Spotifyで140万回再生を記録 The Hotpantzが鳴らす“国籍不問のグローバル・ポップ”

The Hotpantzが鳴らす“グローバル・ポップ”

 2015年に国内外の様々なサービスがスタートし、「サブスクリプション元年」と言われた日本の音楽シーン。2016年にはSpotifyが日本上陸を果たすなど、ストリーミング・サービスはより身近なサービスとして定着しつつある。そして近年では、そうしたツールをきっかけに注目を集めるアーティストも登場しはじめている。その一組がThe Hotpantz。彼らが昨年発表した「Nowhereland」は、Spotify Japanのプレイリストに選ばれたことをキッカケにアメリカで火が付き、140万回再生を記録し、同サービスのNY/LAエリア・チャートで1位を獲得(1月10日付)。2016年のSpotify ジャパン・チャートでもONE OK ROCK、清水翔太、中田ヤスタカに次ぐ4位となった。多国籍集団であること以外、素性は一切不明。しかし日本語詞/英語詞が入り乱れる不思議なポップネスで話題を呼んでいる。

 彼らの特徴のひとつと言えるのが、メンバーをイラストで表現したと思しきビジュアル要素。そのテイストはジョン・マルコヴィッチ製作で映画化もされた90年代のカルト・コミック『ゴーストワールド』(スカーレット・ヨハンソンがブレイク前に出演していたことでも有名)や、トゥーンレンダリングで作られたアニメ作品『The World of GOLDEN EGGS』などにも通じる、ナンセンスでポップな世界観が基調になっている。イラストで描かれたメンバーは全員ホットパンツを着用。ポップなMVも、眺めれば眺めるほど本気とジョークの境目が曖昧になっていくーー。世の中の常識や価値観を反転させるエンターテインメント精神がふんだんに詰まっている。

 とはいえ、動画サイトではなく音楽ストリーミング・サイトであるSpotifyから注目を集めた経緯からも分かる通り、このグループの魅力はサウンド自体のクオリティの高さにある。前述の「Nowhereland」は、00年代の仏KitsuneやPassion Pitなどを髣髴させるインディ・テイストのエレクトロ・ポップでありながら、パキッと整えられたプロダクションによってテイラー・スウィフトの『1989』にも通じる王道で華やかな雰囲気が生まれている。また、歌詞では〈アッペナッペナ(UP&UP&UP)〉〈マックアッケナ(幕開けなう)〉〈ブンシャカラララ(boom boom shakalalala)〉といった言葉遊びが楽曲にフックを加え、つい口ずさみたくなる中毒性を生んでいる。一言で言うならば、ロンドンのKero Kero Bonitoらにも通じるような、「国籍不問のグローバル・ポップ」といった雰囲気だ。

 2月22日に配信リリースされた彼らの新曲「Shadyman」は、そんなグループのより幅広い音楽性を伝えるような楽曲に仕上がっている。モダンでスタイリッシュな「Nowhereland」から一転、ここではアメリカーナを連想させる土臭いギター・サウンドとヒップホップ・ビートが混ざり合った序盤を経て、サビで一気に華やかなカッティング・ギターとエレクトロ・ポップど真ん中のメロディが溢れ出す。MVでは「災いを呼ぶ謎の秘宝”SHADYMAN”を巡るドタバタ群像劇」を描写。ジャケットでは西部劇を思わせる衣装に身を包んだ女性がなぜかパンダに乗っている。パンダに乗るカウガール……。まったく意味が分からない。けれどもその思わずクスリとするような遊び心が、聴き手のワクワク感を増幅する感覚がある。

 すべての楽曲に広がるのは、現代社会の辛気臭いムードを音楽の力で笑い飛ばすような、ナンセンスきわまりないポップ・ワールド。楽曲自体のクオリティが高いからこそ、予想の斜め上を行くシュールで可愛いらしいビジュアルやユニークな活動形態、そしてミラーボール輝くダンスフロアの高揚感が互いに相乗効果を生んでいく。謎に包まれている要素が多すぎるために、今後もひとつひとつの活動や作品が聴き手の興味や想像を掻き立てていくことだろう。シュールでユーモラスな「無意味の地平」からリスナーの心をぐっと掴んで離さない、The Hotpantzの今後に注目していただきたい。

(文=杉山仁)

Shadyman
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「Shadyman」

●リリース情報
「Shadyman」
発売:2017年2月22日(水)
※配信限定

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