レジーのJ−POP鳥瞰図 第7回
星野源と山口一郎ーー音楽シーンに風穴を開ける、それぞれのやり方
傑作『YELLOW DANCER』を生み出した星野源の2015年
12月2日にリリースされる星野源のニューアルバム『YELLOW DANCER』。端的に言って、このアルバムは「やばい」。本人の資質と時代の流れが合致したポイントのみで作ることができる唯一無二の作品となっている。
ダフト・パンク「Get Lucky」からファレル・ウィリアムス「Happy」に連なるオーガニックなソウルミュージックの復権、ディアンジェロの復活に代表されるネオソウルの再燃、マーク・ロンソン「Uptown Funk」の爆発的なヒットなど、広義のブラックミュージックが世界中でトレンドとなっている昨今の情勢を追い風にして星野源は『YELLOW DANCER』で自身の内に秘めた「黒い要素」を全面解禁した。「桜の森」における有機的なグルーヴ、マイケル・ジャクソンへのオマージュに溢れた「SUN」、星野源流ネオソウルとも言えそうな「Snow Men」など、既発曲で継続的に行われていた黒人音楽へのアプローチが本作を通じてますます深化を遂げている。
さらにこの作品の独自性を強めているのが、タイトルにも冠されている「イエロー=黄色い要素」、つまり日本人としての感性の掛け合わせである。単に黒人音楽を真似るのではなく、それを日本で響くポップミュージックとして落とし込むということ。古くは久保田利伸やDreams Come Trueが行ってきたこの取り組みは、言ってみれば「J-POPの歴史そのもの」と言い換えることができる。星野源自身がインタビューで彼らの名前を挙げていたが、本作収録の「Week End」で展開されるキラキラしたムードにはそんなJ-POPの歴史を鮮やかに更新するような魅力がある。加えて、「J-POP的な日本らしさ」のみならず、日本人の根源にある郷愁に訴えかける「ミスユー」のような楽曲までもがナチュラルに併存している。
その他にもシュガーベイブの同名曲との関係を深読みしたくなる「Down Town」やエンドロールのように響く「Friend Ship」など『YELLOW DANCER』というアルバムの魅力はまだまだ語りつくせないが、ここではこの作品を生み出す過程において星野源という音楽家が並行して何をしていたのかに着目したい。
2015年4月から9月にかけて、NHKのコント番組「LIFE!〜人生に捧げるコント〜」にレギュラー出演。8月に関ジャニ∞の番組「関ジャム∞完全燃Show」で同世代でもある関ジャニ∞のメンバーと共演。10月からはTBSの連続ドラマ「コウノドリ」に綾野剛とともに出演。それに付随して、「オールスター感謝祭」「A-studio」「新チューボーですよ!」「ゴロウ・デラックス」「王様のブランチ」といったTBSのバラエティ番組に大挙出演。
『YELLOW DANCER』は、「コウノドリ」の収録の合間を縫ってレコーディングが進められていたことが明かされている。今年の星野源は、時代を代表するようなアルバムを作る傍らで「テレビスター」としても輝きを見せていた。ミュージシャンとしてだけでなく俳優や文筆家としてもすでに評価を得ているにもかかわらず今度は「芸能」の世界で爪痕を残そうとしている貪欲さには圧倒されるが、クレージーキャッツをリスペクトする彼にとってこの動きは当然のことかのかもしれない。「ミュージシャンとしての才能を見せつけながらテレビではたびたびおどけた姿を見せる」という観点においては桑田佳祐の姿とも重なるような気もする。