エビ中 × 村田有希生、9nine × 石井秀仁……アイドルとロックの名コラボを読み解く
AAA × 真島昌利(ザ・クロマニヨンズ)
グループ自体がアイドルという括りではないが、広義の意味においてアイドルとの親和性の高い存在ということで紹介しておきたい。「ハリケーン・リリ、ボストン・マリ」(2006年)は「リリマリ」の略称でファンにも人気の高い夏の定番曲。派手な印象が強いエイベックスのグループの中では、逆に異彩とも言えるシンプルなメロディー。聴いても歌っても心地よいこの歌は、ザ・クロマニヨンズの真島昌利の手によるもの。印象的なタイトルと「UFOのドアが開けばグレッチ、エディ・コクラン」などの不条理な言葉選びのセンスが、いかにもマーシー節といったところだ。
AAAは他に中村中「チューインガム」(2006年)、ANTHEMのギタリスト・清水昭男「DRAGON FIRE」(2005年)など、幅広いアーティストが楽曲提供している。
メロン記念日 × BEAT CRUSADERS
アイドルとロックの結びつきで外せないのはやはり、ハロプロだろう。忘れがちだが、つんく♂はバンドマンだ。事務所には盟友であるギターのはたけも、生粋のロックシンガーである元MAGGIE MAEの中島卓偉もおり、真野恵里菜などに楽曲提供もしている。
メロン記念日は早い段階からモッシュ、ダイヴといったパンキッシュなライブ展開を元に「ロック化計画」という新たな試みに挑戦。BEAT CRUSADERS、ニューロティカ、ザ・コレクターズなど、異色のロックバンドとのコラボシングルをリリース、アルバム『MELON'S NOT DEAD』(2010年)では“楽器を持たない至高のロック・バンド”を具現化している。まだ互いのジャンルに摩擦があり、アイドルがロックフェスに出ることが夢だった時代にBEAT CRUSADERSとフェスでの出演も果たした。ほんの数年前のことだが、それはまさにアイドルブーム前夜のことだった。
Buono! × 西川進
同じくハロプロで、アイドルロックとして欠かせないのはBerryz工房と℃-uteの精鋭メンバーで2007年に結成されたBuono!だ。元々はアニメタイアップの企画として誕生したユニットだが、アニメ終了後も活動は継続された。外部レコード会社による制作であったため、ハロプロ所属ながらもつんく♂が関わっていないのも特徴である。サウンドプロデュースの要となったのは、椎名林檎を始めとするワークスで知られる感情直結型ギタリスト・西川進。ロックをアイドルが歌うというよりも、あくまでアイドルソングのロックアレンジという一貫性のあるスタイル。随所にレッド・ツェッペリンのオマージュが見え隠れする人気曲「ロッタラ ロッタラ」(2008年)を始め、 ブリティッシュ・ロックを愛する西川ワークは遺憾なく発揮され、Buono!におけるサウンドイメージを作ったと言っても良いだろう。パンキッシュなものではなく、アイドルソングに爆音ギターというスタイルは今でこそ珍しいものではないが、当時としてはいち早く体現したものだった。
他にもZYYGの後藤康二やPAMELAHの小澤正澄など、 日本の音楽シーンに大きく関わってきたビーイングのギタリスト作家陣が近年、他社アイドルを手掛け始めてきたのも注目すべきところである。
今回紹介したのはごくごく一部であり、主に楽曲提供・プロデュースに関して触れたが、バックミュージシャンとして携わっている名前を挙げればキリがない。クレジットを眺めれば意外なアーティストが関わっていることがある。それはアイドル楽曲が形式にとらわれない、総合芸術表現であるからこそ獲得し得た自由度であり、ひとつの大きな可能性といえるだろう。
■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログ/twitter