「『あまちゃん』的な価値観が次の時代を作る」中森明夫が示す、能年玲奈と日本の未来

オタクが勝利したのは、人がどう思うかよりも快楽的な方を選んだから

――彼女の天然は演技なのか本気なのか、どちらなんでしょうか?

中森:まあ、天才でしょうね。それと比較すると、「食わず嫌い王」に出ていた有村架純は普通にまっとうですね。すごくかわいかったですけど。能年ちゃんは「芝居をしていなかったら自分は生ゴミだ」なんて言っています。普通じゃないんですよ。特別な才能の持ち主なんだから。

――広末涼子を思い出す、という人も多いですね。

中森:透明感がそう思わせるんでしょうね。ただ、広末は不運だったと思う。彼女はアイドル冬の時代にひとりだけ出てきて、一身に注目を浴びてしまった。2ちゃんねるも写真週刊誌もない吉永小百合の時代とは違う。早稲田大学に入ればみんなに写メを撮られるし、それはたまりませんよ。

 能年玲奈は海女さんの格好をしていると確かに広末涼子に似ているし、長澤まさみに似ているという声もありました。新人がブレイクするときは、かつてのビッグアイドルに似ていると言われるもので、その条件を満たしていますね。ただ、広末涼子、長澤まさみと来たら、伊勢谷友介に注意しないと(笑)。

――最後にもうひとつ、『あまちゃん』についていろいろ話されてきたと思うんですが、好きなシーンはどこですか?

中森:多すぎてひとつは選べませんね。ただ、みんなも言っているけれど、GMTから帰ってきたユイちゃんがアキと喧嘩するシーンは本当にいい。ユイは「アイドルなんてダサい。アイドルを目指していたころの自分を知っている人に会いたくない」と言う。そこでアキは「ダサいのなんて分かってる。ユイと歌うのが楽しいから続けてきた」「ダサいくらいなんだよ、我慢しろよ!」という言葉を返すんです。「オタク」の名付け親がいうのもなんですが、かつてオタクはダサいからとバカにされた。みんなが空気を読むようになって、この20年、特にサブカル系の子たちは美醜に敏感な態度を取ってきた。その中でオタクが勝利したのは、まさに「楽しい方がいい」し、「人がどう思うかよりも快楽的な方を選んだ」からだった。だから、あのシーンは心に響いたし、審美的態度から悦楽的生き方へ――という時代の流れを示しているとも思いました。

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左・岡島紳士氏/右・中森明夫氏

 もうひとつは、最初のお座敷列車のシーンです。アキの先輩で初恋相手の種市浩一(福士蒼汰)がユイとできてしまって、三角関係になった。そんな先輩が上京する、駅のホームでの別れのシーン。アキと先輩は向かい合って「南部ダイバー」を歌う。アキはあくまで後輩として、恋心を持つ女の子の自分を封印して、少年として振るまってみせる。別れた後、こぶしを振りながら列車へ向かうアキの後ろ姿が切なくてたまらなかった。そこには自分の恋仇のユイが、潮騒のメモリーズの仲間として待っている。今度はアイドルとして、女の子として輝く、このドラマの最高の場面を演じる――いや、生きなければならない。能年玲奈はあのシーンを完璧にやりましたよ。宮藤官九郎があれほど切ない女心を繊細に描く作家だと知って驚きました。

――「ダサいくらい我慢しろ」は、僕も一番の台詞だなと思いました。今の世代が感じている、本当にリアルな言葉ですよね。

中森:今の若い人たちはかわいそうなんですよね。「ぼっち」だと思われたくないから、学食のトイレでごはんを食べるなんて話もあるけれど、自分が楽しいかどうかより、空気を読むことばかり考えてしまう。だから、楽しかったらハジケる『あまちゃん』的な価値観が、きっと次の時代を作ってゆくと思いますね。
(インタビュアー=岡島紳士/写真・文=編集部)

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