FlowBackがメジャー1stアルバムに込めた“音楽的冒険” 『VERSUS』収録曲を徹底分析

FlowBackの“音楽的冒険”を読み解く

 海外のメジャーアーティストの作品にも顕著な通り、2000年代以降訪れたDTM文化の成熟により楽曲の分業制が進んだ結果、多くのクリエイターと手を取り合って刺激的な冒険を繰り広げることが再びポップ・ミュージックの黄金律のひとつになって久しい昨今。アイドルやボーイズグループの楽曲にも、高い音楽性を持つ楽曲は多数生まれている。中でも近年、日本の若手ダンス&ボーカルグループの中でも楽曲/パフォーマンスのクオリティの高さで話題を呼んでいるのが、リーダーのTATSUKIを筆頭にMASAHARU、MARK、REIJI、JUDAIからなる5人組、FlowBack。彼らが1stアルバム『VERSUS』を完成させた。

 FlowBackはとあるオーディションの参加者らによって結成された5人組ダンス&ボーカルグループ。「自らの手で新たな流れを起こす」という意味で「逆流」を意味する「FlowBack」をグループ名に冠し、楽曲制作や振り付け、スタイリング、グッズ制作までにメンバーが積極的にかかわる形で活動を開始。昨年9月のメジャーデビュー以降は気鋭のクリエイター集団Digz,Inc.Groupから、三代目J Soul Brothers from EXILE TRIBEの「R.Y.U.S.E.I.」などで知られるSTYやHIROをサウンドプロデューサーに迎えて音楽性をより進化させ、シングル『Come A Long Way』『Heartbreaker』『BOOYAH!』は、それぞれオリコン週間CDシングルランキングで8位、11位、6位を初週に記録している。今回は5月31日にリリースされるアルバム『VERSUS』から、彼らの楽曲の魅力と、そこに詰まったアイディアを紐解いていきたい。

 まず驚くのは、アルバムに向けて先行公開されたオープニング曲「VERSUS」だろう。ここではSTYとタッグを組んだ「BOOYAH!」の雰囲気をさらに進化させ、ディプロが主宰する米<Mad Decent>らが得意とするゴリゴリのトラップ・ビートに接近。ボディブローのように効く低音の鳴りは、普段からトラップを聴いているリスナーの耳にも自然に馴染む本格的なもので、こうした音の“鳴り”までこだわる雰囲気が彼らの楽曲の特徴になっている。メジャーデビュー曲となった2曲目「Come A Long Way」はガラージ/2ステップを取り入れたポップチューン。フューチャーガラージなどの盛り上がりで10年代以降再燃したつんのめるようなビートやJUDAIのラップが楽曲に魅力的なアクセントを加えている。

 次は新録曲が2曲。3曲目「FAMOUS」は、ティンバランド以降のUSメインストリームと共振して音楽性を洗練させた00年代の安室奈美恵(特に「CAN'T SLEEP, CAN'T EAT, I'M SICK」)などを思わせるファンキーな楽曲。MASAHARUによる<FAMOUS…FAMOUS…>というフレーズも効果的で、明確なAメロ/Bメロ/サビを持つJ-POPとはまた違う、ヒップホップR&B以降の流れを汲むポップ・ミュージックの魅力を閉じ込めている。一方4曲目「Champagne Shower」は80年代風ディスコ・ブギー。オートチューンを使ったボーカルや<連れ出すよto a whole new world>と宣言するリリックは、まるでボーイズグループの枠にとどまらない彼らの魅力を表現するようだ。

 以降もアルバムを通して感じるのは、曲によって様々なリファレンスが感じられる楽曲の多彩さ。80sサウンド全開の「Heartbreaker」やトロピカルハウスを取り入れたインディーズ時代のシングル曲「AfterRain」などを経て、アルバム用の新録曲「ByeBye」では一転メロウに。ピアノのリフレインとストリングス、そしてJ-POPならではの余韻を感じさせるメロディが心地よく響く。続く「BOOYAH!」はヒップホップ~トラップ的な要素にエスニックな音階のパートを追加。そこからサビでリドなどを髣髴させるフューチャーベースに一気に変貌する、様々な要素の折衷点とも言える楽曲だ。歌詞では観客がまったくいなかった初期のライブと、多くのファンが目の前にいる現在のライブとを対比させ、それが「BOOYAH!(=最高!)」というタイトルにもかかっているような雰囲気だ。続く「Phoenix Rise」はメンバー全員で作詞を担当。10曲目「Calling」はライブでの盛り上がりが想像できる楽曲で、とにかく全編において引用されている音楽要素が幅広い。ここにはコンセプトとしてひとつの音楽性を選ぶのではなく、楽曲ごとに様々な要素を繋いで「今アツい音」を楽曲に反映させるという、このグループの根幹をなすアティテュードが表われているように思える。

 そして11曲目「I SWEAR」では、5人の歌声が際限なく広がるようなバラードを披露。これまでの道のりに思いを馳せながら、同時にファンへの心からの感謝が歌われるという意味で、リリック面での終盤のハイライトと言える楽曲だ。そして最後はトランペットのサンプリングが印象的な、四つ打ちとファンキーな要素とをあわせもつ「Let’s Get Together」。様々な冒険を繰り広げた全編を経て、「I SWEAR」で一旦クールダウンさせたリスナーをもう一度ダンスフロアに連れ出すような雰囲気が、彼らのこれからの物語の広がりを連想させるエンディングだ。全12曲の中にひとつとして同じアイディアで作られた楽曲はなく、1曲目「VERSUS」でインパクトを与えてから徐々にメロウな表情を見せ、ラストで再び盛り上げる全体の流れも素晴らしい。本作の楽曲は、R&Bやヒップホップ、最新のクラブ・ミュージックがかかるフロアでも、違和感なくプレイされるのではないだろうか。と同時に、全編を通して感じるのは、ダンス&ボーカルグループならではの華やかさ。コアな音楽性がそのままコアに結実することなく、間口の広いポップスとして形になっていることが、このアルバムの何よりの魅力だろう。

 男性ダンス&ボーカルグループのリスナーは若年層の女性が多いこともあり、音楽的な先鋭性を優先させると彼女たちを魅了するポップさが損なわれ、ポップさを下手に追究するとダンス&ボーカルグループのファン以外には届きにくくなるという特殊な構造がある。近年音楽的に刺激的な冒険を繰り広げるボーイズグループの躍進はおそらく、そうした垣根を越えようとするメンバー/製作チームの強い気持ちに支えられているのだろう。そしてこの『VERSUS』は、その中でも屈指の音楽的冒険が詰まった作品だと断言できる。ここには、たとえば近年の三浦大知やw-inds.を髣髴させる――音楽を聴きはじめたばかりのティーンからマニアックな音楽リスナーまであらゆる人々を魅了するポップ・ミュージックの魅力が、全編にぎっしりと詰まっている。

■杉山 仁
乙女座B型。07年より音楽ライターとして活動を始め、『Hard To Explain』~『CROSSBEAT』編集部を経て、現在はフリーランスのライター/編集者として活動中。2015年より、音楽サイト『CARELESS CRITIC』もはじめました。こちらもチェックしてもらえると嬉しいです。

■リリース情報
『VERSUS』
発売日:5月31日(水)
価格:初回限定生産盤A ¥3,700(税込)
初回限定生産盤B ¥3,700(税込)
通常盤 ¥2,600(税込)

<CD収録曲>※各仕様共通、全12曲収録
1.VERSUS
[テレビ朝日系全国放送「BREAK OUT」5月度 エンディング・トラック]
2.Come A Long Way
3.FAMOUS
[TBS系テレビ「王様のブランチ」5月度エンディングテーマ]
4.Champagne Shower
5.Heartbreaker
6.AfterRain
7.Bye Bye
8.BOOYAH!
9.Phoenix Rise
10.Calling
11.I SWEAR
[ABC朝日放送ドラマ『#セルおつ』主題歌]
12.Let’ s Get Together

■イベント情報
『1stアルバム「VERSUS」リリース記念イベント』
5月27日(土)①13:00~/②16:00~@愛知県:イオンモール大高
5月28日(日)①16:00~@愛知県:近鉄パッセ 屋上
5月30日(火)①19:00~@東京都:ららぽーと豊洲
5月31日(水)①19:00~@東京都:タワーレコード渋谷店B1F CUTUP STUDIO
6月1日(木)①19:00~@東京都:タワーレコード新宿店
6月2日(金)①19:00~@東京都:タワーレコード渋谷店B1F CUTUP STUDIO
6月3日(土)①13:00~/②16:00~@東京都:タワーレコード新宿店
6月4日(日)①13:00~/②16:00~@神奈川県:ラゾーナ川崎プラザ
※詳しくはオフィシャルHPを閲覧のこと。

■ライブ情報
『FlowBackワンマンライブ』
日程:2017年7月9日(日)
会場:赤坂BLITZ
開場:16:00/開演17:00
料金:¥4,000(ドリンク代別途500円必要)
席種:1Fスタンディング/2F指定
チケット一般発売日:5月27日(土)

■関連リンク
FlowBack オフィシャルHP
FlowBack Facebook
FlowBack Twitter
LINE公式アカウント LINE ID:FlowBack

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