さかいゆうが明かす“リスナーに届く音楽”の作り方「98%は焼き直し、残り2%にどう足跡を残すか」

さかいゆうが語る“リスナーに届く音楽”の作り方

「獰猛な欲望。それが僕にとっての音楽」

――「下剋情緒」などはジャズの色が濃い曲ですね。この曲も後半はかなり躍動的ですが、たとえばライブでリスナーと音楽を共有することで、音作りにフィードバックされるものはありますか?

さかいゆう:ありますね。ライブで盛り上がりそうな曲は作りながら分かるし、あまり再現性を考えないで作るので、“ライブでやるのは難しそうだな”とも思うんです。歌とピアノは絶対に別録りなので、ライブでどうやってやろうと。自分が作ったもののせいで練習しなきゃいけなくなって、それで結果的にうまくなったりするんですよ。

――ライブで再現することで、ひとつハードルを越えると。

さかいゆう:だから、ツアーの前は1週間くらい休みがほしいんですよ。1日かけて2曲くらいしか練習できないので。リハのための練習ですから、言ってみれば練習の練習。それをけっこう丁寧にするんです。リハまでにはバキバキに仕上げておいて、ドラムのハットの抜き差しとか、そういう細かい会話をしたいんですよ。今回のアルバムでは自分で演奏している曲も多いし、例えば僕が弾いたベースを別のミュージシャンがどう解釈して弾いてくれるのか、というのが面白かったりして。それを自分にフィードバックできるし、これはもう会話、コミュニケーションですよね。そういう時間を取るためにも、ピアノと歌は仕上げておかないといけないんです。今回で言うと、「SO RUN」や「Doki Doki」は難しいですよ(笑)。

――なるほど。アルバムに話を戻して、先ほど自分の色を出すのは2%の領域だというお話がありましたが、ご自身では特にどんな部分にそれが出ていると思いますか?

さかいゆう:自分で言うのも野暮かもしれませんが、歌に関してはけっこう成長が見られるかなと思います。物理的に鼻から上というか、頭しか使っていなかった時期があるんですけど、最近は体全体を使えているなって。声の表情もより出るようになったし、「トウキョーSOUL」なんかは絶対に低音じゃないとダメで。高音も「WALK ON AIR」と「Doki Doki」では全然違うし、「下剋情緒」のAメロなんかではスイングしていたり。そういうバリエーションはすごく意識していますね。

――ボーカルという意味では、最終曲の「ジャスミン」の張りのある歌声もいいですね。

さかいゆう:こういうストーリー性のある曲を歌うときは、淡々と全部歌うものもあっていいと思うんですけど、この曲ではドンドン明るくなっていくのを声色で出していくという演出をしているので、そのあたりも楽しめるんじゃないかなって。あえて最初だけうつむきながら歌っているんですよ。だからサビのアタマ、1番の<めくるめく>と2番の<めくるめく>では、口角の上がり方から違うし、最後はもうシャウトですよね。そういう演出で、自分の中でのストーリーを伝えていて。面白いから説明しましたけど、本当は曲を聴いて気づいてもらうのが1番いいなって。

――さかいさんは音楽を冷静に捉えて、分析されていると思うんですけど、実際に作品として表現されると、とてもチアフルで聞き手をワクワクさせるものに仕上がってますね。ご自身ではそうした資質をどう捉えていますか?

さかいゆう:“伝えたいもの”として言葉になる前に、やっぱり感情の塊があるんですよね。自分でもなかなか言葉にできなくていつも困ってしまうんですけど、それを表現するいい言葉があったんですよ。キース・ジャレットが言っている“Ferocious Longing”(獰猛な欲望)という言葉なんですけど、常にそういう強い思いを感じられるヤツっているじゃないですか。歌は下手くそで、全然美声じゃなくても、聴いているとなんか泣けてきたり、トランペットやサックスでも、技術を超えたところで響いてきたり。超一流のミュージシャンって、そうだなと思うんですけど。ポップスでもブルースでもパンクでも、ジャンルみたいなものはあくまで表層的な部分で、その奥に、誰にも頼まれていないのに“こういうものを出したいんだ”という獰猛な欲望がある。それが僕にとっての音楽で、やっぱり衝動みたいなものが伝わっているんじゃないかなって。

――さて、そうして生み出されたアルバムをリスナーにどんなふうに届けたいですか。

さかいゆう:先ほど曲名を挙げていただいたんですけど、意外と初回生産限定盤に入っている「よさこい鳴子踊り」なんかが、自分の最近やりたいことかなと思っているんです。カバーというか、トラディショナルな民謡で、それを自分の言葉で“こんないい曲があるんだぜ”と伝えたかったというか。実は自分の曲もそうなんですよ。あなたの生活のなかでどんな役割になるかは僕にもわからないけれど、こんな曲ができたよ、って。これは武井壮さんをイメージした「SO RUN」を作ってから、カッコつけず、正直に言えるようになったことなんですけど、このアルバムを聴いて好きになってくれる人たちがいて、そういう人の輪が広がっていけば一番うれしいですね。そうなれば、自分を商品にして、自分が売れることで、いろんな人がハッピーになる。それが、エンターテイメントをやっていてよかったな、と思える瞬間なんです。

(取材=神谷弘一/構成=橋川良寛)

■リリース情報
『4YU』
発売:2016年2月3日
初回生産限定盤:(CD+CD) ※カバーCD「さかいゆうCOVER COLLECTION」付属
¥3,611(税抜)
通常盤:(CD)
¥3,000(税抜)
【DISC 1 (初回生産限定盤・通常盤 共通)】
M1.SO RUN
M2.Doki Doki
M3.WALK ON AIR
M4.下剋情緒
M5.あるギタリストの恋
M6.愛は急がず -Oh Girl-
M7.サマーアゲイン
M8.SELFISH JUSTICE
M9.トウキョーSOUL
M10.愛は微熱
M11.ジャスミン

【DISC2「さかいゆうCOVER COLLECTION」(初回生産限定盤のみ)】
M1.つつみ込むように… (MISIA)
M2.今夜はブギーバック(NICE VOCAL) (小沢健二 featuring スチャダラパー)
M3.ACROSS THE UNIVERSE (THE BEATLES)
M4.One more time,One more chance (山崎まさよし)
M5.遠く遠く (槇原敬之)
M6.The Stranger (Billy Joel)
M7.接吻 (ORIGINAL LOVE)
M8.よさこい鳴子踊り (高知県民謡)
M9.What's Going On(LIVE at Billboard Live) (Donny Hathaway ※原曲Marvin Gaye)
M10.PAPER DOLL(LIVE at Billboard Live) (山下達郎)
※()内はオリジナルアーティスト

■ライブ情報
「さかいゆう TOUR2016 “4YU”」
6月17日(金) 札幌cube garden
6月21日(火) 愛知名古屋CLUB QUATTRO
6月28日(火) 高知X-Pt
6月29日(水) 大阪Zepp Namba
7月1日(金) 福岡DRUM Be-1
7月3日(日) 東京昭和女子大学人見記念講堂

■オフィシャルHP
http://www.office-augusta.com/sakaiyu/

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