詞だと、例えば「君が今こうなって、それで僕がこういう気持ちになって」みたいな、目の前で起きていることについて描写する歌詞が多いと思うんですけど、彼らの歌は、「過去・現在・未来」を俯瞰で見ながら、なおかつそのことを「熱く」歌っているという感じなんです。今、起きている事象を順序立てて描写したり、物語風に創作したりするというよりは、時空を丸ごと包括するというか。だから「過去」を振り返る曲もあれば、「未来」への警鐘を鳴らす曲もあって。時間軸を俯瞰している感じはすごくしますね。

ーー俯瞰といっても、「神の視点」ではなく、あくまでも「個の視点」となっているから、そこに熱量も宿っているんでしょうね。今作も『自伝』というタイトルからして、「時間軸を俯瞰する」方法論が最大限に活かされていると思いました。

いしわたり:そうですね。前作では恋愛の歌、特に失恋の歌が多かった印象ですが、今作では収録曲の半分近くが自伝的な内容です。自分の生い立ちや、友だちについて歌う曲が増えていて。「なるほど、こういうテーマでも音楽が作れるんだな」って。日本だと、ここまでストレートに「自伝」をテーマにすることってあまりない。

ーー日本語の歌詞でストレートに「人生」を語られると、どうしても大仰になってしまうか、逆にパーソナル過ぎてしまいそうです。

いしわたり:そう思います。「成功間近」という曲は、ブレイクする直前の自分たちの心境を率直に吐露していますが、バンドのサクセスストーリーをこんな風にストレートに歌うなんて、日本ではなかなか難しいと思います。しかも、バンドとして「初心忘るべからず」という気持ちと、「これからもガンガン攻めていこう」という気持ち、両方がギュッと詰まっていて非常に「筆圧」が高い。伝えたいテーマやメッセージを設定し、それをどう説得力を持って伝えるかということへの強い思いを、どの楽曲からも感じます。

ーーその辺り、以前の作品と比べてどのような進化や変化が見られましたか?

いしわたり:以前は、その曲のテーマみたいなものが、割と最初から「ボン!」と投げ出されていることが多くて。例えば「瞬間少年ジャンプ」という曲のように、前半だけ読めば何を歌いたいのか大体わかったんですけど、今作では物語が展開していく曲が増えた感じがします。対訳はいつも曲の頭から順番に行なうんですけど、一体どこへたどり着くのか、サビまで分からない曲が多くなったように思います。よりドラマチックになったというか。

ーーMaydayの対訳は、具体的にどのように進めていくのでしょうか。

いしわたり:僕は中国語に明るくないので(笑)、まずはざっくりと直訳をもらって、それを眺めながら言葉を調整していきますね。曲を聴きながら読んだ時に、スッと意味が入ってくるのは大前提で、さらに言葉のニュアンスなど、なるべく彼らのそれに近づける。そこは常に意識しながら訳しています。

ーー特に気をつけた点、苦労した点は?

いしわたり:日本ではあまり馴染みのない表現というものもあるのですが、そこを噛み砕き過ぎて「意訳」にならないよう気をつけました。

ーー訳詞をしている時、自身のオリジナリティも投影されていると感じますか?

いしわたり:うーん、どうなんでしょう。僕自身はあえて投影しているつもりはないですが、無意識に「らしさ」みたいなものは出ているのかもしれないですね。例えば、自分で歌詞を書きながら、文字の並びを俯瞰で見た時、「なんかヘンだな?」って思うところは大抵ヘンなんですよ。視覚でも「あれ?」っていう違和感がある。それは、訳詞をしている時にも同じように感じるんですよね。「目のリズム」というか、目で見たときのこだわりっていうのは確かにあって。

ーーそこを修正していくと、いしわたりさん独自の言葉の選び方や表現方法が投影されていく?

いしわたり:そうなのかもしれないです。ただ、それは結果論であって、自分からオリジナリティを出すために言葉を選んだり、表現方法を変えたりすることは、訳詞の場合ないと思いますね。

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ーー今作の中で、特に気になったフレーズや言い回しはありましたか?

いしわたり:日本語でも通じる表現が幾つかあって、ハッとさせられました。例えば、「人生有限会社」の、<命をどう使うか それが「使命」だろう?>というフレーズ。あ、中国語でも「使命」という言葉なんだって。この解釈の仕方も新しいなと感じました。

ーー「人生有限会社」の視点はかなりユニークですよね。赤ちゃんが誕生する瞬間と、サラリーマンが出社する様子を対比させているというか。

いしわたり:「生まれた瞬間から人は社会の一員で、それは会社に所属することと同じ」という意味にも取れますよね。こういう対比や比喩表現は、日本人には思いつきづらい。おそらく国民性もあると思うんですけど。あと、「どこでもドア」を切り口にした歌詞も、非常に面白い視点だなあと思いましたね。『ドラえもん』の道具は中国で普通に通じるのか、しかも「任意門」って書くのか! と(笑)。

ーー日本人では、逆に身近過ぎてテーマにしにくいですよね。「どこでもドア」には、台湾の地名がたくさん出てきます。これって、日本人の歌に出て来る「渋谷」とか「お台場」みたいなイメージ?

いしわたり:まさにそうですね。地名に関しては、土地勘がないのでかなり苦戦しました(笑)。あと、この曲の最後のフレーズ、<モンスターのお母さんが用意してくれた>というのが、最初メンバーの怪獣(モンスター:ギター)のことだと分からなくて。「どういうことだろう?」って戸惑いましたね。原文の<獸媽>だと、「イカツイおばさん」みたいなイメージじゃないですか(笑)。

ーー歌詞の中に、メンバーのお母さんを登場させるというのも、すごくユニークですよね。日本人の感覚だと、パーソナル過ぎて歌詞にするのをためらいそうな。他に気になったフレーズは?

いしわたり:だいたい、1曲につき1箇所くらい、「うわ!」と思うキラーフレーズが入っていますよね。「終わりの始まり」では、<幸せな思い出は 幸せ探しの天敵で> とか。

ーーあ、僕もそのフレーズが個人的には特に刺さりました。「過去を大切にし過ぎると、前に進み辛くなる」というメッセージを、こんな風に表現するのか! と(笑)。あと、「曲作り」をテーマにした「Cコードは...」という曲も面白いですよね。

いしわたり:そうそう、この曲だけは、「今、目の前に起きていること」だけをひたすら描写しているんですよ。すごく力が抜けているし可愛らしいので、僕も好きですね。<先輩すごーい>とか(笑)、これまでのMaydayの「真っ直ぐで熱いメッセージ」とは随分違う。それから「最高の一日」という曲も、すごく面白いですよね。“地球”と“銀河”が言い合いしていたら、“宇宙”が横槍を投げてくるとか、<お見合い相手でサッカーチームを結成して ワールドカップで優勝した日>とか(笑)。なかなか思いつかない。

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