Clean Banditが歩む、独自の音楽的進化 ザラ・ラーソン迎え手に入れた“王道ポップス”の魅力

Clean Banditが手に入れた“王道ポップス”の魅力

 ベース・ミュージックやハウスを筆頭にしたクラブ・ミュージックと、メンバー自身が楽器を担当するクラシックの要素とを融合させた「コロンブスの卵」的な音楽性で人気を博すイギリスの4人組、Clean Bandit。彼らがイギリスで9週連続1位を獲得(23年ぶりの快挙)した「Rockabye」に続く最新シングル「Symphony」を発表した。

 Clean Banditは2009年、英ケンブリッジ大学で出会ったジャック・パターソン、グレース・チャトー、ミラン・ニール・アミン=スミスの3人に、ジャックの弟ルーク・パターソンが加わり活動をスタート。UKの音楽シーンは2000年代以降ギターの売り上げがDJ機材を抜き、長らくバンド中心のシーンが続いていたが、この頃は南ロンドンを震源地にダブステップがテクノやハウスを取り込んですさまじい勢いで音楽性を広げていた時期で、翌2010年以降Magnetic Manやそのメンバーでもあるスクリーム、ケイティ・BらがUKのメインストリームを席巻する前夜。ジェイムス・ブレイクが初期の代表曲「CMYK」をリリースする1年前と言えば、その雰囲気が伝わる人も多いかもしれない。Clean Banditはそうして「ロックからクラブへ」と大きく傾きつつあったイギリス全土を覆う大きなうねりの中で登場したグループで、当時彼らと同時に注目を集めたSubmotion Orchestraらとともに、最初期は「ベース・ミュージックとクラシックの融合種」とも言われていた。

 とはいえ、このグループの本当の魅力は、以降の活動で徐々に明らかになっていった感覚がある。というのも、彼らには活動初期からHot Chipなどにも通じるプレイフルな遊び心があり、楽曲ごとにハウスやEDMなどを積極的に導入。様々なボーカリストとコラボレーションすることで、ジャンルを超えた人気を獲得していった。2014年にはジェス・グリンを迎えたダンス・アンセム「Rather Be」が大ヒット。同年デビュー作『New Eyes』をリリースするとゴールド・ディスクを獲得した。ライブでもロック系、ポップ系、EDM系にいたるまで様々なフェスに出演し、「そのどこに行っても異端児になる」という不思議な存在感のグループへと成長していった。2016年末にリリースされた前述のシングル「Rockabye」ではショーン・ポールとアン・マリーを迎え、レゲエ~ダンスホールにクラシックの要素を加えて再解釈。全英チャートで9週連続で1位を獲得した他、イタリア、オランダ、スウェーデン、オーストラリア、ポーランド、フィンランドの7カ国でプラチナム認定を受けた。

 続く今回の最新シングル「Symphony」では、スウェーデン出身の歌姫ザラ・ラーソンとコラボレーション。ザラ・ラーソンは10歳でスウェーデン版『ブリテンズ・ゴット・タレント』に出演すると、2012年に本格的にデビュー。EDMを中心にガラージやベース・ミュージックを取り入れた音楽性で知られるシンガーだ。ちなみに、「Rockabye」が9週連続で1位を獲得した週のUKチャートの3位が彼女の「I Would Like」で、「Symphony」はともに高い人気を誇る両者の豪華コラボになっている(この楽曲はザラ・ラーソンが今年3月に発表したばかりのデビュー作『So Good』にもラストに収録されている)。音楽的には、ガラージ/ダブステップ直系のハーフステップやトロピカル・ハウスの要素を取り入れたクラブ・サウンドに、流麗なストリングスとザラ・ラーソンの歌声が絡み合い、「Rockabye」とは対照的に歌声とスケール感でストレートに勝負するような雰囲気。歌詞では「愛」を「シンフォニー(交響曲)」に見立てて、大会場での観客の合唱を連想させるような、より王道のポップスとしての魅力を手に入れている。Clean Banditの次のアルバムはおそらく、彼らがよりシーンのど真ん中へと向かうような作品になるのだろう。とはいえ、「この音楽は何なのか?」と聞かれても、結局「なんとも説明のしようがない」。そんな雰囲気がいかにも彼ららしい、ユニークなキラー・チューンだ。

■杉山 仁
乙女座B型。07年より音楽ライターとして活動を始め、『Hard To Explain』~『CROSSBEAT』編集部を経て、現在はフリーランスのライター/編集者として活動中。2015年より、音楽サイト『CARELESS CRITIC』もはじめました。こちらもチェックしてもらえると嬉しいです。

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『Symphony』

■リリース情報
『Symphony』
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