『四月の永い夢』朝倉あき×中川龍太郎監督が語る、同世代としての共感 「離れていることが美しい」

朝倉あき×中川龍太郎が語る『四月の永い夢』

 第39回モスクワ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞とロシア映画批評家連盟特別表彰をW受賞するという快挙を成し遂げた、映画『四月の永い夢』が5月12日より公開される。3年前に恋人を亡くした27歳の主人公・滝本初海の穏やかな日常が、亡くなった彼からの手紙をきっかけに動き出していく物語だ。

 今回リアルサウンド映画部では、メガホンを取った中川龍太郎監督と、初海役で主演を務めた朝倉あきにインタビューを行った。作品が生まれた背景から、同世代である2人が共感するポイントまで、じっくりと語ってもらった。【インタビューの最後には、サイン入りチェキプレゼント企画あり】

朝倉「初海の中にどうしても自分が出てしまう難しさはあった」

ーー中川監督の親友が亡くなってしまったことから生まれた前作『走れ、絶望に追いつかれない速さで』と今回の『四月の永い夢』には共通性も見いだせますが、そもそもこの作品はどのような背景で生まれたのでしょうか?

中川龍太郎(以下、中川):もともとは素晴らしい役者さんである朝倉あきさんが主人公の映画を撮りたかったんです。最初は、朝倉さん演じる主人公がお蕎麦屋さんを立て直す話を作りたいと思っていて。

朝倉あき(以下、朝倉):それは今初めて聞きました(笑)。

中川:実はそうなんです(笑)。でもそれは前作『走れ、絶望に追いつかれない速さで』の企画の発端にもなった親友が亡くなる前のアイデアでした。彼が亡くなった後で、いろいろな企画や思いが一緒になって最終的に今回の形になったんです。『走れ、絶望に追いつかれない速さで』は、自分にとって距離の近い視点から作りたいという意識があったのに対して、今回は「朝倉さんが主人公の映画を撮る」というのがひとつの大事なテーマでした。なので、姉妹編のようなテーマには見えるかもしれないけれど、自分としては入口が違う企画なんです。

ーー“亡くなった人を巡る物語”という意味では共通していますよね。映画で“死”を描くことに対しての強い意思も感じたのですが。

中川:命のある限りはいろいろなものを撮っていけたらと思うのですが、確かに死がモチーフになるところは変わらないかなと思います。ありきたりですけど、やっぱり死というものがないと、今生きていることの輝きもないわけで。生きているものをそのままの姿で捉えることができるのが映画というメディアのひとつの特質じゃないかと思うんです。サイレント映画とか昔の映画を観ると、死んだ人たちの踊りを観ているような、不思議な気持ちになるんですよね。でも彼らがもうこの世にいないという事実によって、よりいっそう生き生きと見える時がある。映画は死のモチーフと相性がいいのではないでしょうか。演劇は、そこにある命みたいなものをいかにダイレクトに弾けさせるかが重要だけど、映画はいかに未来に残すかも大事で。この作品でも、朝倉さんは変わらず朝倉さんですが、この作品を撮ったときの朝倉さんはもういないわけで。物語の中で直接的に死が描かれていなくても、映画には死が横溢してる。それが自分が映画というメディアの好きなところでもあるんです。

朝倉:私は恥ずかしながらそういうことはあまりちゃんと考えたことがなかったですね。でも確かに、“死”によって、より生命力が感じられるというのは分かる気がします。誰かの死を感じてしまうと、自分もよりエネルギーを持って生きていかなければいけないと思ったり、より自分の生を如実に感じたりしますね。

ーー先日高畑勲監督が逝去され、朝倉さんがかぐや姫の声優を務めた『かぐや姫の物語』が高畑監督の遺作となってしまいましたが、この作品を経験した上で感じることもあったのでは?

朝倉:高畑監督はとてもお世話になった方ですし、このお仕事をしていく上でもたくさんのことを教えていただいた方でした。接する前ももちろんそうでしたし、接してからはなお尊敬できる方になったので、ある意味目標にしてもいいのかなとも思っていたんです。より忘れずにきちんと受け継いでいきたいなと。

中川:一緒にお仕事をした経験のある朝倉さんだから言える言葉ですよね。高畑監督の『おもひでぽろぽろ』のヒロイン(岡島タエ子)の年齢が27歳だったと思うのですが、その影響で今回朝倉さんに演じてもらった初海も27歳にしたんですよ。

朝倉:そうだったんですね!

中川:朝倉さんのことは以前から素晴らしい役者さんだと思っていたんですけど、より一層強い声が際立った『かぐや姫の物語』を観て、自我がはっきりしている声ってすごいなと感じたんですよね。表面的に出てくる知性や落ち着きと声のギャップがすごく魅力的だなと。それを撮りたいというのが自分の中でコンセプトとしてあったんです。ですので、他のキャストの方々は、朝倉さんの声との親和性を意識してキャスティングしたところもあるんです。

ーー朝倉さんは中川監督の思いをどう受け止めましたか?

朝倉:素直にありがたいなと思いました。非常に魅力のあるキャラクターと、とても共感のできる台本だったので、ぜひやりたいなと。そういう気持ちもありつつ、そう思っていただいてもうまくいかないこともあるので、こうやって実現して、今ここに至っていること自体が本当に良かったなと思います。

ーー思いを抱え込んでいる初海はそこまでセリフが多いわけではないので、難しい役どころですよね。

朝倉:意識をしているにしろしていないにしろ結局演じるのは私なので、初海というキャラクターの中にどうしても自分が出てしまう難しさはありました。ただ、監督がイメージしている透明感を大切にしたかったので、声でのお芝居に関してもなるべく自分が混ざらないようにしていました。意識していたわけではありませんが、今振り返ると初海とは少し距離を置こうとしていたように思います。

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