Kick a Showが語る、00年代R&Bの影響とセクシャルな表現 「どう情緒的に歌うのかが醍醐味」
Kick a Showの音楽ルーツ
――Kick a Showさんの音楽的なルーツについても教えてください。そもそもブラックミュージックに目覚めたきっかけは?
Kick a Show:親父がレコードを集めていて、高校生になってDJカルチャーに触れるようになったときに、「どんなのを聴いていたんだろう?」って掘ってみたら、モータウンのレコードがたくさん出てきたんです。ジャクソン5とか、グローヴァー・ワシントンJr.とか、アイズレー・ブラザーズとか。当時はすでにインターネットがあって、そうしたレコードの価値もわかり始めていたので、周りの同じような環境にあった友人たちと一緒に調べながら聴いて、知識を蓄えていきました。
――DJカルチャーを意識した上で、お父さんのレコードを聴いていたと。
Kick a Show:そうですね。地元が新潟なんですけど、高校生の時に2歳上に先輩方のクルーがあって、彼らは自分たちでサンプリングして曲を作って、自分たちでラップして、DJプレイの中でもその曲を流していたんです。一から楽曲を作り上げているのがすごくカッコよくて、付いて行くうちに、自分もクルーに入れてもらえて、趣味程度ではありますが高校生の頃からDJを始めました。そこで、今もトラックを作ってもらっているSam is Ohmさんと出会って、試しにラップではなく歌を歌ってみたらハマったので、そのまま続けて現在に至る感じです。
――先ほど、R.KELLYやTLCのお話も出てきましたが、00年代前後の楽曲からの影響は?
Kick a Show:僕自身もそうなのですが、Ohmさんも00年代前後のR&Bをたくさん聴いていて、そのままサンプリングしているわけではないものの、いろいろと参照しながら現行のサウンドに落とし込んでいます。ZEN-LA-ROCKさんとG.RINAさんとフィーチャリングした「Cleopatra etc.」は、ネリーとケリー・ローランドの「Dilemma」が元ネタですね。僕はトラックがないとリリックが書けないので、Ohmさんのイメージに自分の歌詞を重ねていく感じです。ちょうど僕が10代後半を過ごした10年代前後は、EDMとかが流行っていたから、その反動もあってBPM100前後のビートがすごく新鮮に響いたというのもあると思います。80年代のアイズレー・ブラザーズとかが好きなのも、ダウンテンポのグルーヴ感ですね。フロウでいうと、自分の中でいろいろと模索していた時期に00年代のレゲトンを聴いてこともあって、そういうテイストも入っていると思います。最近だとムーンバートンという、レゲトンと似たBPM100少々のトラックが流行っているんですけれど、その辺りも好きです。あとは、最近の韓国のシーンも気になっていて、向こうのDEANというシンガーのフロウも少し取り入れたりしました。
――なるほど。00年代に限らず、世界中の音楽をフラットに聴いて、自分なりに咀嚼しているわけですね。
Kick a Show:グローバルな音楽シーンを意識したうえで、幅広く楽しめるクオリティの高い楽曲を自分たちの手で作りたいという気持ちは常にあって、Ohmさんと切磋琢磨している部分はあります。音源としてはもちろん、MVもちゃんと見応えのある、メジャーのアーティストにも負けない作品を作っていきたいです。特に僕らはクラブでライブをすることが多いので、クラブのスピーカーでの出音にはこだわっています。クラブで説得力のある音を出すには、ちゃんと低音が鳴っていないとダメで、低音を鳴らすにはある程度、音数を抑える必要もあって。そこに僕がフロウやメロディで抑揚をつけていったり、逆にラップっぽいアプローチの時は、Ohmさんが上物でメロディを付けていったり。そのバランスは二人で作り上げてきました。DJプレイをしたときに海外のR&Bなどと混ぜてかけても、ちゃんと聴けるサウンドになっていると思います。
ーーたとえば、フロウを限りなく英語に近づけて、トラックも海外の流行を意識して制作したような楽曲があるじゃないですか。でも、それなら結局、洋楽そのものを聞いた方が良いというリスナーも少なくないと思うのですが、その辺はどう捉えていますか?
Kick a Show:僕自身も、ただ洋楽に近づけることには抵抗があって、リリックの内容やフロウには日本らしさを残していきたいとは考えています。具体的には、親父がコレクトしていた短冊CDで聴いた、昔の歌謡曲のエッセンスを取り入れていますね。南佳孝さん、吉田美奈子さん、上田正樹さんとかのムード歌謡が好きで、特に南佳孝さんには影響を受けました。日本語ならではの言いまわしはもちろん、内容的な部分でも日本的な情緒を落とし込んでいければと。そこが僕ならではのカラーになるし、海外の方とフィーチャリングしたときも強みになるのではないかと思います。
――Kick a Showさんの楽曲は、「バウンス型シティポップ」とも形容されていますが、シティポップという括りで捉えられることについては?
Kick a Show:今回のアルバムには、恋占いみたいに聞いてほしいというコンセプトがあって、そこは昭和のムード歌謡から引き継いだエッセンスの部分であり、広義のシティポップの文脈には含まれるのかなと考えています。なので、「これはどういう意味合いでシティポップなのかな?」と皆さんに想像して楽しんでもらえたら、僕は嬉しいですね。シティポップって、明確にジャンルとして分類できるものではないと思うので、皆さんの中のシティポップ感と照らし合わせてみてほしいという感じです。
フィーチャリングにおける発見
ーー『The Twelve Love』はフィーチャリングアーティストも特筆すべきものがありますね。ZEN-LA-ROCK、G.RINA、田我流など、クラブで支持される実力派のアーティストばかりです。
Kick a Show:皆さん、ライブで一緒になったり、これまでにフィーチャリングで参加させていただいたりした所縁のある方々で、本当にお世話になっています。現場で「今度一緒に録りましょう」ってお話しするなかでプランが膨らんでいって、メインプロデューサーのOhmさんのスタジオに集まって、ようやく出来上がったのが本作という感じです。
――フィーチャリング自体は昔からある手法ですが、最近は世界中でさらに活発になっている印象で、驚くような組み合わせも次々と出てきていますよね。
Kick a Show:以前は考えもしなかったけれど、今はフィーチャリングが最も発見の多い手法なのかなと思っています。最近、衝撃を受けたのはtofubeatsくんとKEIJU(YOUNG JUJU)くんの「LONELY NIGHTS」という曲で、tofuくんのトラックはほとんど同じコード進行のシンプルなトラックなんだけれど、KEIJUくんはそこにオートチューンで大きく抑揚を付けていて。もし自分が同じトラックを受け取ったら、フロウでいろいろな抑揚を付けようとは考えると思んですけれど、オートチューンをああいう風に使う発想はなかったです。一発聴いただけで、のけぞるくらいびっくりしました。こういう思いもよらない新鮮な発想の楽曲が生まれるのは、フィーチャリングの醍醐味ですよね。
――先ほど話していたストリーミングサービスもそうですけれど、今までにあった様々な壁が新たなサービスやテクノロジーによって取り払われたことで、ミュージシャン同士の距離も近くなっているのかもしれません。
Kick a Show:本当に、物理的な距離があっても一緒に制作ができてしまいますからね。東京と沖縄のラッパーがフィーチャリングしたりとかも普通にありますし、そこが今のシーンの強みなんだと思います。今後は海外のアーティストとのフィーチャリングもどんどん活発になっていくと思いますし、日本の若手ラッパーたちが韓国とかに出ているように、僕もその波に乗って海外進出は狙っていきたいですね。
ーー実際、『The Twelve Love』の9曲目「Two Quiz」では、フランスからSam TibaとCanblasterというプロデューサーを迎えていますね。
Kick a Show:お二人とは一度、スタジオセッションをさせていただいたのですが、「国が違うとこんなにもやり方が異なるのか」と驚くことがたくさんあって、刺激的でした。メロディーの文体そのものが異なるというか、思いもつかないフレーズが出てくるし、僕のフロウも向こうからすると想像つかないものだったようで、喜んでもらえました。このギャップこそが重要で、勉強になった部分でもあります。お二人と一緒にやる中で、今までになかった一面を引き出してもらえたのかなと。今は時代も距離も超えて、様々な音楽にアクセスすることができる環境があるので、それを活かしながら、自分らしい音楽を追求していきたいです。
(取材・文=松田広宣/写真=下屋敷和文)
■リリース情報
Kick a Show『The Twelve Love』
発売中
定価:2,300円(税抜)
〈収録曲〉
1. 0時ちょうど
2. Cleopatra etc. Feat. ZEN-LA-ROCK & G.RINA
3. Insanely Boy Feat. 田我流
4. One Night Stand
5. Pillow Talk
6. Buchiaga Lit Feat. Caryn10 & reverv kueen
7. Paradiso Disco Feat. AO
8. More Man Time
9. Two Quiz
10. Early Morning Lovers
11. The Story You Don't Know
12. 友達以上恋人未満 (The Twelve Love ver.)