sleepy.ab・成山剛の初ソロアルバムを通して見る、札幌拠点アーティストの成熟

 ネットやインフラの恩恵でこれだけ世界がフラットになっても、アーティストの音楽性とそれが育まれた地域的な背景は分かちがたいものがある。いや、むしろ、情報がフラットになればなるほど、滲み出るようなその人なりの音像はむしろ濃くなっている気がする。

 北海道拠点のバンド/アーティストの特徴や、期待される動向についてはすでに、札幌市のベッドタウンである恵庭市の新興住宅地にプライベート・スタジオを持ち、そこを拠点にしつつメジャーでの活動を行うFOLKSや、同バンドのメンバーがもともと在籍しており、シーンでは先にキャリアを積んでいたGallileo Galileiが現在の代表的な存在といえるだろう。残念ながらGGは1月にリリースした4thアルバム『Sea and The Darkness』と、それに伴う4月まで現在進行中のツアーをもってバンドを「終了」する。だが、自宅スタジオ「わんわんスタジオ」で制作した2012年のアルバム『PORTAL』や、今や盟友とも言えるPOP ETCのクリストファー・チュウを共同プロデューサーに迎えた2013年の『ALARMS』など、USインディなどと共振する意欲作を送り出したことは忘れられない。

 さて本題のsleepy.abのボーカル&ギターである成山剛に話を移そう。sleepy.abは1998年に札幌で結成、2002年に当地のインディーズ・レーベルから1stアルバム『face the music』をリリース。来年にはもうデビュー15年を迎える中堅と言っていい存在だ。バンドとしてのオリジナル・アルバムは2013年の『neuron』なので、新作が待ち遠しいが、昨年末耳に入ってきたのは成山のソロ、またギターの山内憲介もソロ制作中、その後、バンドの新作も予定されているという情報だった。そもそもバンドと並行してソロで弾き語りライブも頻繁に行ってきた成山。全国各地にミュージシャンの友人を持ち、加えてカフェや酒蔵、お寺(!)、能楽堂(!!)などさまざまな場との出会いをsleepy.abの音楽で築き上げてきた流れから、成山が主宰する「宵」と銘打たれた弾き語りとお酒のコラボレーション・ライブも実施。各地のライブハウスからの招聘も多く、先日、大塚で見たライブでは奇妙礼太郎との2マンという、なかなか貴重かつ異色の顔合わせが実現していた。他にも波多野裕文(People In The Box)、海北大輔(LOST IN TIME)、五味岳久(LOSTAGE)らとの共演はファン以外には余り知られていないのではないだろうか。

 ライブ活動を経ての初ソロ・アルバム『novelette』は、sleepy.abの初期作品に関わってきたSHIZUKA KANATA(Chameleon Label)とsleepy.abの山内憲介がギターやカリンバ、ピアノやシンセで参加。成山の歌とクラシックギターを軸にしつつ、アブストラクトな上モノや、オールドタイミーなピアノなどバンドともまた違うサウンドスケープを描く。独特の譜割りでsleepy.abの楽曲の中でも人気が高い「エトピリカ」のカバーでは、人力カット&ペースト的なコラージュも施し、さらに実験色の濃い仕上がりに。一方では限りなく弾き語りのシンプルネスを生かした楽曲も収録。余談だが波多野裕文は成山の弾き語りを「ある種、狂気を感じる」とツイッターで評していたが、たしかに尋常ではないスローなタイム感は、バンドサウンド以上のものがある(ちなみに彼の故郷である根室には札幌から電車で9時間かかるのだとか)。さすがに見てきた景色や空気や風が影響しないはずがない。

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