Kick a Showが語る、00年代R&Bの影響とセクシャルな表現 「どう情緒的に歌うのかが醍醐味」
MONDO GROSSOが2017年6月にリリースしたアルバム『何度でも新しく生まれる』の収録曲「SEE YOU AGAIN」に参加し、注目を集めたシンガー・Kick a Showの1stアルバム『The Twelve Love』が好評だ。2月14日のバレンタインデーにリリースされた本作は、12曲すべてがラブストーリーとなっていて、R&Bに昭和歌謡のエッセンスを加えた音楽性が心地良い仕上がり。フィーチャリングアーティストには、ZEN-LA-ROCKやG.RINA、田我流を迎え、盟友であるトラックメイカー・Sam is Ohmが主なプロデュースを手がけている。気鋭のシンガー・Kick a Showは本作をどのように作り上げたのか。その手応えから、ストリーミングが音楽に与える可能性や、自身の音楽ルーツについてまで幅広く話を訊いた。(編集部)
『The Twelve Love』のヒットの仕方
――『The Twelve Love』は、Apple Musicの「今週のNEW ARTIST」でピックアップされるなどして、ストリーミングサービスを中心に話題となった印象です。ヒットの仕方としても極めて現代的だと感じました。
Kick a Show:そうですね。CDと同時に解禁したストリーミングサービスで、大きく手応えを感じています。リリースから約1カ月でトータル50万回以上の再生回数を突破していて、改めて新しいサービスの勢いを感じました。また、1stアルバムだからこそ、Apple Musicでも大きく取り上げてくださったのだと感じていて、僕らのような若い世代のアーティストが世に出やすい環境になっているのかもしれません。DJ&トラックメイカーのOkadada氏にプロデュースしていただいたリード曲の「0時ちょうど」は、今はクラブで歌うと大合唱になる感じで、これまでにない盛り上がりを感じています。クラブを中心に活動してきたので、お客さんの顔は大体把握しているんですけれど、最近は新たに聴きにきてくれる方がぐっと増えました。
――最近だと、フランク・オーシャンなどがApple Musicのラジオ番組でSuperorganismを紹介して、一気にブレイクしました。既存のメディアとは違うかたちで、ストリーミングサービスが新しいミュージシャンをフックアップする機能を果たしているのは、とても興味深いです。
Kick a Show:少なくとも僕は、ストリーミングサービスによって人に知られる機会が圧倒的に増えたと感じています。音楽が手軽に聴けるようになったことについては、いろいろな意見があると思いますが、良い面も確実にあるのかなと。
ーーフックアップという面では、2017年6月にリリースされたMONDO GROSSOのアルバム『何度でも新しく生まれる』の収録曲「SEE YOU AGAIN」に参加したのも大きかったのでは。
Kick a Show:MONDO GROSSOの大沢伸一さんとは、エイベックスの方が繋いでくれて、一緒に楽曲を作ることになりました。MONDO GROSSOはリアルタイム世代ではなかったのですが、改めてその幅広い音楽性に触れて、大きな刺激になりました。注目されるという意味ではもちろん、音楽家としての経験においても貴重な機会でしたね。大沢さんからは、「この小説の第1章だけ何回も読んでリリックを書いてほしい」と宿題をいただいて、初めて物語を歌詞にしていくという作り方をしました。かなり難しかったですが、無事にMONDO GROSSOの一曲として聴ける仕上がりにはなったのかなと。大沢さんに「良かったよ」と言っていただいたのは、自信になりましたし、『The Twelve Love』に繋がる大きな一歩になったと思います。
『The Twelve Love』のコンセプト
――『The Twelve Love』は、12個のラブストーリーを歌った作品で、性愛路線であることも含めて、“R師匠”ことR. KELLYの『12 PLAY』を連想しました。Kick a Show:まさにR師匠が1993年にリリースした『12 PLAY』と、2016年にリリースした『12 Nights of Christmas』からインスパイアされました。おそらくR師匠には“12”という数字にこだわりがあって、それは時間や月の12進法と関係しているのかなと。『The Twelve Love』のリード曲が「0時ちょうど」というタイトルなので、半日かけて1時間に1曲ずつ聞いてもらったり、あるいは1曲1曲を12星座占いみたいな感覚で、その日の恋占いとして聴いてもらえたら面白いと思い、こうした作りにしました。
――セクシャルなトピックスを扱うのは、海外のR&Bでは定番ですが、ここまでストレートに表現しているのは珍しいですね。良い意味で大人のエンターテインメントになっていて、深く共感できるポイントでした。
Kick a Show:セクシャルなことを歌うのは、R&Bにおいてすごく重要だと思います。R師匠は自伝『SOULACOASTER』にて、「プッシーと言えば、なんでもR&Bになる」という趣旨のことを仰っていました。さすがにそこまでストレートには歌えないですけれど(笑)、恋愛関係において、セクシャルな問題はついて回るものですし、それをどう情緒的に歌うのかがR&Bの醍醐味だとは思っています。実際、安室奈美恵さんが00年代頃から本格的にR&B路線に転向した際も、すごくセクシャルなトピックスを歌にしていて、それがかっこよかったんですよね。
ーー一夜の情事を歌った「One Night Stand」の〈惚れた女には抱かれたい〉というフレーズは秀逸で、「たしかに」と頷きながら聴き入ってしまいました。男性目線での「抱かれたい」という受動的な表現は、ありそうでなかったものだと思います。
Kick a Show:この曲はTLCの「No Scrubs」を参照していて、原曲はTLCの三人がラップでダメな男をいなす曲なんです。僕はそのコンセプトを逆転させて、ダメな男のワンナイト・ラブ願望を歌いました。クラブみたいな場所では誰しもそういうロマンスを夢見がちだとは思うのですが、僕自身が受け身なこともあって、そういう経験がないんですよ。なので、向こうから来てくれたら嬉しいなと、妄想で書いたら自然とこういう歌に(笑)。代表曲の「友達以上恋人未満」も想像にまかせたところがあって、これは女性目線のリリックを探り探りで書いていったものなんですけれど、意外にも共感してくださる方が多くて。同じような妄想は、実はいろんな方がしているのかもしれません。