レジーのJ−POP鳥瞰図 第7回
星野源と山口一郎ーー音楽シーンに風穴を開ける、それぞれのやり方
アジテーターとしての役割を引き受け始めた山口一郎
クレージーキャッツのハナ肇には「ドリフターズのメンバーの芸名をつけた」という逸話があるが、日本のお笑いにおける歴史的な存在であるドリフターズを意外な形で引用したのがサカナクションである。「新宝島」のPVはテレビ番組「ドリフ大爆笑」のオープニングのオマージュとなっており、先日出演した「ミュージックステーション」においても同様の演出を披露して話題となった。
久々のシングル曲となる「新宝島」は映画「バクマン。」の主題歌であり、そんなビッグタイアップにふさわしい「これぞサカナクション」という楽曲となっている。ロックでもありダンスミュージックでもあるトラックにオリエンタルなメロディが乗ったこの曲は、まさに彼らが支持を獲得してきた源泉をストレートに表現したものと言える。
一方で、サカナクションの中心人物である山口一郎はここ最近において「サカナクションらしさ」にとどまらない(もしくは「サカナクションらしさ」という概念を拡張するような)取り組みを定期的に行っている。最も象徴的な動きが、レーベル<NF Records>の設立とイベント『NF』の立ち上げ。『NF』にはライブ演出を手掛けるRhizomatiksの真鍋大度や「パリコレクション」の音楽を一緒に制作したAOKItakamasaなどを招聘し、新しい音楽の楽しみ方を伝えようとしている。
これまでも山口は自身のラジオ番組でリスナーの音楽に関する意識を啓蒙するようなことを行ってきており、『NF』はそれらをより立体化させたものとも言えるかもしれない。そのような新たなアクションを起こす中で、自身の発言もより尖ったものになってきている。
「どんどん美しい音楽がアナーキーな存在になっていっている。そういう美しいものがアナーキーになっていくことって文化の衰退につながっていく気がするんです。で、それをなんとか救い上げなきゃいけないのがメディア側のハズなのに、メディア側からはそういう気配が見えなくて」(2015/10/29 Spincoaster「山口一郎(サカナクション)から見る、2015年の音楽と音楽のこれから」http://spincoaster.com/interview_yamaguchi_ichiro_1)
「もっと音楽のことを知ってもらいたいし、音楽の遊び方を増やしたいし、未来の音楽に嫉妬したいんですよ。このままだと自分も音楽から離れていっちゃうんで。そうじゃなくて、音楽の名のもとにいろんなカルチャーが集まってくるっていう現象をもう1回取り戻したい」(MUSICA2015年8月号)
時代に警鐘を鳴らし、その先のあるべき姿を提示しようとする発言の数々には、優れた音楽家であると同時に時代の先を見通すビジョナリーとしての資質を持った彼が発するからこその迫力がある。単に思ったことを言うだけではない、より多くの人を先導していこうというエネルギーが今の山口一郎にはみなぎっているように思える。