アルバム『Rest』インタビュー
シャルロット・ゲンズブールが語る父セルジュ、音楽、そして人生
シャルロット・ゲンズブールが、2009年にリリースした『IRM』以来となるニューアルバム『Rest』を11月17日にリリースした。今作のプロデュースには、フランク・オーシャンなどとのコラボレートで名を馳せたフランス人ミュージシャン/DJ/プロデューサーのセバスチャンが参加。自身も初めて作詞を行うなど、サウンドと歌詞の両面で意欲的な作品に仕上がっている。
今回リアルサウンドでは、シャルロット本人に直接取材。セバスチャンとコラボレートした経緯や、歌詞でプライベートな心象風景を綴った背景、特徴的なウィスパー唱法について、そして父である故セルジュ・ゲンズブールが今なお、世界的に大きな影響力を持つその理由など、じっくりと話を訊いた。
ひとりで音楽をするというのは考えられなかった
ーー1984年に映画『残火』でデビューして以降、映画女優としての活躍が日本でも話題になってきましたが、2006年の『5:55』あたりから音楽活動もコンスタントに続けていますね。シャルロットさんにとって音楽活動は、以前とはまた違った意味を持つようになっているのでしょうか?
シャルロット・ゲンズブール:そうですね。もちろん音楽を作りたい、歌いたいという気持ちはずっと持っていたのですが、“父(セルジュ・ゲンズブール)ではない人と一緒に音楽をする“ということに踏ん切りをつけるのは、とても難しいことでした。ひとりで音楽をするというのは考えられなかったんです。
そうして長い時間をかけて気持ちを整理して、では誰と一緒に音楽をやろうか、となったときにーーやはり父を超える人はいないのですが、それでも非常に強いインスピレーションを与えてくれる人とでなければ意味がない、と考えて。そういう意味で、人探しは大変でしたね。
私はアルバムを次々に制作できるようなタイプではなく、一つひとつの作業にとても時間がかかるんです。このアルバムを一緒につくったセバスチャンとのコラボレーション自体は非常にスムーズでしたし、自分のなかでもスッと納得のいくことだったのですが、特に歌詞を書くことに関しては、なかなか大変な部分がありました。歌詞には自分の経験を投影していますが、これまでの人生、本当にさまざまなことがありましたから。
ーーシャルロットさんはこれまでAIRやベックと作品をつくってきました。今作『Rest』でセバスチャンと制作しようと考えたのは、どんな理由からですか?
シャルロット・ゲンズブール:まず、セバスチャンと出会う前に、しばらくエレクトロ・ミュージックに惹かれていたんです。そして、〈ビコーズ・ミュージック〉という私が所属するレーベルの社長のEmmanuel de Buretelに“いろいろな音楽を聴かせてほしい“とお願いしたところ、同じレーベルからリリースされていたセバスチャンのアルバムを聴かせてくれて。そのときに、彼の音楽的にバイオレントな面、また非常に壮大なサウンド、そして野性的な部分に惹かれました。彼の音楽と私の声ーー重いサウンドと、決して大きくない、フラジャイルな歌声が果たして合うんだろうか、という思いもありましたが、そのチャレンジ自体が面白いと感じたんです。
ーー確かにサウンドと歌声が非常にマッチしていると思いました。最初に制作したのはどの曲ですか?
シャルロット・ゲンズブール:最初にレコーディングした曲と言えるのは、Daft Punkのギ=マニュエル・ド・オメン=クリストと一緒に作った曲です。
ーータイトルトラックの「Rest」ですね。
シャルロット・ゲンズブール:そうです。そこで、エレクトロニック・ミュージックに自分の声を乗せる、という体験を初めてしました。マニュエルの音楽は非常にミニマムで削ぎ落とした音楽で、この音に自分の声を乗せてみたい、と思って。そして、その後にセバスチャンと一緒に作業していくなかで、非常にインスピレーションの源泉が似ている、波長が合う、というふうに感じました。
映画の音楽も参照していて、例えば『JAWS』、『シャイニング』、『サイコ』などのホラー作品、またジャン=リュック・ゴダールの『軽蔑』のテーマ曲「カミーユ」なども、セバスチャンに聴かせました。そういう壮大で美しいオーケストレーションのなかに自分を置くことに対して、勇気を持つことができた作品です。