活動25周年のcoba アコーディオンやビョークとの出会い、アニバーサリー作に込めた思想を語る

coba、25周年の活動に込めた思想

 アコーディオンという楽器の持つポテンシャルを押し広げ、これまで誰も聴いたことのなかった音楽を作り続けてきたアコーディオニスト、cobaがオリジナル・アルバムとしては実に通算37枚目となる『coba?』をリリースする。1991年にアルバム『シチリアの月の下で』でデビューしてから、今年で25周年を迎えるcoba。それもあって新作のテーマは当初「原点回帰」だったという。音楽に初めて触れた時の感動や、アコーディオンに対する「既成概念」をぶち壊そうという衝動。そういったものに再び向き合った結果、ブラスロックからファンク、サウダージ、EDM、テクノ、昭和歌謡と、古今東西様々な音楽スタイルを渡り歩く、非常にヴァラエティ豊かな作品に仕上がっているのが興味深い。

 そこで今回、本作『coba?』がどのようにして完成したのかというエピソードはもちろん、そもそも何故アコーディオンを手にしたのか、活動のターニングポイントとなったビョークとの出会いは、彼に一体どのような影響をもたらしたかなど、じっくりと聞かせてもらった。(黒田隆憲)

「(アコーディオンは)聴き手の心の奥の触れて欲しくないところに入り込む楽器」

ーー本作『coba?』は、デビュー25周年ということもあって「原点回帰」をテーマに制作がスタートしたそうですが、実際のアルバム作りは、どのように進めていったのでしょうか。

coba:実は、2015年にはこの企画が持ち上がっていたんです。それからはずっと「曲を作らなきゃ」と思っていたのですが、何故か全く浮かんでこない。確か2月か3月に、番組テーマ曲のタイアップが1つ決まり、アルバム収録することに。そういう場合大抵はある程度のフォーマットというか、「こんなイメージで」とか、もっといえば「これまでのcobaさんの作品の、〜という曲っぽい雰囲気で」みたいな形でリクエストをもらうことが多いのでまあ作りやすいんですが、アルバム用の曲は納品ギリギリまでそのたった1曲のみ。

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ーー制約がある方が、イメージを固めやすいということですよね。

coba:まあそうとも言えます。今年はそれ以外にも、いくつかの委嘱作品を制作してはいました。例えば、クラシックギター界を代表する荘村清志さん、福田進一さんからの委嘱で楽曲提供をしたり、あるいはTFC55(東儀秀樹×古澤巌×coba)の活動の為の曲作りだったり、或いはドラマ音楽やCM。そういった楽曲制作は、なんの問題もなくスムーズに出来るのですが、いざ自分のアルバムとなると、制約もフォーマットもなく自由なぶん、いろいろ考えてしまって堂々巡りになる。そんな状態がずっと続いていました。

ーーどうやってそこから抜け出したのですか?

coba:原点回帰、つまり「初心に帰る」というのは、「1枚目に戻って、1枚目のようなテイストの作品を作る」ということじゃないんだなと改めて認識し直した。初めて楽器を触った時の興奮や感動とか、アコーディオンの常識を覆してやろうという「初期衝動」とか。音楽だけじゃなくて、例えば誰かと喧嘩したり、意気投合したり、愛し合ったり別れたり、あるいは人生で絶望したり喜びを感じたり、そういうことを経て今の自分が存在するわけです。それらを一つたりとも否定できない。全てが自分の人生ですからね。そこと純に向き合った時、すっと降りてくるものこそが正直な「25年目の音楽」なのだなと。そういう心境になってからは、(音楽が)降りてくるのも早かった。

ーーどういう時に降りてくることが多いのですか?

coba:僕の場合はシャワーを浴びている時が多いかな。僕にとってブレイクポイントとなった曲の、9割くらいはシャワーを浴びている時に生まれてる(笑)。しかも、そういう曲は作為的な要素が全然なくて、ストレートでシンプルなんですよね。今回は、10月18日と19日の2日間でレコーディングをすることになっていたのだけれど、その直前の1週間で100を超えるモチーフが次々に降りて来ました。1つをメモする間にどんどん次が降りて来てしまうので「おいおい、ちょっと待ってくれ!」って感じでした(笑)。

ーー降りてくるときには、アレンジから何からいっぺんに降りてくるのですか?

coba:そういう場合もあります。それをトレースするように落とし込んだ後、推敲しつつ修正を加えていくのですが、それが良くない結果を生む場合もある。「左脳先行」になってしまうというか、そうすると音楽的ではなくなってしまうのでバランスも大切です。あとは、美しいコード進行がまず降りてきて、後からリズムやメロディを乗せる場合もありますね。

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ーー本作を聴くと、ブラスロックからファンク、サウダージ、EDM、テクノ、昭和歌謡など、様々なアレンジの曲があって。まるで時空を旅しているような気分になります。何かインスパイアされた音楽など具体的にありましたか?

coba:うーん、何を聴いていたかな。意外と、クラシックをよく聴いていましたね。グレン・グールドや武満徹さん、僕にとっては大師匠に当たるニーノ・ロータなど。あとは、YouTubeで面白そうだなと思うものをチェックしたりすることもありますね。

ーーアコーディオンという楽器自体が「旅情」を誘うような音色で、それも旅しているような気分になる一因なのかなと思いました。

coba:そういう楽器だと思いますね。聴き手の心の奥の、一番触れて欲しくないところに、スッと入り込んでしまうような響きというか(笑)。ノスタルジックで優しい表情を見せたかと思うと、ときにはイタリアのヴェスヴィオ火山が噴火したような、バイオレントな顔も見せる。例えば、有名なイタリアの大衆歌謡「フニクリ・フニクラ」(曲名は、ヴェスヴィオ山の山頂までの登山電車フニコラーレの愛称)も、アコーディオンにはうってつけの曲。

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