クリープハイプとゲスの極み乙女。が提示した、ロックバンドの未来形とは? それぞれの新曲から考察

2013年のロックバンドシーン 意図した戦略、意図しない狂騒

 「フェスロック」という現象に関して個人的に忘れられないのが、2013年のROCK IN JAPAN FES.でのクリープハイプのステージである。同じタイミングで沸き起こる手拍子やジャンプ、至るところで生まれるサークルモッシュ、お約束の掛け声。好きな楽曲は多かったがバンドの周辺情報をそこまで知らなかった自分にとって、フェスにおけるオーディエンスの典型的な反応が全て詰め込まれたかのようなこの日の光景はなかなか衝撃だった。

 ただ、そういったシチュエーションを経たうえで当時のクリープハイプの楽曲やパフォーマンスを思い返してみると、彼らの楽曲にはフェスの場で機能する仕掛けが多数施されていることが確認できる。疾走感が印象的な「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」やサビのアウフタクトが手を上げるのにぴったりな「ラブホテル」はライブで盛り上がるというシーンに最適化されているし、「社会の窓」の自己言及的な歌詞はハイコンテクストであるがゆえにファン同士もしくはファンとバンドの絆をより強固なものにする役割を果たしている。「HE IS MINE」においてオーディエンスが「セックスしよう」と叫ぶまでの尾崎世界観の煽りも、ライブの参加者にとってはその場限りの貴重な体験として記憶されるだろう。クリープハイプには、フェスの場で求められる気持ちよさの「ツボ」を的確に押すことのできる巧妙さが備わっていた。

 一方、同じく2013年の年末、ゲスの極み乙女。の川谷絵音はアルバム『踊れないなら、ゲスになってしまえよ』に関連してこんな発言をしている。

 「最近のロック・シーンはロックがロックとして機能していないというか、4つ打ちをやればいいみたいなムードがあって。あまりに中身のない4つ打ちが飽和してるなと感じていて。だから俺らもあえて4つ打ちをやってるんですけど、ほかとは全然違うというところを示したい」(2013年12月5日 WHAT’s IN? WEB ゲスの極み乙女。インタビューより)

 『踊れないなら、ゲスになってしまえよ』は、「フェスロック」が短絡的に持て囃されるマーケットのムードを明確に踏まえた作品である。「キラーボール」に代表される露悪的なまでにわかりやすく導入された四つ打ちのビートと速射砲のように放たれる言葉、そしてサビで展開される開放感のあるメロディの快楽は、同種のことを正面から志向しているバンドと比較しても群を抜いていた。メンバーのキャラクター作りも含めて、ノリや楽しさを重視する多くのオーディエンスから支持を得た。

 クリープハイプとゲスの極み乙女。、この2つのバンドはいずれも時代の流れと密にシンクロしながら人気を拡大してきた。しかし見方を変えると、彼らの狙いが「はまりすぎてしまった」というのも2013年の状況だったようにも思える。クリープハイプファンのライブマナーに関してSNS上でちょっとした騒ぎがあったのもこの年であり、川谷が「飽和」と指摘した四つ打ちを主体とするバンドはますます増加していった。

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