“フェス”を通して見る、音楽と社会の未来とは? 『夏フェス革命』著者インタビュー

『夏フェス革命 ー音楽が変わる、社会が変わるー』

 本日12月11日、音楽ブロガー・ライターのレジー初の著書『夏フェス革命 ー音楽が変わる、社会が変わるー』が株式会社blueprintより刊行された。

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 1997年のフジロックフェスティバルの初開催から20年あまり、夏フェスはどのようにして「音楽ファンのためのイベント」から「国民的レジャー」となったのか。同書では、世界有数の規模に成長したロック・イン・ジャパン・フェスティバルの足跡や周辺業界の動向、メディア環境の変化などに触れながら、エンターテインメントとして、またビジネスとして、フェスが成功した仕組みを考察。帯推薦文として、いきものがかりの水野良樹がコメントを寄せている。

 リアルサウンドでは、発売に先駆け、本書の<イントロダクション>を前編後編に分けて掲載してきたが、今回は著者であるレジーのインタビューを公開。執筆の経緯はもちろん、日本における「夏フェス」を象徴するロック・イン・ジャパン・フェスティバルの存在、そして社会全体の課題でもある“プラットフォームとコンテンツ”の関係まで、本書の背景について語ってもらった。(編集部)

音楽を介して社会のことを考える

――本書のアイデアはどんなところから生まれたのでしょう?

レジー:以前、リアルサウンドの編集長と、去年出た『誰が音楽をタダにした?』(スティーヴン・ウィット著/早川書房)が、「すごく面白かったですよね」という話をしていたんです。そこから、日本の場合、ああやって音楽のあり方を変えたものって何だろうという話になり、それはやっぱり「フェス」なんじゃないかと。で、僕は2012年に自分のブログを立ち上げて音楽に関するまとまった文章を書き始めたんですが、当初から「フェスのあり方がだんだん変わってきているのではないか」という漠然とした問題意識を持っていたんですよね。ブログでもリアルサウンドの連載(レジーのJ-POP鳥瞰図)でも、そういう話を何度か書いてきました。

――レジーさん自身のフェス体験としては、1998年に豊洲で開催された第2回フジロックが最初で、ロック・イン・ジャパン・フェスティバル(以下、ロック・イン・ジャパン)には、2000年の第1回からずっと参加し続けているんですよね。

レジー:そうですね。ロック・イン・ジャパンは、最初からずっと行っているのもあって……そのなかで、だんだん自分の居場所がなくなるような感じもあったりしつつ(笑)。そういう何とも言えない違和感みたいなものを自分なりに総括したい、というのは以前からずっと思っていました。で、これは後づけですけど、2017年はフジロックが始まってからちょうど20年なので、フェスの歴史を振り返るには、ちょうどいい機会なんじゃないかと。また、個別のフェスについてはともかく、フェス全体の変遷や意義について包括的に書かれた本って、実はこれまであまりなかったように思うので、じゃあ、そこでひとつ書いてみようかなと決意しました。

――副題に「音楽が変わる、社会が変わる」とあるように、フェスの変化を通して、現代社会の変化を読み解こうというのが、この本の面白い点だと思うのですが、その発想というのは、かなり以前からあったのですか?

レジー:「音楽を介して社会のことを考える」というのは、以前からやりたいと思っていたことで、それをやるにあたって「フェス」という題材がぴったりはまった、という感じですね。コンテンツとして、世の中のあり方を反映していると言い切れる音楽の作品というのはここ最近あまり出ていなかったような気がしますが、フェスという大きい仕組み、ビジネスモデルを主題に置けば、音楽に関連する何かを起点にして世の中を語ることができるんじゃないかと。自分としては、ポップミュージックのあり方と社会のあり方は相互に影響を及ぼしあっていると昔から思っているんですが、一方で、意外とそういう観点で書かれた文章ってここ数年はあまりないのかなという印象もあるんですよね。ブログを始める前にいわゆる「ポップカルチャー批評」と呼ばれるものに興味を持っていろんな文献を読んでいたときにも、そこでの音楽の語られ方に個人的にはピンとこないことが多かったんです。あと、僕は1981年生まれなんですけど、自分と近い世代の書き手の人がよく「90年代は『エヴァンゲリオン』の時代だった」みたいなことを言っていたりして、「いや、そんなことねーだろ」と思ったり……(笑)。ブログを始めたときから、そういった「ポップカルチャーから社会を見る」みたいな流れのなかに音楽の存在をどう位置づけるべきか、っていうのは自分の根本にある問いだったりします。

――ゼロ年代以降、ボカロカルチャーやアイドルに関する考察本はたくさんありましたが、ポップミュージック全般を扱うものは、あまりなかったかもしれないですね。

レジー:そうなんですよ。さらに言うなら、『思想地図β』(ゲンロン/2010年12月)に載っていた東浩紀さん、佐々木敦さん、渋谷慶一郎さん、菊地成孔さんの座談会のなかで、東さんから「音楽にとって批評は必要か、の前に、批評にとって音楽は必要か、という問いもあると思う」「批評にとって音楽が要らなくなったという側面もあるのかもしれない。言い換えれば、社会や時代を語るときに、音楽がとっても使いづらくかつ分かりづらい対象になっていったということもあるのではないか」という問題提起があったんですよね。この投げかけは自分がライター活動をするようになってからもずっと引っかかっていたんですけど、フェスという切り口ならば「社会や時代を語る」ことができるんじゃないか、このときの話に対する何かしらの回答ができるんじゃないか、とも考えていました。

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