ゆずの楽曲はなぜ歌ってみたくなる? 2人が手がける楽曲を徹底分析

 「夏色」「いつか」は北川による作曲だが、次に取り上げる「飛べない鳥」は岩沢のペンによるもの。通算10枚目のシングルで、累計売り上げ枚数が38万枚に達した、彼らの中でも最大級のヒットソングである。キーはAで、Aメロは<A - E - F#m7 - F#m7 - D - Dm - E - E - A - E - F#m7 - F#m7 - D - Dm - E - E>。ここにも<D→Dm>の「哀愁コード進行」がある。特徴的なのはBメロで、キーがCに転調し、<F - G - C /GonB - Am7 - F - F - E - E>と展開。最後のコードEが、セカンダリードミナントコードと見せかけサビでキーAに戻る(つまり、Aのドミナントコード)。サビの前半は、<D - D - C#m7 - C#7onF - F#m7 - F#m7 - D - A - E - E>で、後半が<D - D - C#m7 - C#7onF - F#m7 - F#m7 - D/ Dm - A/ F#m7 - Bm7 - E - D - D>。「いつか」のようにトニックコードには戻らず、サブドミナント始まりのまま。C#7はF#mをトニックコードに見立てたセカンダリードミナントコードだが、ベースがルート音ではなく3度音のファを押さえており、セカンダリードミナントコード特有の“エグさ”を若干中和させつつ、次のF#mのルートへと半音で移動し洗練的な響きを加えている。

 ところで、ゆずの魅力の一つとして、北川と岩沢それぞれの声質や歌い方を活かしたメロディ&ハーモニーも挙げられる。岩沢の抜けるようなハイトーンボイスは「屈託のなさ、青春のキラキラ感」を体現しているのに対し、北川の少しぶっきらぼうな低音には「不良っぽさ、大人っぽさ」がある。この「飛べない鳥」でも、Aメロは岩沢が飛べない鳥の“葛藤”や“苦悩”を歌い、Bメロでバトンタッチした北川が、“希望の光”に向かって高らかに歌い上げる(2回目のサビのファルセットが、この曲のピークポイント)。歌い方も、キャラクターも全く違うはずの2人の声が、ハモるとピッタリと息が合うというのも、非常に不思議な彼らの特徴であり、魅力の一つだろう。

 そして最後に、今年の紅白で歌う「栄光の架橋」を聴いてみよう。この曲の作曲者は北川で、編曲は松任谷正隆。ピアノを基調としつつ、徐々にストリングスが重なっていく壮大なミディアムバラードだ。キーはEで、イントロは<E/ A -BonE /E ・B- C#m /G#m -A/A・B - Esus4 /E- Esus4/ E>。Aメロは、<E - G#m7 - A /B - E/B - C#m - G#m7- A/ B- E>の繰り返し。ここまではダイアトニックによる循環コードである。Bメロは<C#m- G#m7 A/B- E/B - C#m- G#m7- A- F#7- B- G#7>で、F#がBをトニックに見立てたセカンダリードミナントコードに、G#7はC#mをトニックに見立てたセカンダリードミナントコードになっている。が、サビはC#mには行かず、<A /B -E/B -A/ B- E/G#7 - A /B -E・B /C#m-A /B -A>と、EのサブドミナントコードであるAにつながる。さらにサビの後半にも、C#mをトニックに見立てたセカンダリードミナントコードG#7が登場し、やはりC#mには行かずEのサブドミナントコードであるAにつながる。この“力技”が「栄光の架橋」をダイナミックな楽曲にしているのだ。ちなみにこのコード進行、やはりジョン・レノンが「Imagine」のサビで用いている(<You may say I’m a er/ But I’m not only one>のところ。<F/ G - C/E7>)。余談だがジョンは、ビートルズ時代に「Sexy Sadie」でもこれと似たコード進行を(おそらく意識せずに)使っていた。よほど気に入っていたのだろう。

 さて、今回のコラム執筆のため、筆者はゆずの楽曲を他にも数曲さらってみたのだが、コード進行とメロディ、それからリズムだけを取り出してみると、全体のトーンとしてOasisの楽曲との共通点が、かなり多いことに気づいた。ゆずとOasis、一聴すると全く異なる音楽性だが、覚えたそばから歌ってみたくなるメロディと言う意味でも、共通の魅力を持っているといえないだろうか。

 以前、北川にインタビューをしたとき、「ゆずを聴いて音楽を始めた」という若いバンドが増えている理由について尋ねたところ、「“自分にもできそう”と思わせ、歌ってみたくなるような曲を作ってきたからではないか」と答えてくれた。もちろん、「自分でもできそう」と思わせるくらいシンプルな上に、「歌ってみたくなる」くらいカッコいい曲を作るというのは、並大抵のことではない。そこを常にクリアし続けてきたからこそ、ゆずは国民的存在になり得たのだ。

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。

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