2015年『NHK紅白歌合戦』の注目ポイントは「戦後70年」「アニソン」「80年代アイドル」

 つまり、1960年代から1970年代の歌謡曲全盛期の楽曲が多いのが、今回の選曲の特徴だ。そこには、高度経済成長を達成し、豊かさを実現した戦後日本を振り返ろうという意図が感じられる。

 戦後と歌という意味では、美輪明宏の『ヨイトマケの唄』(1965)が2012年に続いて再度歌われることも忘れてはならないだろう。前回美輪の初出場時に大きな反響を呼んだこの曲は、そうした豊かさを実現する裏で多くの日本人が味わった苦労の歴史、戦後日本の心象風景を歌ったものだからだ。

 その美輪は10歳の時に長崎で原爆によって被爆したことでも知られる。そして今年は、同じ長崎出身のMISIAが「戦後70年 紅組特別企画」として、平和への思いをこめて故郷・長崎からの中継で『オルフェンズの涙』(2015)を歌うことになっている。

 ここで興味深いのは、この『オルフェンズの涙』が、現在放送中のアニメ『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』のエンディングテーマ、いわゆるアニソンであることだ。
 今年のもうひとつの注目ポイントは、その「アニソン」である。

 実は今年は放送開始90年という節目でもある。「戦後70年」と「放送90年」、その二つを記念するスペシャルコーナーとして企画されたのが「アニメ紅白」だ(http://www.nhk.or.jp/kouhaku/topics/topic_151218a.html)。井ノ原快彦と綾瀬はるかに加え、アニメキャラクターの「まる子」(『ちびまる子ちゃん』)と「ウィスパー」(『妖怪ウォッチ』)が司会を務める。そして出場歌手が歌う有名アニソンをアニメキャラクターたちが応援する。「2次元」と「3次元」の融合というわけである。

 そのコンセプトは、初出場で話題の声優ユニットμ’sにも通じる。本番で歌う『それは僕たちの奇跡』(2014)は、アニメ『ラブライブ!』のオープニングテーマ。「μ’s」とは、元々アニメの中に登場するアイドルグループの名前でもある。『それは僕たちの奇跡』は、そのメンバーを演じる声優がそれぞれのキャラクター名で歌う「キャラソン」と呼ばれるものだ。そうした彼女たちは、「2次元」と「3次元」の中間にある存在という意味で「2.5次元」とも呼ばれる。

 同じ「2.5次元」的要素は、特別企画で久々に『紅白』に登場する小林幸子にも当てはまるはずだ。

 今回小林幸子が歌うのは、ボーカロイド・初音ミクのために作られたボカロ曲『千本桜』(2011)である。小林は近年、ニコニコ動画にボカロ曲をカバーした「歌ってみた」動画を投稿し、その意外性もあって人気を博している。だが一聴してわかるように、そこには単なる話題先行にはとどまらない歌の魅力が感じられる。一昨年の北島三郎、そして今年の森進一の「卒業」とともに演歌の世代交代も始まりつつあるが、ネット文化と演歌をつなぐ現在の小林の立ち位置は、今後の演歌、ひいては流行歌を考えるうえで示唆に富んでいるように思う。

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