星野源がエンターテイナーである理由ーー『SUN』の音楽的アプローチから読み解く

150528_h_a.jpg

 

 復活を遂げて以降の星野源は、ポップスと戯れる姿が以前にも増して楽しそうだ。特に際立つのがブラック・ミュージック&ダンスミュージックの偏愛ぶりで、それは約1年前にリリースされたシングル『Crazy Crazy/桜の森』にも色濃く反映されていた。往年のディスコ・クラシックを想起させる「桜の森」もさることながら、同シングルに収められた「Night Troop」ではディアンジェロを意識したかのような、ネオソウルにアプローチしており、飽くなき向上心に驚かされたものだ。シーンの移ろいを敏感に察知しているのかもしれないが、そこに計算めいたものは微塵も感じさせない。人懐っこい自然体のキャラと、あくまで矛盾しない形で表現を拡張してみせる。その活動姿勢は理想的だと心から思う。

 そういった直近の動きを把握していても、今回届けられた8枚目のシングル『SUN』には実に驚かされた。キャッチーな要素がてんこ盛りで、イントロからサビに至るまでフックのオンパレード。目下の最新アルバム『Stranger』(2013年)以降のハイテンションなシングル群と比較しても、ちょっとラジカルすぎるのではないかと思うぐらいで、この極まった完成度はひとつの到達点といえるのではないか。“ディスコ・ミュージックの今日的アップデート”という観点でも、ブルーノ・マーズ「Treasure」やキンブラ「Miracle」辺りともタメを張る出色の内容で、マッシュルームヘアに統一された女子たち(みんな可愛い)と躍るMVも楽しくってしょうがない。

 “Hey J”と呼びかけるなど、「SUN」にはマイケル・ジャクソンへのリスペクトも込められているという。そういった影響面をサウンドから辿ると、真っ先に思い浮かぶのは星野の愛聴盤でもあるMJの『Off The Wall』。そこからクインシー・ジョーンズ経由でディスコを浴びるもよし、朗々と響くストリングスからフィリー・ソウルを振り返るもよし。レギュラー的存在となった若きファンク・マスター、ハマ・オカモト(OKAMOTO'S)のベースも躍動的なグルーヴに貢献しているが、現在の作風を考えれば彼のプレイはもはや欠かせないだろう。

 古典のエッセンスをうまく消化する一方で、エレクトロ調のイントロにも唸らされた。この信号音みたいなアナログ・シンセ音が再生後に鳴り響くことで、「SUN」という曲は(オマージュという名の焼き直しではなく)「同時代のポップス」としての説得力をグッと増しているのではないか。もっと正直にいえば、バンドの生演奏を軸としながら、エレクトロニックな質感も伴ったモダンで軽妙なプロダクションを耳にして、MJというよりはフレンチ・ハウスみたいだとも思ったりした。そういったハイブリッドなセンスが、「J-POPらしさ」を担保しているのだろう。アナログ・シンセの音色は曲中のアクセントとして大いに機能しているが、これはジム・オルークとの共演などでもお馴染みの石橋英子によるもの。さらに、星野の得意技である「陽気だけど少し狂った感じ」のストリングスは今回も極上に冴え渡っている。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アーティスト分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる