ゆずの楽曲はなぜ歌ってみたくなる? 2人が手がける楽曲を徹底分析
12月23日、大晦日に放送される『第68回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)の曲目と曲順が発表され、白組の大トリをゆずが飾ることが分かった。ゆずの紅白出演は、これが8回目。今回、歌う曲目として選ばれた「栄光の架橋」は、2004年にリリースされた通算21枚目のシングルであり、同年『アテネオリンピック』NHK放送の公式テーマソングにもなった楽曲である。
ゆずといえば、もはや「国民的存在」と言っても過言ではないグループだ。北川悠仁、岩沢厚治によるギターの弾き語りを基調としつつも、これまでに寺岡呼人や松任谷正隆、蔦谷好位置ら様々なプロデューサーを起用し、ときには篠笛奏者の佐藤和哉と共作(「雨のち晴レルヤ」)するなど、様々な試みに果敢に挑みながら自分たちの音楽の幅を広げてきた。また、音楽的なアプローチにとどまらず、例えば現代アーティストの村上隆や、フラワーアーティストの東信、彫刻家の名和晃平やアートディレクターの森本千絵など、異分野のクリエーターとのコラボレートも積極的に行ない、「アコギを弾く、路上出身のフォークデュオ」という自らのパブリックイメージにとどまらない新たな表現方法を探求し続けている。
とはいえ、デビュー以降の彼らが作り上げてきた楽曲の、骨子となるメロディは常にシンプルだ。余計な装飾や、奇をてらったギミックなどなくとも、コードとメロディ、そして北川&岩沢の美しいハーモニーだけで成立するような楽曲。であるからこそ、そこにどんな要素を取り込もうが、「何をやってもゆずだ」と言わんばかりの“揺るぎなさ”を常にキープし続けてきたのだろう。
そこで今回は、そんなゆずの代表曲をいくつかピックアップし、魅力に迫ってみたい。
まずは、彼らが1998年にリリースしたメジャーデビューシングル表題曲「夏色」を聴いてみよう。この曲のキーはE♭だが、アコギで弾きやすくするため3フレットにカポを付けて弾いてみたい。イントロは、<C/ F -Am /G - C/ F -Am /G - F -G>。なんのてらいもないド直球の循環コードである。Aメロは、このイントロを聴く引き継ぐ形で<C/ F -Am /G - C/ F -Am /G - F -G -C -C>と展開する。メロディは、あくまでもコード構成音の中で動き、しかも同じ音符が連なるという典型的なフォークミュージック・スタイルである。Bメロは、<E -Am- E -Am - F -Dm7 -D7 - G>。初っ端のEは、キーCから外れたコードだが、続くAmをトニックに見立てたドミナントモーションを起こしている。通称「セカンダリードミナントコード」と呼ばれるもので、J-POPの中ではかなり頻繁に使われる王道だ。
「夏色」がハッとさせられるのは、このセカンダリードミナントコードの響きによるところも大きいが、何よりトリッキーなのはAからBへの入り方。通常、4小節・8小節・16小節といった単位で構成されているセクションが、Bメロへのつなぎの部分だけ6小節+2拍で唐突に終わるのだ。一瞬、拍のアタマが分からなくなるこの“仕掛け”が、「夏色」を単にシンプルなだけのフォークソングではない楽曲にしているのである。
サビは、<C /Am - F/ G - C /Am - F /G - Em - Am- F /Fm -C>。前半のコード進行はAメロと同じだが、駆け上がるような開放的なメロディが高揚感を煽る。そして、後半の<F→Fm(サブドミナント→サブドミナントマイナー)>が、なんともいえない切なさを醸し出しており、ここも「アコギをかき鳴らす元気いっぱいの楽曲」だけではない、重層的な魅力を閉じ込めることに成功しているのだ。
続いて、1999年にリリースされた通算4枚目のシングル曲「いつか」。キーはDで、イントロは<G /A7 -D /Bm - G /A7 -Dsus4/ D - G /A7 -D /Bm - G /A7 - Dsus4 /D/Dadd9 /D>。トニック始まりではなく、サブドミナント始まりが浮遊感を生み出す。後半の<Dsus4 /D/Dadd9 /D>は、トップノートがソ→ファ#→ミ→ファ#と上昇下降を繰り返すのだが、これはジョン・レノンの1980年のソロ曲「Woman」のイントロで用いられたクリシェとしても有名。
Aメロは、イントロのサブドミナント始まりを受けて、G /A - Bmと進む。Bメロは<Em7 / F#7 - Bm - Em7 / F#7 - Bm - G / Gm - A7>。F#7は、Bmをトニックに見立てたセカンダリードミナントコード。<G→Gm>の「哀愁コード進行」も、「夏色」で用いられたパターンだ。そして、サビでようやくトニックコード始まりとなり、浮遊していた体が地面に着地したような安定感をおぼえる。<D /F#7- Bm /D7 - G/ Em7 -A7>。ここでもBmをトニックコードに見立てたセカンダリードミナントコードF#7が、1小節目の後半で現れ聴き手をハッとさせる。しかもメロディはリフレインになっており、同じフレーズでもコードの響きによって全く違う表情を見せる。ゆずのメロディはとにかく音数が少なくシンプルだが、全く飽きさせないのはこうしたコード進行の工夫も一役買っているのである。