ゲスの極み乙女。『達磨林檎』は予想を上回る傑作だ 川谷絵音の“自由”な創作活動を読む
5月10日にリリースされた、ゲスの極み乙女。の新アルバム『達磨林檎』。前作『両成敗』から約1年4カ月ぶりの新作となった同作は収録曲全てが新曲で、ジャズ、ファンク、ソウルなどあらゆるジャンルを横断しながらもポップスの愉悦が凝縮された作品となっている。川谷絵音(Vo/Gt)との掛け合いを楽しむような女性ボーカルを多く取り入れたことと、文学的な雰囲気のある歌詞が相まって、作品を通して聴くと1つの演劇であるような印象も受ける。そんな川谷のメロディメイカーとしてのセンスが存分に発揮された同作について、ブログ「レジーのブログ LDB」を運営し、過去に当サイトで「ミスチル、スピッツ級の逸材か? indigo la End・川谷絵音が担う「歌ものロック」の未来」を執筆した音楽ライター・レジー氏に話を聞いた。
「シングルカットされている曲がないことも関係しているかもしれませんが、個別の曲が目立つというよりは作品全体でのまとまりが際立っている印象を今作からは受けました。前作まではバンド編成の音楽であるということが前提になっていたように思いますが、今回のアルバムではそうしたフォーマット上の制約を取っ払って自分たちのやりたい音楽をそのままやっているように感じます。『4人のバンドで、川谷絵音がボーカルをやる』ということ自体への執着がなくなってきているのかもしれない、というのは女性の声が今まで以上に多く使われていたところからも感じました」
前作『両成敗』は「私以外私じゃないの」「ロマンスがありあまる」などシングルとして発売された楽曲も多く収録され、キャッチーで濃密な作品だった。また曲数としても前作は17曲、今作は13曲であり、今作はよりコンパクトで1枚を通して聴きやすい印象である。レジー氏は収録曲に触れ、メンバーの類稀な演奏力についても言及した。
「ミュージシャンとしての技量がメンバー全員高いのでどんなジャンルの音楽にも対応できるのがこのバンドの強みのひとつだと思うのですが、今作ではその特徴がより顕著に表れています。ネオソウル的なアプローチが見られる『Dancer in the Dancer』やファンクテイストの『ゲストーリー』など、ダンスミュージックへの接近を思わせる楽曲からはバンドが新たなフェーズへと進んでいることを強く感じました。また、8分以上に渡る『いけないダンスダンスダンス』を聴いた際には、これだけ長尺の曲をここまでドラマチックに聴かせられる人たちはなかなかいないのではないかと改めて思いました」
さらにレジー氏は、さまざまな型にとらわれず、自由に制作された今作は、リスナーの音楽体験にも影響を与えるのではないかと期待を寄せる。
「フェスで盛り上がれる四つ打ちの音楽の流行が少しずつ沈静化しつつある中で、特に中堅以上のバンドを中心に自分たちのできることをもう一度模索しようとする動きが最近生まれているように感じます。このアルバムもそうした流れとリンクしているのかもしれません。彼らのファンの中には日本のロックしか聴かないという人も一定数存在すると思いますが、ジャズ、ソウル、プログレなど様々なタイプの音が混ざり合っている今作を聴くことで、他のジャンルへの興味関心が少しでも生まれれば良いなと思います」