2ndアルバム『POSITIVE』リリースインタビュー
tofubeatsが幅広い音楽ジャンルを横断する理由「自分が変化するのを見て、自分自身が楽しい」
「近田春夫さんが『考えるヒット』で言ってたことが構造の面でできた」
――6曲目の「Throw Your Laptop On The Fire Feat. 小室哲哉」は、ガバ・トランス・テクノと様々な要素が合わさっていて、tofubeatsさんと小室さんの担当領域がなかなか分かりづらかったです。
tofubeats:実はこの曲、もともと僕がデモを作って返してもらうはずだったのですが、小室さんが先んじて「こんな感じが合うと思うんだよね」とデモを送ってくださって。それをこっちで弄って、okadadaさんのシャウトを入れたことで、さらに面白くなっていったし、僕自身もかなり好きな曲です。なんというか、EDMでもなければエクスペリメンタルでもない、かといってプロディジーみたいな音かと言われたら、それは部分でしかないという“聴いたことない感”がすごいんですよ。
――異形だと思いますよ。5曲のアイディアが1曲に凝縮されている感じというか。
tofubeats:近田春夫さんが『考えるヒット』(週刊文春/文藝春秋)で「後世に残るヒット曲の歌詞には、それまで使われてなかった単語が入っている」と言っているようなことが、構造の面でできたんじゃないかなと。デモはもちろん小室サウンドだったので、どうこちらのフィールドに寄せるかを考えたし、最初は自分が歌う心づもりでいたのですが、結果的にインストになったこと自体も面白かった。
――密度的にもここに歌がどう入るのか? という印象ですが……。
tofubeats:歌も載せられたと思うのですが、そこにokadadaさんのラガボイスが乗るわけですよ(笑)。okadadaさんからあの声素材を貰った時点で面白スイッチが入ってしまって、小室さんも笑ってくれたので良しとしました。小室さんは笑いつつも「緻密にやってくれてありがとう」とレスポンスをくれたので、「把握するスピードが異常に早いな、やっぱすごいな」と思いましたね。
――あと、今回の作品で特徴的だといえるのが、「I know you」のようなピアノ音源を多用する楽曲が増えたことだと思うのですが。
tofubeats:意図的に多くしたわけじゃないから、言われないとわからないんですよ(笑)。でも、その原因はわかっていて、宇多田ヒカルさんの仕事(『宇多田ヒカルのうた -13組の音楽家による13の解釈について-』に「Time Will Tell (feat. BONNIE PINK)」で参加)をしたとき、ファン目線で担当のディレクターさんに色々と質問攻めをしたんです(笑)。そのなかで「宇多田はこういう音源を使っていたよ」と、『Ivory』の存在を教えてもらって。速攻で『Ivory II Grand Piano』を買って、「これが宇多田ピアノかー!」と弾き倒していたら『別の人間 feat.中納良恵(EGO-WRAPPIN’)』ができた。重たい音ではあるので、あまり多用できないんですけど、その名残がアルバムに残っているのかもしれません。
――そこから地続きだったんですね。
tofubeats:やっぱりその時に興味あるものが音として残るんですよね。自分が曲をストックしないのもそういう理由で。後から聴いたりして、こうやって言われて初めてわかることもあるので。「20140803」みたいに年を言ったりするのもその流れですが、こっちはヒップホップの影響もあります。
――なるほど。「本物のピアノの音でもないのにピアノとされているその感じがなんかいいのかな」(https://twitter.com/tofubeats/status/594500313496752128)なんてツイートもありましたが、生ピアノと打ち込みピアノの差異に悩まされたりはしたのでしょうか。
tofubeats:僕はピアノが弾けないので、打ち込みで作っているうえ、ペダルワークも実際に踏んでいるわけではないんです。強さも後で調整したりして、“偽ピアノの良さ”みたいなものを出しているのですが、そもそも僕らの聴いている音楽のうち、半分以上は生ピアノじゃないと思うわけで。だから「どこからが音源で、どこまでが生音やねん」という面白さもあるし、実際に今回の楽曲では生のピアノに差し替えるという話もありましたけど、“偽ピアノとマジな歌”という組み合わせのほうが、テーマ性として合ってるかなという判断で。
――確かに、あれで生ピアノになってしまうと、tofubeatsらしさは消えてしまう気がします。もともとビートのあまり強い曲ではないですからね。
tofubeats:まあでも、そのうち生ピアノも使えるようになる未来が来るかもしれないですから。だからこそ今そういう組み合わせをやっといたほうが良いというか、この段階で生ピアノを使うのはもったいないかなと(笑)。あとはリズムボックスという“甘え”を排除したかったから。
――それを甘えと取るのはすごいですね。普通は得意な領分で勝負して、専門領域じゃないものに関しては避けてしまいがちですが。
tofubeats:まだ、自分にある伸びしろみたいなものを全く開拓できていないような気がして。メジャーのフィールドでやれているとはいえ、やっぱり自分が変化するのを見て、自分自身が楽しいんです。
――tofubeatsが生ピアノを使う未来は、ぜひどこかで見てみたいです(笑)。続く「Without U feat. Skylar Spence」は、彼が<Carpark Records>に移籍した以降の音に近い作りに聴こえました。
tofubeats:そこは何となく「こうしたいのかな」と思ってデモを送った部分もあります。でも、元々この曲で使っているトラックは『First Album』の時に作っていて、入れたかったけど日本語でサビが乗らないから寝かせていて。歌詞に関してはノーディレクションで通しました。彼からは全く重なってない男気一本のボーカルデータが届いたので、そのあたりはコーラスをこちらで作って、メロダインを掛けて…とリビルドしましたね。この曲は田中さんのマスタリングとすごく相性が良かった。あと、この曲でやりたかったのは、Breakbotの「Fantasy」みたいなことで。あれは本当にサンプリングを使っているけど、こっちはフレーズをしっかり作って、それをサンプリングして、“サンプリングっぽい質感”の曲ができた。手法だけは『STAKEHOLDER』で試していて、その元となった曲が今回成仏してくれたんです。
――毎度ではありますが、過去のデモをしっかり最新作で成仏させているのはなぜでしょう?
tofubeats:基本的にボツにはあまりしたくないタイプで。ワンフレーズだけでも活かしたいし、手間をかけたものはなるべく捨てたくないんですよね。