やいり 『Exchange Variation』リリース記念トーク
新世代のボカロP、やいり×ゆよゆっぺ対談「新しいものが求められ、好きな曲が作れるのがネット音楽」
ボカロクリエイター・やいりが7月30日、メジャーデビューアルバム『Exchange Variation』をリリースした。本作は2011年から動画サイトで発表してきたボーカロイド楽曲を新たにリアレンジ、ミックス、マスタリングし再構築した、やいり集大成ベストとも呼べるアルバム。そこでリアルサウンドでは、やいりの10年来の友人であり、ボカロP、DJとして活躍する、ゆよゆっぺとの対談を実施。ネット音楽の面白さ、新しさや、お互いの魅力について語ってもらった。
「曲を作るミュージシャンとしては、ボーカロイドほど楽しいことはない」(やいり)
――おふたりは、かなり古くからの知り合いなんですよね?
やいり:そうですね。こうして会うのは1年ぶりくらいだけど、知り合ってからは、もう10年くらいになります。
ゆよゆっぺ:地元が一緒なんですよね。茨城県水戸市近辺という。とりあえず、やいりさんに最初に会ったのは、水戸にあるライブハウスの前で。やいりさんがライブハウスから出て来て、「おおっ」みたいな感じで、あいさつしてくれたんですよね。先輩なのに、すごい気さくな感じで(笑)。
やいり:気さくだったかどうかはわからないですけど(笑)。そのライブハウス界隈で、彼は一目置かれていたんですよ。すごい若いやつが現れたって。だから、彼の存在は当然知っていて。
――ということは、2人とも、そのライブハウスに出入りするバンドマンだったということですか?
ゆよゆっぺ:そうですね。僕はエモっぽいバンドのギターヴォーカルをやっていました。
やいり:僕はエモコアのバンドのギターヴォーカルで。
ゆよゆっぺ:そのライブハウスのシーンの中で、いわゆる先輩後輩の関係だったんですよね。で、それから3年くらい時が流れて……。
やいり:その間ずっと、お互いのバンドで、それぞれ好きなことをやっていたんですけど、僕が今後音楽をどうして行くかみたいなことを考え始めて。そのとき、彼がインターネットで音楽をやっているっていう話を聞いて、すぐに電話したんです。僕もそういうのに興味あるから、是非教えてくださいって。それから先輩後輩の関係が逆転したというか(笑)。
――やいりさんは、どうしてインターネット音楽に興味を持ったのですか?
やいり:僕が最初に興味を持ったのは……僕のバンドのレコーディングを、彼にお願いしたことがあったんですね。ヴォーカル・レコーディングとミックスを。で、当時はそういうシーンがあることも知らなかったんですけど、それを録ってもらっているときに、彼がちょうど同人のアルバムを作っていて、そこに歌唱で誘ってもらったんです。で、「あ、そういうのがあるんだ」っていう話になって。だから、ボーカロイドを始めるっていう意識は、最初はあまりなかったかもしれないですね。で、そのあと、ゆっぺさんにいろいろ教えてもらって、自分でもやるようになって……これは面白いなと。
――どのへんが面白かったのですか?
やいり:やっぱり、全部自分で完結できるところですかね。曲を作って編曲をして、ミックス、マスタリングをして投稿すると。全部自分で完結するので、何があっても全部自分の責任だっていうのが楽しいなと思いました。
ゆよゆっぺ:あと、バンドサウンドに同期を混ぜるというか、ピアノとかシンセとか、自分たちのライブでは再現できなかったものが、DTMの中ではいろいろできるわけじゃないですか。考えれば考えるほど、面白いことがたくさんできるっていう。
やいり:確かにそれはあるかもしれないですね。僕もピアノを入れ始めてから、どんどん楽しくなって来たような気がするので。
――バンドのカルチャーとボカロのカルチャーって少し違うような気がしますが、そこは抵抗なく入って行けたのですか?
やいり:僕は抵抗無かったですね。もともとゲームとかも大好きですし、アニメとかも好きですから。むしろ、僕からしたら、抵抗があること自体が不思議だったというか。そもそもバンドって、新しいことをしようとか、他の人と違うことをしようみたいな人の集まりなわけじゃないですか。そう、僕がバンドをやっていて思ったのは、みんなミュージシャンになりたいのか、バンドマンになりたいのかっていうことで……みんな結局、バンドマンになりたいのかなって。
――というと?
やいり:そもそも音楽が好きで、自分でギター弾きたいとか歌いたいってバンドを始めたのに、だんだんバンドをやること自体が楽しくなってきちゃうんですよね。「音楽が好き」から「バンドが好き」に変わっていくというか。僕も実際、そういうのがあったんですけど、それでいいのかなって思い始めて……音楽が好きで始めたんだから、やっぱりミュージシャンになるべきなんじゃないかって。
――なるほど。その考え方からすると、ボーカロイドは飛びついてしかるべきツールであると。
やいり:そうですね。曲を作るミュージシャンとしては、こんなに楽しいことはないですから。ボカロのほうが、自分よりも歌が上手いですしね(笑)。
――2人ともバンドでヴォーカルをやっていたというのは、ちょっと面白いですよね。
ゆよゆっぺ:でも、ヴォーカルだったからこそっていうのも、きっとあると思うんですよね。バンドでヴォーカルをやっていたからこそ、ボカロに歌わせるときの調整とかが、すごい楽だったというか。
やいり:ああ、それはあるかもしれないですね。実際に自分で歌いながら調整していったり。そうすると面白いもので、自分の歌い方に近くなるんですよ。あと、僕は気分的に、女の人の声のほうが好きというか、自分が作る曲は女の人の声向きだなっていうのもあって。それでさらに抵抗なくっていう感じでしたね。
ゆよゆっぺ:あと、ボーカロイドのいいところは、ボーカロイドの声って、ある意味全部同じというか、ひとつの括りの中にあるものじゃないですか。人間が歌うとなると、この人の声はいいとか、ちょっと違うとか、そこで判断されることが多いと思うんですけど、ボーカロイドの楽曲だと、そこでイーブンになるんですよね。イーブンになって、楽曲自体の評価が、ユーザーさんからなされるっていう。
やいり:それは僕も思いますね。作曲している人に光が当たるというか。J-POPの楽曲とかって、どんなに有名な曲でも、それを作曲したのが誰かとか、あまり知られてなかったりするじゃないですか。でも、ボーカロイドの世界は、それをみんなが知っているんですよね。
ゆよゆっぺ:このクリエイターの曲が好きとかそういうのって、J-POPのカルチャーではなかなかないことだと思って。それも、ボーかロイドを続けてしまう理由のひとつですよね。