ヒップホップとヤンキーはどう交差してきたか? 映画『TOKYO TRIBE』と不良文化史

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井上三太『TOKYO TRIBE2 第1巻 [Kindle版]』(サンタスティック・エンタテインメント)

磯部:園と井上の対談(参考:ナタリー「井上三太×園子温『TOKYO TRIBE』インタビュー」)で「今回ラッパーのキャスティングはすごくヒップホップ愛のある若い子が担当してくれたんですけど、その子と監督が1回現場で揉めたことがあって。“監督、ヒップホップの知識あるんですか? ストリートのことわかってるんですか?”」「監督は“うるせえ! 俺がストリートなんだ!”と怒鳴って、その子を納得させちゃった」というエピソードが紹介されているように、『アナ雪』どころかヒップホップ自体を蹴散らしちゃってるからね……。ただ、出演者したとあるラッパーは、「監督が色々うるさいこと言ってくるから睨んだら、それ以降、何も言わなくなって好きにやれた」って言ってたけど。まぁ、現場ではそんな感じでもメディアではうそぶくというのもまた正しくスワッグなのかもしれない。

 そう言えば、園は主人公がAVのスカウトマンやホストとして活躍するマンガ『新宿スワン』の映画化も手掛けるよね(2015年公開予定)。近作では、埼玉愛犬家連続殺人事件(『冷たい熱帯魚』、2011年)や東電OL殺人事件(『恋の罪』、2011年)をモチーフにしたり、東日本大震災をいち早く取り入れたり(『ヒミズ』、『希望の国』、共に2012年)、現代性に対する興味を露骨に示してきたけど、そこにラップも引っ掛かったんだろうし、『TOKYO TRIBE』では、パンク/ニュー・ウェーヴのミュージシャンが多数出演した石井聰亙『爆裂都市 BURST CITY』(83年)の10年代版がつくりたかったんじゃないかな。ただ、中矢は映画『TOKYO TRIBE』に「90年代臭さはそこまで感じられませんでした」と言うものの、では、今の東京を描けているかと言うとそうも思わなくて。原作がモチーフにしているのも80年代末から90年代頭にかけてのチーム文化全盛期でしょう?

中矢:その辺の背景を簡単に説明してもらってもいいですか?

磯部:5年くらい前に、ヤンキーマンガ雑誌と言われていた『ヤングキング』の増刊号で、チーム文化の歴史を扱った『YOUNG BLOOD~渋谷不良(カリスマ)少年20年史』(少年画報社、09年)という本の仕事をしたことがあったんだよね。その打ち合わせで編集者から企画を説明された時に「今どき、そんな本を買うひといるんですか?」って訊いたら、「いや、今、地方でチーマー本がすごく売れるんですよ」という答えが返ってきて。2ちゃんねるのアウトロー板なんかを拠点に、「あいつが強かった」「いや、実はあいつの方が強かった」みたいな昔話に留まらず、「あいつとあいつを戦わせたらどうなるか」って格闘技の架空のカードみたいなものを妄想するのが流行っているので、そのガイドになるような本にしたかったらしい(笑)。

 『YOUNG BLOOD』は、当初、3部作になる予定で、第1弾は先程も言ったようなチーム文化全盛期から、90年代後半のイベサー(イベント・サークル)ブームまでを取り上げている。第2弾は“カルチャー編”と題して、チームやイベサーと接点の合ったミュージシャンや格闘家に取材。そして、第3弾ではチーム文化がメディアに取り上げられたことによって、90年代後半、地方に広がっていった過程を取材する予定だったんだけど、ケツ持ちがいなくなってボシャってしまった。ちゃんと3部作として完結したらチーム文化を総合的に取材した重要な本になったと思うから残念だよ。第1弾と第2弾も絶版で、amazonでは結構な値段が付いてしまっているし。

 ちなみに、『YOUNG BLOOD』にはかなりの数のインタヴューが掲載されているんだけど、「あの喧嘩はあいつが勝った」みたいな話はことごとく意見が割れてる(笑)。そこは、裏の取りようもないので、そのまま載せてしまおうと。ただ、読んでいる内にそのズレから何となく浮かび上がってくる真実のようなものがあるのが面白いんだよね。そういう面白さは、いま、続々と出版されている関東連合本が受け継いでいる気もするな。ヒットした『いびつな絆~関東連合の真実~』(宝島社、2013年)の作者は工藤明夫という偽名を使っていたけど、瓜田純士の『遺書~関東連合崩壊の真実と、ある兄弟の絆~』(太田出版、2014年)を読むとその正体が何となく分かったりとか……現代日本におけるサーガだよね。『TOKYO TRIBE』にしても、さっきのアウトロー板みたいにチーム文化の噂が語り継がれていく内に尾びれ背びれが付いてディストピア・マンガ/映画と化したような印象がある。

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