『Apple Music Festival』に見るブランド戦略 チャンス・ザ・ラッパーを大トリ抜擢の背景は?
『Apple Music Festival』が、9月19日から10月1日(日本時間)に渡り10夜連続、ロンドン市内の歴史的ライブハウスROUNDHOUSEにて開催される。
同フェスは、『iTunes Festival』を前身として、2007年にロンドンのInstitute of Contemporary Artsを会場にスタート。参加チケットはイギリス在住者を対象に抽選で無料配布され、ライブの模様はAppleデバイスから無料でライブストリーミングを視聴することが可能。これまでに何千万ものリスナーが楽しんだという。フェス名を『Apple Music Festival』へ改称した昨年からは、Apple Musicメンバーのみが視聴可能となっている。
過去の出演者にはアデル、ベック、ジャスティン・ティンバーレイク、レディー・ガガ、ポール・マッカートニーなどトップアーティストが並ぶ。今年は、初日のエルトン・ジョンを皮切りに、THE 1975、アリシア・キーズ、ワンリパブリック、カルヴィン・ハリス、ロビー・ウィリアムズ、バスティル、ブリトニー・スピアーズ、マイケル・ブーブレと続き、最終日の大トリをチャンス・ザ・ラッパーが務めることが発表されている。
デジタル音楽ジャーナリストのジェイ・コウガミ氏は、10周年を迎える今年のラインナップについてこう語る。
「ラインナップで『Apple Musicがどこに行きたいのか』というのを示しているのが大きいと思っています。音楽のジャンルとして何か大きな傾向があるというよりかは、グローバルにリーチできるアーティストであったり、それぞれのジャンルで根強いファン、コアなファンを持っている人たちが多く揃っているオールミックスなフェスです。エルトン・ジョンなどCDやアナログ時代のアーティストもいれば、チャンス・ザ・ラッパーのように配信のみのアーティストがいるのも特徴的です」
チャンス・ザ・ラッパーが大トリに抜擢されたことについて、コウガミ氏は日本と海外における彼の影響力の差も交え、以下のように解説する。
「チャンスは、日本ではまだコアな人にしかフォローされていませんが、海外だと昨年から今年にかけて、ヒップホップだけではなく、ブラックカルチャーの中でも影響力のある大きな存在になっています。そのような意味で言うと、アルバムをリリースした人をフィーチャーするということでもないのかなと思っています。例えば、ブリトニーは8月にアルバム『GLORY』を出しましたけど、彼女はこれまで紆余曲折した人生を歩んできていますし、カルヴィン・ハリスはDJであったのが今となってはポップミュージシャンです。チャンスもシカゴのローカルヒーローだったのが、ナショナルレベルのスターになっていった。音楽でサクセスストーリーを掴んだ人を上手くブッキングしています」
また、毎年9月に開催される『Apple Music Festival』はAppleのブランディングに大きく貢献しているという。
「この時期に開催する一番の理由はiPhoneが発売されることでマーケティング、ブランディングが重要な時期だからです。Appleがカルチャー文脈において影響力、ブランド力を持っているということを世界中に見せられるチャンス。サブスクリプションサービスの中でもフェスをコンテンツとしてライブ配信しているのは、Apple MusicとTIDALの2つ。特に、『Apple Music Festival』はApple Music以外ではライブ配信されないですし、音源はフェス終了後にコンテンツとして展開することもできる。Spotifyでもスタジオにミュージシャンを招いてライブを行う『Spotify Sessions』をオリジナルコンテンツとして配信していますが、ブランドの大きさですよね。どんなミュージシャンと一緒にやっているのか、どれくらいAppleの認知度があるのかというのを考えると、Appleが自分たちでフェスを開催しているのは強力なことです」
Apple Musicでは、今年の出演アーティストをまとめたプレイリストやフェスの歴史を振り返ることができる出演アーティストのライブEP、ビデオアルバムが公開されている。日本でも開催までより一層の盛り上がりを見せていきそうだ。
(取材・文=渡辺彰浩)