シャルロット・ゲンズブールが語る父セルジュ、音楽、そして人生

シャルロット・ゲンズブールが語る父への思い

父のスタイルに偏ってしまうことを避けなければいけない

ーー人生にさまざまなことがあった、というお話もありました。そうした経験を踏まえた作詞は、どんなふうに進めましたか? 

シャルロット・ゲンズブール: AIRと仕事をしたとき、そしてベックと仕事をしたときにそれぞれ、「ぜひ歌詞を書いたほうがいい」と言われたんです。ただ、まったく自信はなくて。でも今作の制作にあたり、セバスチャンと出会う前、コナン・モカシンさんというアーティストが「僕がギターを弾いてメロディを作るから、それに歌詞を乗せてごらん」と、セッションに誘ってくれたんです。そこで、自分が変にこだわっていたところや、感じていた怖さのようなものから解き放ってくれたんですよね。そして作詞を進めて、セバスチャンに会って彼に最初に渡したのが、父について歌った「Lying with You」、自分について歌った「I’m a Lie」、そして自分の子どもについて歌った「Dans vos airs」でした。

 もちろん、それだけではアルバムにはならないので、制作を続けていたのですが、そのなかで姉のケイトを失う、というあまりにも大きな出来事がありました。本当に、自分のなかに痛みや喪失感しかない、という時期があり、それが唯一、自分が表現できるテーマになったんです。

 その後、姉のいないパリには住めない、ということで、家族でニューヨークに引っ越しました。もちろん、ケイトに対する気持ちーー痛みはまったく消えないのですが、環境が変わったことで翼を得たかのような感覚になり、その思いをアーティスティックな形で表現できるようになって。また、自分の恥ずかしいところ、プライベートな部分も、迷いなく見せられるようになりました。それは、自分が立ち直って子どもたちのために生きるために、という意味もあったと思います。

ーー深い悲しみと、晴れ晴れとした思いがミックスされて、共存している作品だと感じます。お父さんについて歌ったという「Lying with You」ですが、セルジュ・ゲンズブールは今なお、世界的に大きな影響力を持っています。彼の音楽が聴き続けられている理由については、どう捉えていますか。

シャルロット・ゲンズブール:流行に流されない音楽だからではないか、と思います。確かな価値を求め、ベーシックなものに立ち返るような、いまの時代性もあるのかもしれませんが、いわゆる“天才“と呼べる人が何人かいて、アーティストにもインスピレーションを与え続けています。もちろん、アーティストでない人にも影響を与える。父の音楽も、そういうものだと思うんです。

 また、父の音楽のキャリアのなかで非常に重要だと思うのは、本当にさまざまなスタイルを試してきたことです。その勇気を持てたということも、やはり多くのアーティストに影響を与えるに至った大きな理由だと思います。

ーー先ほど“フラジャイル“と表現された、ささやくようなシャルロットさんのボーカル・スタイルについて、これはデビュー時から確立されていたものが、さらに発展していったと思います。これはお父さんとの共同作業のなかで生まれたものなのか、あるいはお母さん(ジェーン・バーキン)の影響もあるのか、その点についてはどうでしょか。

シャルロット・ゲンズブール:私が音楽をつくるうえで難しい点があって、つまりそれは父のスタイルにこだわってしまうこと、そして母、また今は妹(ルー・ドワイヨン)もいますから、そのスタイルに偏ってしまうことを避けなければいけない、という思いがあったんです。自分に自信が持てない、というのが一番の問題で。そんななかで、実はこのアルバムは、父との共同作業、父と作った音楽と、そこに乗っている自分の声、というものに立ち戻っていったものでもあるんです。というのも、AIR、ベックとのコラボレーションのときには、もっと自分の声の違う面を見せなければならない、と思っていたところがあって。自分の表現の幅を狭めてしまうのが嫌だったのですが、このアルバムでセバスチャンが「君の声は、もっとこういうふうに聴きたい。持っているものを前面に出そう」と言ってくれて、アメリカ、アングロサクソンの音楽ではなく、フレンチ・スタイルというところに自然に立ち戻ることができました。

ーーありがとうございます。最後に、今後の予定についても聞かせてください。

シャルロット・ゲンズブール:次の計画としては、ライブがあります。ただ“アルバムをリリースしました。すぐにツアーに出ます“というふうにできるタイプではないので、自分が楽しみながら、セバスチャンと一緒に素晴らしいステージを見せられるように、さらにじっくり、音楽を作り込んでいきたいと思います。

(取材=神谷弘一、通訳=山田蓉子)

『Rest』

■リリース情報
『Rest』
発売:2017年11月17日
価格:¥2,457(税抜)
〈収録曲〉
M-1 Ring-a-Ring O' Roses / リンガ・リング・オー・ローゼズ
M-2 Lying with You / ライイング・ウィズ・ユー
M-3 Kate / ケイト
M-4 Deadly Valentine / デッドリー・ヴァレンタイン
M-5 I'm a Lie / アイム・ア・ライ
M-6 Rest / レスト
M-7 Sylvia Says / シルヴィア・セズ
M-8 Songbird in a Cage / ソングバード・イン・ア・ケイジ
M-9 Dans vos airs / ダン・ヴォ・ゼール
M-10 Les crocodiles / レ・クロコディル
M-11 Les oxalis / レ・ゾクサリ

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