嵐がジャニーズの後輩に与えた影響 各メンバーの姿勢はどう引き継がれていったか(後篇)

王子と裏方の2つの顔を両立させた松本潤

 すっと通った鼻筋、長いまつげ、凛々しいマユ毛、嵐の中で最も美しいと評されるのは松本だ。その浮世離れした甘いルックスから『金田一少年の事件簿』や『ごくせん』、『バンビーノ!』など、マンガが原作となったドラマで大活躍。とくに、『花より男子』ではドラマアカデミー賞助演男優賞を受賞するなど、まさに当たり役だった。女子なら誰もが夢見る王子様のようなキャラクターを演じることは、ジャニーズとして活躍するすべての後輩の憧れ。しかも、自分らしく個性豊かに演じる松本に、少しでも近づきたいと願う後輩も少なくない。松本と同じく『金田一〜』を主演した山田涼介(Hey!Say!JUMP)もそのひとりだ。

 だが、松本の魅力は端正な顔立ちや抜群のスタイルをだけではない。その外見の美しさを持ちながらも、裏方に徹することができるのだ。嵐としてデビューした次の年からすでにコンサートの構成をプロデュース。全体を俯瞰で見られる能力がずば抜けているのだ。受け身ではなく、自ら発信していくスタイルは後輩たちにも大きな刺激になったはずだ。なかでも、佐藤勝利(Sexy Zone)に近い姿勢を感じる。佐藤も構成や演出を考えることが好きで、これまでもソロコーナーを中心に手がけてきた。グループの中では年下でありながらも、自分の見せたいものに対するこだわりや広い視野でのモノの考え方、先輩たちのステージから多くのアイデアを吸収するスタイルが松本と似ている。

 また、日ごろから嵐としての立ち位置を一歩引いて見ることができるからこそ、相手に応じてギャップのある態度を見せることもできる。気の許せる仲間といるときはアゴが外れるほど大きな口を開けて笑うし、旧知の仲である生田斗真いわく「さみしがりやで、なかなか(飲みの場から)帰りたがらない」という話もテレビで暴露されてしまうのもいい例だ。

 さらに、メンバーといるときは末っ子らしい甘えんぼうな一面も持ち合わせており、真面目で気を使いすぎた結果、少し天然なところもある。そんな完璧を想像させる外見とは裏腹に、甘えんぼうで人間味あふれる一面があるのが、ファンには嬉しいうれしいギャップなのだ。山田も松本同様、容姿端麗の美青年だが、メンバーから「カッコつけすぎ」、「やることが普通」などツッコまれるところがある。また休日にもメンバーと遊びに行くことも多く、さみしがりやなパーソナルな部分も通じるものがあり松本を目指しているというのもうなずけるところ。

 ヒーロー役をこなす王道のイケメンでありながらも、裏方の仕事に徹したり、人間らしい部分を見せているところは、グループを背負って立つポジションの後輩たちにとって目標となっているのだ。

グループ愛という魅力を確立させた嵐

 嵐の5人はデビューからメンバーがひとりも脱退することなく、ともに成長してきたグループ。しかも、メディアへ露出する頻度や歌うパートなど仕事量に対する格差もない。全員が対等な立場で意見を言い合える自然な付き合いがジャニーズでは珍しい特徴だ。たとえば、5人の中からランダムに2人ずつの組み合わせをしても、それぞれの関係性が成立している。いざこざや不仲とは無縁だ。「ツアー先で一緒にお風呂に入ることも珍しくない」など、舞台裏でもメンバー間の仲睦まじさを感じさせるエピソードが豊富。さらに、どの時代を切り取ってもその絆が壊れたことがないので、ファンとともにその歴史を笑顔で振り返れるのだ。

 嵐は、現在のような人気が出るまでデビューのあと少し時間がかかった。コンサート会場のセットが、後輩のNEWSやKAT-TUNに比べて、お金がかかってないと嘲笑された時期もあったのだ。そんな苦労した時代をメンバーで支え合いながらじっと耐え、コツコツと仕事に向き合ってきた。その姿勢は、関ジャニ∞の今の成功に通じるものがある。共通していえるのは、目の前の増えていくファンを大事に思い、それぞれの個性は活かしつつメンバー愛を持ってグループ活動を続けてきたことだ。

 若くてフレッシュな少年の輝きが最善とされてきた芸能界に、メンバーとファンが愛情を積み重ね大器晩成型アイドルとして売れたのが嵐という革命だ。ジャニーズを応援するファンにとって、グループに注ぐ愛は自分自身もその中にいるような感覚に近い。コンサートで過ごした時間、雑誌やラジオで日々存在を感じながら季節が巡っていく。だからこそ、グループの雰囲気が良ければ、そのメンバーと過ごす楽しい時間がファンにとっても倍増するのだ。メンバー同士の仲が良いこと、グループとしての結束力が強いこと。それは、ファンにとっても繋がりを深く感じられる大切なバロメーターになる。そんなグループのあり方を後輩に示したのではないだろうか。

 メンバーの成長、さらに深まるグループ愛という末永く見守っていく楽しみがあるからこそ、嵐は老若男女問わず多くのファンに、そして多くの後輩たちにも愛されているのだ。

(文=佐藤結衣)

■書籍情報
『嵐はなぜ史上最強のエンタメ集団になったか』
リアルサウンド編集部・篇
価格:¥ 1,500(+税)
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内容紹介:ごく普通の青年たちがエンタメ界のトップに君臨したのはなぜか? 音楽性、演技・バラエティ、キャラクター、パフォーマンス…… 時代が嵐を求めた理由を、4つの視点から読み解いた最強の嵐本! 嵐の音楽はポップ・ミュージックとしてどんな可能性を持っている? 現代思想で読み解く各メンバーのキャラクターとは? 嵐ドラマは00年代の情景をどう描いてきた? 青井サンマ、柴那典、関修、田幸和歌子、成馬零一、矢野利裕など、気鋭の評論家・ライターが“エンターテイナーとしての嵐”を語り尽くす。総合音楽情報サイト『リアルサウンド』から生まれた、まったく新しい嵐エンタメ読本。

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