奥田民生がリスナーの心を掴んで離さない理由は? 楽曲に仕掛けられた“つかみ所のなさ”を分析

PUFFY 『サーキットの娘』

 他アーティストに楽曲提供をする際、自らの音楽的特徴をここぞとばかりに投入した楽曲を書くアーティストは多いが、奥田民生もその一人。特にPUFFYは彼にとって“絶好の遊び場”だったようで、もはやパロディとも言えるようなビートルズの引用、浮遊感たっぷりのメロディ、ヒネリの効いたコード進行が次々と投入されている。中でも「サーキットの娘」は“狂ってる”と言いたくなるくらい不思議な曲で、最初に聴いた時、頭の中にでっかいクエスチョンマークが浮かんだのを今もハッキリと覚えている。

 まずイントロは、コードがG6。ベースラインは、いうまでもなくビートルズ「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」からの引用だ。Aメロ前半でG6-Gdim-Am7と進み、ここでも「いかに早い段階で聴き手をハッとさせるか?」の法則が働いている。Aメロの後半は、1回目がD-Daug-G6/E♭D7、2回目がD-B7-Em-Emとなる。Aメロ前半のGdimと後半2回目のB7は、それぞれ次のコードに対するセカンダリー・ドミナントコードの役割を担っている、とも取れるだろう。ちなみにメロディは、レとミの2音だけで構成されており、目まぐるしく変わるコードの中で響きが変化していく。

 Bメロ前半はDm7-Cmaj7-Gm7-Dm7。はい、ここでもドミナントマイナーが出てきた。続くCmajをトニックとしたハ調へと解決したようにも聞こえる。それもつかの間、再びそのドミナントマイナーとなるGm7が登場し、Fをキーとしたヘ調のVImへと移行したようだ。Bメロ後半は、Fm7-E♭maj7-Dm7-G7-C。ここも前半と同様、ドミナントマイナーを使ってキーがE♭になり、最後はツーファイブ(Dm7-G)でCへと解決する。得意の「のらりくらり進行」である。

 サビになると、Cに移調したままトニックコードが8小節続く。後半は、F-Fm-C-A7-Dm7-G7-Cmaj7--Bm7-E7。Fmはサブドミナント・マイナー(「コーヒー」のAメロと同じ)で、A7はDm7に対するセカンダリー・ドミナント、そしてツーファイブ(Dm7-G7)でCmaj7に解決。普通ならここでサビは終わり、間奏へと進んでいいはずなのに、オマケのようにBm7-E7がくっついている。これが、先ほど述べた「でっかいクエスチョンマーク」の原因。Amに解決するわけでもなく、ここからまたイントロのG6に戻るので、どうにも座り心地が悪く、最初に聞いたときは気持ち悪くて仕方がなかった。が、この奇妙な展開が楽曲全体の強烈なフックになっていて、「サーキットの娘」といえばこの部分を聞かずにはいられなくなってしまうのだ。ちなみに直前のCmaj7の部分、「私の所へ~」と歌うメロも、伸ばしているシの音がメジャー7thとなっていて、なんとも言えぬ浮遊感……というか、お尻がムズムズするような感覚になる。

 以上、奥田民生が書いた3曲を紹介しつつ、ソングライティングの魅力に迫ってみた。彼の楽曲には「おや?」と思わせる不思議なトラップが随所に仕掛けてあって、それが聴き手の心を掴んで離さないのだと思う。

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。

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