レジー×佐々木俊尚が語る、“音楽の価値”と“コミュニティ”の変容 『夏フェス革命』発売記念対談

レジー×佐々木俊尚『夏フェス革命』記念対談

メディアの役割にも変化が訪れている

佐々木:僕もわりとライブ好きで、たとえば渋谷WWWとかにふらっと聞きに行くこともあるんだけど。そこでどういう人が聞きに来てるのか周りを見渡すと、「なるほど、このバンドはこういうファンなんだ」という発見があるんですよね。たとえばミツメとか聞きに行くと、アーティストと観客の関係性の中にある緩やかな仲間意識が気持ち良いし、なんだか「東京っぽいな」と感じるんです。ああいうのが、より継続的に一つの文化空間として続いていくといいなという期待はあります。

レジー:ミツメも含めて、ここ数年は東京のインディ系のバンドが複数注目を浴びていますが、そういう人たちは横で緩やかにつながるコミュニティ、文化圏を作ることに自覚的な印象を受けます。ただ、おそらくその心地よさを保つことと広く人気を得ることはトレードオフの関係もあって、たとえば以前行われていた『下北沢インディーファンクラブ』はそういうコミュニティ感を街全体で楽しめる素晴らしいイベントでしたが、そこに関係するミュージシャンが有名になりすぎるとそういう場を維持するのも困難になりますよね。その音楽のクオリティが高いからこそ人気になる、でもそうなると元の良さが失われる可能性がある、というこの辺のバランスはとても難しいなと。

佐々木:最近のスタートアップやITベンチャー企業の人と話していると、90年代のホリエモンたちが出てきた時代は、みんな「会社をでかくするぞ、1兆円企業だ」って言ってたけど、最近は「いや、もうでかくなくていいんです。気の合う仲間5~6人で会社やって、そのサービスを使ってくれるファンが数千人から数万人いて、このぐらいの規模感で持続的にやっていきたい」と言ってる人が増えてきて。音楽の世界でも同じように、武道館とかアリーナとかいっぱいにしなくてもいいから、ファンコミュニティを維持して自分たちも音楽で食べていけることを理想とする人たちがいますよね。

レジー:それをするための環境が今は整ってますからね。クラウドファンディングのサービスも充実してますし、Bandcampなど使えば音源を直接売ることができる。個人的には、「みんなが知ってる音楽を作ります」みたいな、ある種時代錯誤なことを言うミュージシャンを応援したいという気持ちもありますが(笑)。

佐々木:そのやりやすさを最大限に活用して、音楽と音楽を好きな人たちが、サステイナブルで緩やかなネットワークが発展していくといいですよね。バーティカルな文化圏を支えるというのは、かつては雑誌が担ってたんですよ。でも、今は雑誌文化は衰退して、編集者の平均年齢がどんどん上がっていく。40代になると、もはや20代が聞いている音楽がよく分からなくなっちゃうから(笑)。そうなると、その文化圏を支える力がなくなっていく。今はその役割をウェブが担い始めているところもあって。以前、ある音楽レーベルとメディアと僕の三者で、新しい音楽メディアを作りましょうという話をしたことがあるんです。その中で僕が考えていたのは、「こういう気分の時はこの音楽聴きたいよね」みたいな感覚をうまく抽出して記事やプレイリストを作って、一つのコンテンツにする。そうすると、たとえば企業で朝のミーティングの前にGoogleで検索すると「朝からミーティングする時に聴く音楽」という記事が出てきて、サブスクやYouTubeとかのプレイリストが出てきて、そこに短い文章がくっついている。そういう新しい音楽のメディアを新しく作っても面白いんじゃないかという話をしました。

レジー:音楽を聴くツールの中心がCDからYouTubeやサブスクリプション型のサービスに変わりつつある中で、メディアのあり方も変わっていくんでしょうね。究極的には今の時代は「その音楽の魅力は、文章を読むよりYouTubeのリンクを踏んだ方がわかる」ということになってしまうと思うので、言葉を補う、聴く環境を規定する、など音楽メディアの果たすべき役割はこの先ダイナミックに変わっていかざるを得ないんだろうなと思います。

(構成=編集部)

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『夏フェス革命 ー音楽が変わる、社会が変わるー』

■書籍情報
『夏フェス革命 ー音楽が変わる、社会が変わるー』
著者:レジー
価格:1,600円(税抜き)
発売日:12月11日(予定)
判型:四六版
頁数:約224頁(予定)
発行:株式会社blueprint
発売:垣内出版株式会社
ISBN:978-4-7734-0505-7(C0073)

<内容紹介>
 音楽ブロガー・ライターとして人気を博すレジーによる待望の初著書。
 2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設し、現在は音楽媒体「Real Sound」「MUSICA」「M-ON! MUSIC」を中心に寄稿。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が、業界内外で評判を呼んでいる。また、普段はコンサルティングファームにて事業戦略立案、マーケティング戦略立案、新規事業開発などに従事している。
 日本のロックフェスティバルの先駆けとして1997年にはじまったフジロックフェスティバル。その後、ライジングサンロックフェスティバル、ロック・イン・ジャパン・フェスティバル、サマーソニックが開催され、2000年には現在の「4大フェス」が揃う。それから今に至るまで、「夏フェス」はどう変わってきたのかーー。
 今や夏の一大レジャーとして定着した「夏フェス」。豪華アーティストの共演が売りだった音楽ファンのためのイベントが、多様なプレイヤーを巻き込む「一大産業」にまで成長した鍵は、主催者と参加者による「協奏」(共創)にあった。世界有数の規模に成長したロック・イン・ジャパン・フェスティバルの足跡や周辺業界の動向、SNSなどのメディア環境の変化を紐解きながら、その進化の先にある音楽のあり方、そして社会のあり方を探る。

<著者紹介>
 1981年生まれ。海城高校、一橋大学商学部卒。大学卒業後の2004年から現在に至るまで、メーカーのマーケティング部門およびコンサルティングファームにて事業戦略立案、マーケティング戦略立案、新規事業開発、新商品開発などに従事。会社勤務と並行して、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が話題となり、2013年春頃から外部媒体への寄稿を開始。主な寄稿媒体は「Real Sound」「MUSICA」「M-ON! MUSIC」など。本書刊行にあわせ、noteで「レジーの『はじめてのほんづくり』
」を掲載中。
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