KEMURI 伊藤ふみおが語る“無料フェス”開催の意義、そしてスカパンクの現在地
1997年に1stアルバム『Little Playmate』でデビューを果たしてから、今年でちょうど20年を迎えるKEMURI。3月にリリースした最新作『FREEDOMOSH』でも、無条件に体が反応する裏打ちリズムと、ファンファーレのように高らかに鳴り響くホーンセクション、そしてシンガロング必至のキャッチーなメロディと相変わらず“KEMURI節”は健在で、活動休止〜再結成を経て現在バンドが非常に良い状態にあることを如実に伺わせるものだった。
そんな彼らがこのたび、無料ライブを行うためにクラウドファンディングによるプロジェクトを立ち上げた。これは、2014年より毎年開催している自身のイベント『SKA BRAVO』の特別版。海外から2バンドを加えた3バンドで、東京、名古屋、大阪の3箇所を回るものになるという。90年代に誕生し、今なお世界中で熱狂的な人気を誇る“スカパンク・シーン”、その現在進行形を体験できる貴重なイベントになることは間違いないだろう。そこで今回、KEMURIのボーカル伊藤ふみおに『SKA BRAVO』への意気込みや、クラウドファンディングについての見解など率直に語ってもらった。(黒田隆憲)
第ーに、自分たちが「かっこいい」と思ったバンドを見てもらいたい
――まずは今回、KEMURIのフリーライブをクラウドファンディングで行なうことになった経緯からお聞かせ下さい。
伊藤ふみお(以下、伊藤):今年はKEMURIが1stアルバム『Little Playmate』を出してから、ちょうど20年にあたる年なんです。そういうタイミングもあって、「何か面白いことをやりたいよね?」っていう話は漠然としていて。で、毎年僕らは『SKA BRAVO』という、海外のバンドを招聘するイベントを開催しているのですが、そこで今まで当たり前にやっていたことを変えてみたら、「何か面白いこと」になるんじゃないか?って。ファンのみんなは当たり前のようにチケットを買ってくれて、当たり前のようにライブを観に来て下さっていますけど、その「当たり前」をまずは崩してしまおう、と。それで、無料ライブというのを思いついたんです。それが、そもそもの始まりですね。
――無料ライブを開催するにあたっての資金、経費調達を、クラウドファンディングで募ってみようと。
伊藤:海外バンドを呼ぶとなると、やはり資金もかかりますし、色々な人のお力をもらわないと難しいんですよね。それと、「フリーライブ」であるということは、参加する人たちのスタンスも「自由」であるべきで、そういう意味での「フリーライブ」なのかなって考えたんですよ。つまり、それぞれが「自分なりの『SKA BRAVO』を自由に作るための方法って何があるんだろう?」と考えた時に、自分なりの楽しみ方を選べるクラウドファンディングというのは最適なんじゃないかと。中でもCAMPFIREは、名前がいいなと(笑)。アイデアも楽しいし。それでこの形になりました。
――パトロンになることで、オーディエンスも「SKA BRAVO」を一緒に作っている感覚になれる。まさにDIY精神を共有するということですね?
伊藤:そう。「応援してくれる方々も作り手」っていう意識でいますね。普通は「チケット代」っていう、来る人は皆均一の料金を支払って観るわけなのですが、フリーライブなのでタダで観ることはできる。そして、クラウドファンディングに参加してもらえれば、イベントを作る過程から関わることができて、僕らKEMURIとそのスタッフと同じ『SKA BRAVO』の一員になれる。それってKEMURIも参加アーティストもお客さんもスタッフも、みんながハッピーになれる面白いアイデアじゃないですか。
――実際にクラウドファンディングに登録してみての手応えや、気づいたことなどありますか?
伊藤:「やってみないとわかんないものだな」と思いました。とにかく初めてだし手探りのところもあったから、プレミアムコースのご支援をバンバン頂けたのは驚きましたね(笑)。今回のリターンで、僕は私物のギターを提供したのですが、それも数時間で。面白いのは、メンバーによってスピードに差があって、ちょっとざわざわしているところ(笑)。そういうのも、バンド内でちょっと刺激になっています。
ーーファンが、何を求めているのかが分かって面白いですよね。意外なものが好評だったとかありますか?
伊藤:「ローディーコース」という、リハ見学と本番中にステージの袖で見られるコースが割とすぐなくなったのも意外でした。「打ち上げコース」の方が早いかなと思ったんですけどね。スタッフ的な立場でバンドに関わってみたい人が多いのかな。
――リハーサルやステージ袖は、よほど近しい人でないと見られない特別感があるのかもしれないですね。クラウドファンディングをやるにあたって、参考にしたプロジェクトはありました?
伊藤:同じミュージシャンとして、「クラムボン×岩井俊二「日比谷野外音楽堂ライブ」映像化大作戦」は面白い試みだなと思いました。あと、キングコング西野さんの「キングコング西野の個展『えんとつ町のプペル展』を入場無料で開催したい!」も、今回立ち上げる上で参考にさせてもらいましたね。西野さんのブログは以前から読ませてもらっていたし、絵も上手いなあと感心していたんです。
――クラウドファンディングの利用の仕方も段々多様性が出てきて、ミュージシャンもいろんな使い方がきっとあるでしょうね。
伊藤:そうですね。僕も、そんなに詳しく理解しているわけじゃないんですけど、面白いなと思う。既存のやり方とは違う形で何かを表現できるというのは、もちろんリスクもあるけど、そこをちゃんと背負う覚悟さえできれば、自由度は高まるかなと。送り手である我々もそうですし、受け手であるお客さん的にもそうじゃないかなと。
――ファンとダイレクトに繋がれるという意味では、KEMURIの活動ポリシーと共鳴するところもありますか?
伊藤:そう、ですね。KEMURIはスカパンクバンドですから、結構ファンとも近いところにいるし、お互いにとってハッピーなものになると思いますね。
――2014年に初めて開催された『SKA BRAVO』ですが、そもそもはどのような経緯でスタートしたのでしょうか。
伊藤:その頃、The Bruce Lee Bandという友人のバンドが「日本でライブを行いたい」と、僕らに相談してきたんです。当時僕らは再結成して間もなかったので、気持ち的にはあまり余裕はなかったんですが、海外のスカバンドを見てもらったら、もっとKEMURIの音楽への理解を深めてくれるんじゃないかという期待もあったし、僕ら自身も共演することで何か刺激がもらえるんじゃないかと。そしてもちろん、お客さんに対しても「彼らを呼ぶことで伝わることがあるんじゃないか」という思いもありました。
――というのは?
伊藤:僕らが1stアルバムを作った20年前というのは、まだ「スカパンク」という言葉が日本で全然浸透してなかった頃なんです。そんな時期から僕らは、彼らをはじめとするスカパンクのシーンに大きな影響を受けて、未だに音楽を作り続けているのだということを、耳や目で直接感じて欲しかったというか。
――The Bruce Lee Bandは、<Asian Man Records>のレーベル・オーナーであるマーク・パークを中心とするバンドで、KEMURIが1stアルバム『Little Playmate』をレコーディングする際に自宅で寝泊りさせてくれた、恩人のような存在なのだとか。
伊藤:そうなんですよ。他にもLess Than JakeやReel Big Fishなど、未だに世界中でツアーをしているバンドに出演してもらいました。みんな、とてもエネルギッシュで楽しくて。笑いあり涙ありのステージは、「スカパンク」そのものを体現しているとも言えるものでしたね。
――海外のバンドを日本に呼ぶ意義については、どのように考えていますか?
伊藤:第ーに、自分たちが「かっこいい」と思ったバンドを見てもらいたいというのはありますね。「いやー、やばいっすね!」「だろ?」みたいな。それをやりたいんですよ。送り手側としても、あまりドメスティックなところで固まってしまうのではなく。今それをやっている日本のバンドってあまりいないし、人がやっていないことをやりたいっていうのもあるかもしれない。
――洋楽が不振と言われている今、無料で海外のバンドのライブが見られる機会なんて滅多にないし、若い音楽ファンにとってはすごく刺激になると思います。
伊藤:そうなんですよ。「とにかく知ってもらわないと」というのもあるし。DIY精神で、できることをまずはやってみようっていう気持ちなんですよね。
――今回、呼ぶバンドはもう決まっているのですか?
伊藤:ほとんど決まっています。まだちょっと言えないんですけど(笑)、でも実際に彼らの音を聞いたらたぶんビックリするようなメンツですよ!