さかいゆうが明かす“リスナーに届く音楽”の作り方「98%は焼き直し、残り2%にどう足跡を残すか」

さかいゆうが語る“リスナーに届く音楽”の作り方

 さかいゆうが約2年ぶり、通算4枚目のオリジナルアルバム『4YU』を発表した。ソウルミュージックをベースにしつつ、ブリティッシュポップからAOR、ジャズまで多彩な要素を散りばめた本作は、さかいゆうの音楽的集大成であると同時に、新たなチャレンジを感じさせる一枚だ。とりわけAvec Avecやmabanuaといった気鋭のサウンドクリエイターとコラボレーションした楽曲では、これまで以上にダンスミュージックに接近した新しい“さかいゆうミュージック”を聴くことができる。リアルサウンド初となる今回のインタビューでは、『4YU』の制作過程や狙いをじっくり訊きつつ、創作者としてのクールな批評性と、歌手・演奏者としてのダイナミックな肉体性を兼ね備えた彼の音楽的スタンスに迫った。

「僕も(武井)壮さんも“立候補型”なんです」

――約2年ぶりのオリジナルアルバムは、ステージ上でのパフォーマンスから感じる躍動感と、じっくり音を突き詰めるレコーディングの技巧が共に味わえる作品だと感じています。制作はどんなふうにスタートしたのでしょうか。 

さかいゆう:アルバムを全部聴いて残るものというのも大事だとは思うんですけど、もともとコンセプトを立ててまとめようというタイプじゃないんですよね。だから今回も一曲一曲、いい曲ができたからみなさんにお届けしよう、という感じでスタートして。本当に曲単位で進めるから、結果的に歌のスタイルも曲ごとにすごく変わるんです。

――確かに、曲ごとに60年代のポップスや70年代のソウル、あるいは80年代的なダンスミュージックの要素もあって、幅広いアレンジが楽しめる作品です。

さかいゆう:そうなんですよね。歌の幅の広さを聴かせたい、と考えたわけではなくて、アレンジのなかで自然とそうなるというか。例えば1曲目の「SO RUN」だったら、武井壮さんをイメージして作ったんですよ。それで、僕の音楽的なボキャブラリーのなかで武井壮という人を語ろうとしたら、こういうファンキーなタッチの曲になって。そういうふうに、漠然としたイメージから音の塊みたいなものを作っていく、というところから始めることが多いですね。

――「SO RUN」は実際、MVに武井壮さんが出演していますね。

さかいゆう:3年くらい前にお会いする機会があって、すごく刺激を受けたんですよね。それで自分なりにいろいろと調べて、一昨年くらいに対談する機会をいただいて。躍動感と、スポーツの人をつなぐ力みたいなものをすごく感じて、感動したんです。それと、自分と共通する部分も感じて。

――どんなところが共通していますか?

さかいゆう:僕も壮さんも“立候補型”なんですよ。誰かにお願いされて仕事をするより、自分から動いていく。自分から叫びたいものがあって、それで多くの人を巻き込んでいくのがエンターテイメントなのかなって思うんです。自分の好きなことをやっているんですけど、そのイメージを広げていくと、結果としてこういうアルバムになったというか。

――例えば、EPとして先にリリースされていた「サマーアゲイン」はどんなイメージで作り始めたのでしょうか。

さかいゆう:漠然と、すごく楽しくノレて、みんなで“イエーイ!”ってなっていて、でもテンポは速すぎないで、ずっと聴けるような、夏の終わりの感じの曲……というイメージですね。実際は冬に作ったんですけど(笑)。どの曲もこんな感じのイメージがあって、ひとつひとつ雲が晴れていくみたいに形になっていくんです。それで、歌詞を書いたあとも少しアレンジを加えて、微調整する。8曲目の「SELFISH JUSTICE」あたりは、緊張感を出すためにあえて音数を普段より多めにしてみたり。

――なるほど。今作は色んなクリエーターとのコラボレーションも大きな特徴で、特にAvec Avecさんが編曲に加わった「Doki Doki」「愛は急がず -Oh Girl-」の軽快なポップス感が印象に残りました。彼との作業はどのように?

さかいゆう:最初にスケッチみたいなものが必ずあるんですよ。それを渡して、そこから“加点”していく感じで作っていくんです。それで迷ったら、原点=スケッチに戻る。譜面では説明せずに、やっぱりイメージをまず作るんですよね。

――そのスケッチを作品に仕上げていくと。

さかいゆう:この曲を一緒に仕上げてくれるのは誰だろう、という感じで、歌詞もメロディもアレンジも含めて考えていくんです。

――なるほど。「愛は急がず -Oh Girl-」だったら、作詞は西寺郷太さんがクレジットされていますね。サウンドのアイデアがあって、それにあった歌詞を書けるのが西寺さんだった、ということでしょうか。

さかいゆう:そうです。西寺さんは、深いテーマを軽い言葉で言えるから。僕としては、すごく深い言葉で伝えるより、そっちのほうが好みなんですよね。頭のいい人にしかわからない難しい哲学書を読むより、いい絵本を読んだほうが大人にとっても勉強になることってあると思うんです。何度も聴きたくなるような軽~いフレーズで伝えて、生活のなかでその意味に気付かされる……みたいなギミックを作るのは楽しいですよね。それはいつも心がけています。

――確かに、今作も全体として考えさせられるというより、周りを巻き込んで盛り上がるようなイメージがあります。リフレインが耳に残るようなフレーズも多くて、クセになるというか。

さかいゆう:そうですね。ミドルからアップテンポの曲が多いし、これまでの僕のアルバムの中では、踊れる方かなと思います。そのぶん、初回生産限定盤についてくる『さかいゆうCOVER COLLECTION』は静かな感じで、弾き語りが多かったりするんですけどね。

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