山下智久『アルジャーノンに花束を』で再注目 野島伸司ドラマの“劇中歌”を読み解く

 一方、野島は作詞も多く手掛けている。一番有名なのは、SMAPの「らいおんハート」だろう。元々は、野島が企画を務めた草なぎ剛主演の『フードファイト』(日本テレビ系)の主題歌だったのだが、直後に木村拓哉が工藤静香と結婚したことや、総理大臣に就任した小泉純一郎が発行していたメールマガジンが「らいおんはーと」だったこともあり、後に神格化されていった一曲だ。

 そして現在、野島の作詞力がもっとも発揮されているのが、日本テレビ系で放送されている深夜ドラマだ。

 交通事故で死んだ父親の魂が息子の中に入りこみ高校生活をやりなおすドラマ『49』は、いつになく肩の力を抜いた青春ドラマとなっていた。挿入歌の「私のオキテ」は、佐藤勝利(Sexy Zone)演じる主人公が劇中で参加することになる女装アイドルグループ・チキンバスケッツが歌っているという設定だが、野島伸司が作詞を担当している。

 ハムスターと飼い主の関係を年上女性との恋愛に見立てたユーロビート調の歌で「時間かけて手にしたパンならば ハムスターのようにチュチュッ食べたいの」「私のオキテに背いたら オカワリはあげない」といった歌詞がいちいちおかしい。

 そして先日、最終回を迎えた『お兄ちゃん、ガチャ』となると、とうとうここまで来たのか!? と驚かされる。

 本作は10歳の少女が理想のお兄ちゃんを見つけるために、お兄ちゃんが出てくるガチャガチャを回すという、何だかよくわからないドラマなのだが、「ガチャ ガチャ お兄ちゃん ガチャ ガチャ お兄ちゃん」というサビからはじまる挿入歌「お兄ちゃん、ガチャ」は、作詞家名は表記されていないが、この狂った歌詞は、おそらく野島伸司だろう。

 「お兄ちゃん よりどりみどりで迷っちゃう」という歌詞からもわかるとおり、野島がこだわり続けてきた無垢なる少年の魂が、ガチャによって、商品として使い捨てにされる世界観をみていると『未成年』からはるか遠くに来たものだ。と感慨深くなる。

 作詞家・野島伸司には、まだまだ前人未到の可能性がありそうだ。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

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